友達
「あと二回引けるよ」
少年は再び抽選箱に手を入れる。
取り出した紙には、〝眠眠打破〟の文字。
またぞろ、小学生には必要のないアイテムだ。
この年齢に、眠さを打破しなくてはならないタイミングなど一切ない。
「最後の一回、引いてみようか」
少年は浮かない表情のまま、抽選箱に手を入れる。
二度の失敗を経験した故、相当入念に中身を混ぜているらしい。
最後に獲得したアイテムは、〝ヘパリーゼ〟だった。
少年は分かりやすく落胆する。
そりゃ、そうだよな。
どんどん子供のニーズから遠退いている。
店員が三つの景品を並べ、袋に入れた。
こういう場合は万人受けする商品にするべきだ。
これ等を欲する年齢層は相当限られてくるじゃないか。
店を出るや否や、少年は早速、メロンパンの袋を開けた。
そして、勢い良くかじりつく。
メロンパンが瞬く間になくなると、次は焼きそばパンに手をつけた。
同様にかじりついていき、ものの十秒程度でなくなった。
今度は、二つのホットスナックを取り出した。
それ等の袋をびりびりと破り、頬張っていく。
すると、青いパーカーの袖から覗く少年の腕に、赤黒く小さな斑点があるのが視界に入った。
もしや……。
思わず少年の腕を取った。
激しい抵抗を振り解き、袖を捲る。
すると、同じ斑点が数箇所にあった。
少年は慌てて袖を戻す。
これは、根性焼きというやつではないだろうか。
「これ、煙草?」
アメリカンドッグを口に運ぶ手が止まった。
「誰かにやられたの?」
反応はない。
「もしかして、お父さん?」
見開いた目が、次第に潤んでいく。
やはり、父親からの虐待らしい。
こういう時はどうすればいいのだろうかと考え、とりあえず児童相談所の連絡先を検索してみる。
「児童相談所っていう所に」と、僕が発した瞬間、少年は「あっ、いや……!」と、慌てた様子で勢い良く首を振った。
大事にして父親に知られる事を恐れているのだろうか。
「じゃあさ、児童相談所には連絡しないから、ちょっと紙と鉛筆、貸してくれる?」
僕がそう言うと少年は、ランドセルからノートを、ビニール袋から鉛筆を怪訝そうに取り出した。
それ等を受け取り、自分の電話番号と振り仮名をつけた名前を書いた。
「これ、僕の電話番号だから、何かあったら電話して。お腹空いた時でもいいから」
ノートと鉛筆を渡しながらそう言うと、少年の目は更に潤んだ。
「僕の名前は、来間汰駆郎ね」
書いた文字を指で辿りながら言った。
「君の名前、訊いてもいい?」
一応訊くと少年は、「まつかわ……、さとし……」と、か細い声で名乗った。
「何でも電話で言ってくれていいから。いつでもヘルプ出して。すぐに駆けつけるから。お喋りしたい時に電話してくれてもいいし。僕達はもう、友達だからさ」
そんな臭い言葉が出た自分に驚いた。
急に恥ずかしさを覚えた。
自分は一体、何を言っているのだろう。
〝友達〟のくだりは完全に不要だったな。
そう思った時、少年は「ありがとう……」と、声を震わせた。
それから袖で涙を拭う。
刺さったらしい。友達がいないのだろうか。
こびりついた恥ずかしさを剝がしたい僕は、「じゃあね」と、その場を立ち去った。




