午前の部が終わって
ミシェルと二人、ホールの近くまで廊下を歩いて行くと、向かいから子供たちがわらわらとやって来て、わたしたちとすれ違い始めた。
「どうやら午前の部が終わったようですね」
ミシェルがそう言って、少し早足になる。
わたしも慌てて小走りになった。
だって、ホールには大事な大事なギターが置きっぱなしになっているんだもん。
大ホールの前の渡り廊下にたどり着くと、そこはちょうど出て来た子供たちでいっぱいだった。
みんな手にパンフレットを抱えて、友達と食堂や購買へ向かおうとしている。
わたしは人波をかき分けて、ホールの方へ進むミシェルの後ろにぴったりくっついて行った。じゃないと、子供の波に流されて、反対方向へ行ってしまいそうだったから。
ミシェルは年相応の身長だと思うけど、周りの子供たちが年下ばかりなので、頭一つ分抜きん出ていて、遠目に見知った人を見つけて手を挙げた。
「ジェダイド!」
数メートル先で、大きな茶色い革の箱を抱えたジェダイドがこちらを向いて駆けて来る。
「ミシェル、兄貴が探してたぜ?」
そう言った後、ミシェルの後ろにひっついていたわたしを見つけて、ジェダイドは目を見開いた。
「あれっ? パール? なんでいるんだ? 保健室に行ったんだろ?」
わたしはうなずいて、クリスティーヌだけ寝かせて来たことを告げた。
「そうか。あいつ、結構こたえてたみたいだもんな。しばらく休ませてやった方がいいな」
それからジェダイドから大切なギターを受け取る。
「ありがとう、ジェダイド。これを取りに来たの」
「だろうと思った。保健室まで持って行く手間がはぶけてよかったぜ」
ジェダイドはわたしからミシェルに視線を移した。
「兄貴のやつ、ミシェルが静かに深~く激怒してるからおれに様子を見て来いって言ったんだけど・・・」
ジェダイドが不思議そうにミシェルを見つめる。
「兄貴が勝手するのなんていつものことだろ。劇で暴れたこと、まだ怒ってんの?」
「そうですね」
ミシェルは苦笑した。
「アラゴンに振り回されるのは慣れてますが、今回は別件でも問題があって・・・」
「別件?」
「それはまぁ、二人には関係ないことです」
ミシェルはジェダイドとわたしを続けて見て、にっこりと微笑んだ。
「心配しなくても、アラゴンとはきちんと話をするから大丈夫ですよ。では、パール、午後の演奏がんばってくださいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
わたしは突然、午後のことを言われて、慌てて返事をした。
ミシェルが去って行くと、ジェダイドは首を傾げた。
「別件ってなんだ? なんか嫌な感じがするなぁ・・・」
「どういう意味?」
渋い顔のジェダイドに訊ねる。
ジェダイドは眉間を寄せて呟いた。
「前に兄貴とミシェルがケンカしたとき、最終的にものすごいことになって、兄貴のやつ、屋敷の庭の木に裸で吊るされたんだ」
「え、ええっ??」
それって一体どういう事? わたしが目を剥いたので、ジェダイドはくくっと笑った。
「まぁ、なんていうか痴情のもつれがどうのこうのって話だったらしいけど、おれも理由はあんまりよくわからなかったんだよな。他の人に聞いても、はぐらかされたりしてさ。でも、どうやら兄貴が手を出しちゃいけない家の女に手を出したとか、そういう話だったはず・・・」
「ア、アラゴンさん・・・・・・」
アラゴン・カルサイトが女好きなのは、学校では有名らしいので、それほど驚きはしない・・・こともないか。確か、まだ十八才だったはず。十八才って、わたしと同じ年なんだけど!
手を出しちゃいけない家の女っていうのは、いわゆる反社会的な? それとも不倫とか? 何にせよ一体何をどこまですれば、あの温和なミシェルに裸で吊るされることになるんだろう。考えただけでも恐ろしい。
「まぁ、兄貴のことだから、本気で怒ったミシェルには逆らえないから、そのうちうまく収まるだろ」
ジェダイドはしれっとそう言うと歩き出した。
「それよりパール、午後の部の前にちゃんと飯を食っとけよ。出番が前後したり、時間がずれこんだりするのはよくあるからな」
「うん。購買で何か買って食べようかな。ジェダイドはどうするの?」
「おれも購買かなぁ。今、食堂行っても席がないだろうし、並んで待つの、おれ苦手」
「わたしも」
ということで、わたしはジェダイドと昼食を買いに購買へと向かった。




