↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/64

リアの謝罪

 わたしが大ホールに向かって、走り出すと、今度はクリスティーヌが追いかけてきた。

「待って! 待ってよ、パール!! そんなことしちゃダメよ!」

 リアを蹴り飛ばすと言ったわたしを止めようと、泣くのも忘れて追ってくる。

 でも、わたしは自分でも信じられないぐらい、すごいスピードで走って行った。

 もしかしたらパールの身体は、以前のわたしと違って運動神経が悪くないのかもしれない。

 足の裏が地面に着いていないみたいに飛ぶように駆けて行く。

 大ホールの裏口に向かったわたしは、劇を終えてちょうど出て来たクラスメイトの集団を見つけた。

 十五、六人の子供たちが裏口のドアから出て、その場にとどまって劇の出来栄えを笑顔で話している。

 わたしは鬼の形相でそこへ飛び込んだ。

「ちょっと、リア!!」

 文句の一つは言ってやらないと気が済まない。いや、わたしに謝らなくてもいいけど、クリスティーヌには絶対に謝って欲しい。

 だけど、そんなわたしの勢いは突然響いた怒声に遮られた。

「おい、リア、あれは何なんだよ!」

 リアの前にいつの間にかジェダイドが立っていた。

 しかも、見たことのない険しい顔でリアを睨みつけている。

「おまえ、なんでブラックストーン伯の名前を出したんだ! 名前が違ってるだろう!!」

 騒いでいたクラスメイトたちが全員口を閉じ、静まり返った。

 ジェダイドに睨まれたリアは、一瞬、怯んだように見えたけど、すぐに苦笑いで言った。

「あ、あれは・・・ついうっかり間違えちゃったのよ」

「ハァ?」

 ジェダイドが顔をゆがませる。

 わたしもクラスメイトの集団から数メートル離れた場所で、同じように「ハ?」と小さく呟いた。

「ほら、街の名前がシャンペインだったでしょう。だから、ブラックストーン伯の名前がつい出ちゃったのよ。わざとじゃないわよ」

 リアは言い訳しながら、ジェダイドを宥めようとしている。

 肩に触れようとしたリアの手をジェダイドは払い落とした。

「嘘つけ! おまえ、わざとパールの家の名前を出しただろ!」

「そんなわけないじゃない」

 リアが払われた手を痛そうに胸の前に抱えてうつむく。

「わたしだって、間違えて悪かったと思ってるのよ。ちゃんとパールには謝るもの。もういいでしょ」

 リアはついっと顔を背けた。

 でも、ジェダイドはそんなリアの胸倉を突然、掴んだ。

「おい、謝って済むかよ! 貴族連中の前で家名を汚したんだぞ。パールだけの問題じゃねぇ!」

 いきなり乱暴されて、リアは悲鳴を上げた。

「や、やめて、ジェダイド! 痛いわ!」

 わたしもぎょっとして、その場に駆け込んだ。

「ちょっと、ジェダイド、乱暴はダメ!」

 さっきまでリアを蹴り飛ばすつもりだったけど、まさに『人のふり見て我がふり直せ』だわ。

 渦中の人物であるわたしが現れて、全員の目が注がれる。

 ジェダイドはリアのドレスの胸元を掴んだまま、わたしを見た。

「止めんな、パール! こいつわざとおまえの家を――」

 そのとき、わたしの背後から大きな黒い影が現れた。

 ジェダイドもリアも目を丸くして、わたしの頭上を見上げる。

 わたしが振り返って確認する前に、ジェダイドの頭に大きなゲンコツが落ちた。

「痛てぇ!」

 ジェダイドが叫び、リアから手を離した。

 わたしは振り返って、その人物を見上げた。

 高級そうな灰色のスーツに紺のネクタイ、いつも以上に身なりを整え、ヤナギのように垂れていた前髪をオールバックにしたゴーヤン先生だった。

 こう見ると、結構な男前だ。眉間にくっきり皺があって、ちょっと怖・・・えっと、頑固そうな顔だけど・・・。

「カルサイト、それにおまえたちも何を騒いでるんだ」

 ゴーヤン先生はちらりと胸元がくしゃくしゃになったドレスのリアと、劇に関係ないはずのわたしの姿を見て、それから大きな大きな溜め息をもらした。

「ああ・・・・・なるほど・・・」

 何があったのか推察できたらしく、今度はクラスメイトたちに言う。

「カルサイト、ブラックストーン、コーラル以外の者はすみやかにホールに戻るように」

 子供たちが頷いたり、小さく返事をして、おとなしく去って行く。

 わたしは離れた場所に突っ立ったまま、こっちを見ていたクリスティーヌに気づいた。

 真っ赤な目で悲しそうにわたしたちを窺っている。

「クリスティーヌ!」

 わたしは駆け戻って、クリスティーヌの手を取った。

「パール、もういいから」

 クリスティーヌが言った。

「わたし、気にしないわ。だから、ケンカはやめて・・・」

 声に元気がない。

「ケンカじゃないよ! ちゃんとリアに謝ってもらわなきゃ」

「だから、もういいから」

「よくないよ!」

 わたしとクリスティーヌが言い合っていると、ゴーヤン先生とジェダイド、それにリアが近づいてきた。

 泣きはらした目をしたクリスティーヌを見て、ジェダイドがキッと鋭い目でリアをまた睨む。

 さすがのリアも居心地が悪くなったのか、その場でもじもじと身体を揺らした。

 ゴーヤン先生はわたしたち四人を見下ろし、いつもの冷淡な口調で告げた。

「劇の内容について、不適切な発言があったことを後でわたしが会場の方々に陳謝しなければならなくなった」

 リアが肩をすくめる。

「あ、あの・・・先生、わたし決してわざとじゃなかったんです。つい、うっかり口からブラックストーン伯の名前が――」

「今は君の理由はどうでもいい」

 ゴーヤン先生が冷たくリアの言葉を遮った。

「やってしまったことに対して、責任を取るのが先だ」

「は・・・はい・・・・・・」

 初めてリアがうな垂れた。

 わたしはちょっとだけ、心の中で「へへん、ざまぁみろ」と思ったけど、当然それだけで済む話じゃない。

「まずは二人のブラックストーンに謝りなさい」

 ゴーヤン先生に言われ、リアは顔を上げ、わたしとクリスティーヌを見た。

 でも、ぎゅっと口をつぐんだまま、うんともすんとも言わない。

 黙って、わたしたちを見つめている。

「コーラル、聞いていたのか? 二人に謝りなさい」

 ゴーヤン先生が再び言うと、リアは心底嫌そうに口をとがらせ、「悪かったわね」と聞き取るのがやっとの小さな声で呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。