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クリスティーヌの涙

 大ホールから出たわたしは、小さな影を追って、渡り廊下を走り抜け、古い煉瓦(れんが)壁の校舎に飛び込んだ。

 薄暗い廊下をクリスティーヌがぱたぱたと足音を立て、駆けて行く。

「クリスティーヌッ!!」

 わたしは大声で呼んだ。

 クリスティーヌが足を止め、振り返る。

 その顔を見たわたしは、胸がぎゅっとつぶされそうになった。

 クリスティーヌの顔は涙に濡れ、鼻と頬は赤剥けたように真っ赤だった。

「クリスティーヌ!」

 わたしは駆け寄り、彼女の前まで行くと、その手を取った。

 でも、なんて言えばいいんだろう。

 ――大丈夫? っていうのは違うよね。

 全然、大丈夫じゃないのは見ればわかる。

 ――気にしちゃダメ! かな?

 でも自分の家のことを学校中どころか、大勢の貴族たちの前でバカにされて気にしない人はいない。

 ――わたしだって家族のこと悪く言われたら、腹が立つし悲しいもん。

 わたしが手を取ったまま黙っていると、クリスティーヌは震えながら言った。

「ど、どうしようパール・・・・・・。みんなブラックストーン家のこと、公王様に反逆を企(くわだ)ててる悪い領主だって思ったわ、きっと」

 わたしは首を横に振り立てた。

「待って待って! クリスティーヌ、あれはただのお芝居(しばい)よ。誰も信じたりしないよ」

「そんなのわからないじゃない!」

 クリスティーヌの真っ赤な目がわたしを睨みつけた。

 確かに、ブラックストーンが悪い領主だと思ってしまう人はいるかもしれない。

 多分、リアはそれを目論(もくろ)んで、あんなセリフを言ったんだろう。

「どうしよう・・・・・・。もうわたしたちの家・・・ダメかもしれない・・・」

 クリスティーヌはわたしに手を取られたまま、その場にしゃがみ込んでしまった。

 そしてうつむいたまま、ひくひくと肩を震わせながら泣き出す。

 わたしはそんなクリスティーヌを見下ろし、自分まで悲しくなった。

 リアがあんなことをしたのは、おそらくわたしへの当て付けだ。

 わたしのことが気に入らないから、ブラックストーンの名を汚して、みんなの笑いものにしてやろうと思ったのだろう。

 ――やり口が卑怯じゃない。

 わたしは段々、腹が立ってきた。

 だって、わたしがリアに何かしたことなんて一度だってない。

 ジェダイドのことだって、わたしが一緒にいたくて引っ付いて行ったわけでもないし、ただのクラスメイトだ。

 ――しかもわたしだけを陥(おとしい)れるんじゃなく、クリスティーヌまで巻き込むなんて・・・!

 クリスティーヌは誰にでもやさしくて、誰からも好かれている。

 こんな目に遭うような子じゃないのに。

 ムカムカしてきたわたしは、クリスティーヌと繋いでいた手を引き寄せた。

 ぐいっと引かれて、クリスティーヌが泣きはらした顔で立ち上がる。

「パール・・・?」

 涙でくちゃくちゃになった顔のクリスティーヌは、わたしの顔を見て硬直した。

「・・・パ、パール・・・・・・どうしたの? すごく怖い顔になってるわよ・・・」

 わたしは自分の表情なんてどうでもよかった。

 胸の中から、今までに感じたことのないどす黒いものが湧き上がっていた。

「クリスティーヌ」

 わたしの低い声に、クリスティーヌは泣くのも忘れて「な、何?」と聞き返す。

「わたし、リアのこと蹴り飛ばしてくるわ!」

 それを聞いたクリスティーヌは口をぽかんと開けて、また硬直した。


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