7 焔の作戦 with 千鶴子
「焔隊、渋谷ダンジョン特区に到着しました。」
焔の後ろで、隊員の1人が無線連絡を行なっている。
その様子を背中で確認しながら、焔は目の前で口を開いているダンジョンの奥を見据えていた。
(考えた作戦を遂行するには、多脚型を入り口付近まで来させる必要があるなー。)
大きな魔鎌を怠そうに担ぎ、自分の頭に描いた作戦を振り返りながら、焔はここからどう動こうかと頭を働かせる。
「はい……わかりました。そのように伝えます……神代主任、対象は現在、中層から上層に向かって進行中とのことです。」
「オッケー……なら、このまま進むと、すぐに会敵する感じ?」
「ですね。あと1時間もすれば、入り口まで辿り着くと思います。」
それを聞き、焔はピンと来た。
「……なら、ダンジョン入り口付近に来るまで、待機しよっか。」
「え……?ですが、志村課長からは内部撃破との指示ですが……」
「いいのいいの!それよりも、大型の……しかも多脚型を倒す姿を世間にアピールした方が、盛り上がるじゃん?」
「は……はぁ……」
ニヤニヤと笑みを溢す焔の発言に、メンバーも少し困惑気味だ。
だが、焔は気にすることなく続ける。
「うちら、超エリートでしょ?なのに、戦うところってあまりメディアとかに取り上げられないじゃん。討伐しても、死骸を持って帰ってこなきゃ、この前みたいに賞賛されないし……」
焔が言うこの前とは、品川ダンジョン特区のドラゴンのことだ。
あれは深層で暴れていて、地鳴りや地震被害が相次いだため、急遽討伐することになった魔物。
それまでもだいぶ苦渋を飲まされてきたが……。
なので、広報部もダンジョン内には来れず、討伐シーンは誰にもお披露目されていない。
それが焔には不満だった。
「知ってる?うちら、人気No. 1職業とか言われてるけど、アンチもけっこういるんだよ。」
「アンチ……ですか。」
「そう。探索調査部の奴らは本当に自分たちで討伐してるのか怪しい……って言ってる奴らが一定数いて、そいつらがネット上でうちらのこと叩いてんの。」
その事実に、焔隊のメンバーたちも顔を顰める。
焔は内心でニヤリと笑う。
「それなら、今回は見えるところで討伐しちゃおうって話だよ。多脚型なんてそんなに強くないし、出てきたところをパッパと討伐しちゃえば、街にも被害は出ないっしょ?」
「……」
「あと1時間もすれば広報部もやって来るし、その頃には多脚型も姿を現すでしょ。そしたら、一気にかたをつけちゃえばいい。そんで、それを広報部が拡散する。そしたら、アンチたちを黙らせられる……どう?」
焔の言葉に、隊のメンバーは皆各々で考え始める。
焔についてこれる探索士ということは、実力もトップクラスだが、それ以上にプライドが高い者たちばかりだ。
焔はそこを突いて、自分の目標を達成しようと考えたわけである。
(まぁ、みんなプライド高いし、いけるっしょ。)
焔は最後にトドメの言葉を投じる。
「もし何かあれば、責任は主任の私が取るからさ!」
その言葉を聞いた瞬間、焔隊のメンバーたちは1人、また1人と頷いた。
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それから1時間後。
渋谷ダンジョン特区には広報部数人とともに、メディア各社が集まっていた。
討伐関連の取材は、基本的にダンジョン外で行うことが義務付けられているので、彼らは特区のゲート付近までしか来れない。
だが、今回はそれだけではなく、攻略一課が来ていると聞きつけた野次馬たちも、ゲートの外側から何とかその姿を一目見ようと集まっている。
そんな中、広報部の1人が焔の側へとやってきた。
「神代主任!まだ討伐は終わってないって本当ですか?!」
現状を理解した彼女は焦っているようだ。
だが、焔は関係ないと様子で飄々とした態度を取る。
「そうなんです。実はゴブリンやコボルト、それにオークたちが多数押し寄せてきまして……その殲滅に少し時間がかかってしまいました。」
これは嘘ではなく本当だ。
小型の魔物の多くが、入り口付近にまで押し寄せたのは事実である。
だが、ひとつだけ嘘があるとすれば、その殲滅にはそんなに時間はかかっていないことだろう。
「神代さん……では、その原因は多脚型の進行でしょうか!?」
広報部が引き連れた内のメディアの1人が、焔へと問う。
「おそらくは……。多脚型はかなり大型だと推測されています。なので、それに追いやられた魔物たちがダンジョンの入り口から出てきたようです。現在は殲滅も終わり、落ち着いていますが……」
「多脚型の魔物の進行は今、どの辺なのでしょう!?」
「もう間もなく、姿を見せると思われます。ですから、皆さんは少し離れた位置までお下がりくださいね。」
得意の猫被り営業トーク。
広報部でも凛子以外は舌を巻くほどのトーク力と、探索士ならではの威圧感により、焔は全ての野次馬を現場から遠ざけることに成功する。
「じゃ〜あとはよろしくねー。」
不服そうに見守る広報部員に対して、ヒラヒラと手を振って、その場を後にする焔。
その後ろを、焔隊のメンバーが付き従う。
「あとはメディアの前でサクッと倒すだけだねー!よぉし、最初に斬り込みたい人……いる?」
ダンジョンの入り口を目指して歩く中、焔の言葉に全員が手を挙げる。
満足げに笑う焔は、1番早く手を挙げたメンバーを指名する。
「なら、今回はチーちゃんで!」
「やった!」
周りが残念そうに眉を落とす中で、嬉しそうに飛び跳ねているのは、片桐千鶴子。
焔の後輩で、隊の中では1番の最年少だが、その実力は焔の折り紙付きである。
だが、彼女には焔も知らない一面があった。
(……正直、ドラゴンの死骸の件は驚いたなぁ。焔様は敢えて死骸を放置することで、我々凡庸な人間に『後始末の尊さ』を教えてくださっていたはずなのに。……はっ! まさか、焔様は『自分の背中を見せる段階』を終え、ついに『無償の奉仕』のステージに上がられたということなの……!?」
千鶴子は焔を神の如く崇めており、"非公式の焔ファンクラブ会長兼親衛隊隊長"を名乗っている。
もちろん、メンバーは千鶴子1人であり、焔もそのことは知らない。
周りから見たらちょっと痛い子。
だが、先ほども言った通り、実力は本物だ。
渋谷ダンジョンの入り口に、多脚型の魔物の姿がチラリと覗く。
それを確認した瞬間、彼女の思考は魔物討伐へと移行していた。
「チーちゃん!!思っ切りやっちゃってねぇ!!」
「はぁーーーい!!」
背負っていた巨大な盾を、走りながら自分の前に構える。
だが、千鶴子の動きは、盾の重さを感じさせないほどに軽快だ。
多脚型の魔物の目の前まで一気に距離を詰めると、初っ端から畳み掛けるように異能を行使する。
「アンカーーーー・リーーーーーンク(事象固定)!!」
その瞬間、大楯が紅く輝き始め、千鶴子はそのまま多脚型の魔物に突っ込んだ。
その爆音と地響きは、焔たちがいる場所まで……いや、野次馬たちが見守る場所まで轟き、それを聞いた焔はこれから起きることを想像し、嘲笑っていた。




