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3 休日の後始末

品川ダンジョンは、現在絶賛封鎖中である。


もちろん、その理由は神代たちが討伐したドラゴンの死骸のせい。


腐敗は進行していないものの、魔物の死骸は3日も経てば悪臭を放ち始めるから、今このダンジョンの付近には警備員以外は誰もいない。


その警備員も、ダンジョンからだいぶ離れた場所にあるゲート(ダンジョンを物理的に周りと遮断している特殊な門)に駐在しているので、ゲート内に入ると無人の街が続いている。


もちろん、ここに来るまでの間に、俺は誰にも会っていない。


ゲートは警備員の目を盗んで通ってきたしな。





「さて……ドラゴンの死骸は……」



まだ薄暗い早朝。


俺はダンジョンの入口に向かって颯爽と走りつつ、件のドラゴンの死骸を探す。


神代たちは入口付近に置いたと言っていたが……ダンジョン内で倒したドラゴンを、わざわざ外まで運んでくるなんて、自己顕示欲の塊としか思えない。


そもそも、神代はタイパ重視で効率女。


あんな巨体を運ぶこと自体、非効率な気もするんだが……やはり、Z世代が考えることはよくわからんな。


そんなことを考えていると、ダンジョンの入口とその前に横たわるアースドラゴンの死骸が見えてきた。


近くまで来た俺は、まじまじとそれを観察してみる。


これはなかなかに……でかいな。


この大きさなら、業者の見積もりがあれだけ高額だった理由も頷ける。


神代はこれを1人で倒したらしいが、やはり口だけではなく実力も本物なんだな。


腰に手を当て、アースドラゴンの死骸をゆっくりと見上げてみると、爪や牙などの使える表面上の素材は全て回収されていることが確認できた。


残った部分は全部産業廃棄物……それも『特別管理』がつく特殊な廃棄物だ。


複雑極まりない手続きと、財務部も簡単に首を縦には振らない高額な費用。


こんなものをダンジョンの外に持ってくる行為自体が、周りに迷惑をかける行為であることは間違いない。


なのに、探索調査部の奴らは、市民を安心させるためとか理解し難い理由をこじつけて、こうやって大物の死骸をよく外に運んできやがるんだ。


……だが、現にそれによって市民は安心感を得ていることは否めないが。


思い出すと、何だかイライラしてきた。


わざわざ休みを削ってまでここに来たんだし、時間を掛けるのはやめて、さっさと終わらせよう。



俺はポケットから会社のIDカードを入れているカードケースを取り出すと、ネックストラップに付いているリールを取り外す。


そして、リールの中から特注のワイヤーを引き出していく。



「……スキャン(棚卸し)」



そう呟いた俺の視界には、アースドラゴンの死骸がただの肉や殻ではなく、「解体可能なパーツリスト」として映し出されていく。



「探索調査部の解体は、本当に雑だよなぁ……。」



奴らは外側の素材しか回収しない。


爪や牙、眼球や鱗など、見える部分しか素材だと思っていないんだ。


だが、魔物の死骸はその全てが利用できる資源の宝庫。


しかも、これだけ大型でレアな魔物となれば……俺が言わなくても誰でも理解できることだ。



「俺が若手の時は……いや、愚痴はやめよう。……背中の鱗は防具素材に使えそうだな。体液は魔素触媒。心臓部は研究用のAランク素材……。それ以外は……ただの『産業廃棄物』にしておこう。」



本来は全てが有効活用できる魔物の死骸。


そうは言ったが、このドラゴンは人目につき過ぎている。


ちゃんと正規の手続きとおりに処理する分も残しておかないと、死骸が突然消えたなんてニュースになっても困るしな。


そうこうしているうちに、俺の脳内では膨大な死骸の情報が整理され、最も効率的な「解体ライン」が赤くハイライトされていく。


それに合わせて、指先に準備したワイヤーを死骸全体へと絡めていく。



「よし……こんなもんか……な。」



一見、デタラメに絡めたように見えるワイヤーは、アースドラゴンの関節、筋肉の接合点、魔素が滞留している魔核など、"構造上の弱点"を正確に捉えている。



「――デリート(整理開始)。」



軽く指を引いた瞬間、シュンッという鋭い音と共に、アースドラゴンの巨体が、まるで最初からバラバラにパッキングされていたかのように、美しく等分に切り分けられた。


そして、回収する素材と『特別管理産業廃棄物』として処理するものに分けられ、その場に綺麗に並べられていく。



「……これだけ綺麗に整理しておけば、鉄輪さんも文句は言わんだろう。」



独り言を漏らしつつ、ポケットから取り出したスマホを鳴らす。


すると、すぐにスマホの先から太い男の声が聞こえてくる。



『よう!伊佐水か?こんな朝早く……しかも休日労働、ご苦労なこった!』


「本当ですよ……まったく。鉄輪さん、とりあえず品川ダンジョンのドラゴンは解体完了です。」



電話の先にいるのは鉄輪剛かんなわ つよし、45歳。


回収班の責任者を務めるこの男は、昔馴染みであり、俺が唯一愚痴をこぼせる相手でもある。



『そうか!なら、すぐに業者を向かわせる。お前はさっさと帰って、休日を堪能しろや!』


「はい、そうさせてもらいます。では……」


『おうよ!今度、缶コーヒー奢ってやるからな!』



鉄輪の大笑いに苦笑いしつつ、俺はスマホを切る。


そして、綺麗に並んだアースドラゴンの死骸を見て、小さく一息つく。



「これだけ効率化すれば、費用もだいぶ抑えられるはず……さすがに予算もおりるだろ。」



後のことは、鉄輪に任せておけば上手くやってくれるはずだ。


俺は彼から届く再見積もりの資料を持って、週明けに財務部へ予算をもらいに行けば、晴れてこの案件は終わりとなるはず。


……だが、やっぱりどこか腑に落ちない。


何で俺が休日に働いてまで、探索派遣事業本部の尻拭いをしないといけないんだ。


ちゃんと部長には、休日に時間外労働する許可は得てきたけどさ……。


やっぱり、まだイライラが収まらん!



「はぁ……幸い、今日はこの後の予定もないし、久々に潜っていくか……。」



俺はチラリとダンジョンの入口に視線を向けた。



「ここから先は、自分時間だ……な。」



そんな独り言は、俺と共にダンジョンの暗闇へと吸い込まれていった。

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