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24 正しくを貫くには、時に

暑くなってきました。

体調管理、大切です。

首都高速の出口を降りて数分ほど進むと、車窓の景色は西新宿の整然とした高層ビル街から、錆びついたトタン屋根の工場や、出所不明の怪しい外資系企業の看板がひしめく雑多な街並みへと変貌する。


"川崎ダンジョン特区"は、埼玉県の一角に位置する国内でも有数の特異なエリアだ。


キリュウ・グローバル(株)が国から一任されている"安全管理のインフラ(魔素ライン)"の網の目から、唯一外れた無法地帯。


キリュウのような巨大資本ではなく、群小の中小ダンジョン管理会社や独立系ギルドがひしめき合い、独自のルールでダンジョンの利権を貪り合っている。


当然、セキュリティの質は低く、違法な魔物素材の横流しや不透明な資金移動の温床となっており、キリュウ上層部にとっても"目の上の瘤"のような場所でもある。


そんな街並みを横目に、俺は目的の管理会社へ向かうべく、車を走らせていく。




少しすると、お目当ての看板が見えてくる。


川崎ダンジョン管理法人『三頭竜オルトロス・マネジメント』。


川崎ダンジョン特区の利権の大部分……それを押さえ込む管理会社のうちのひとつだ。


3階建ての少し古い建物は、昭和の時代の匂いを感じさせる様相……古き良き時代の産物と言えば聞こえはいいだろう。


だが、この辺りの事情はそんな簡単なものではないことを、俺は知っている。



「さて……気合いは入れ過ぎないようにな。」



凛子と焔に釘を刺し、俺たちはエントランスへと足を踏み入れた。





「ーーですから、我が社の管轄エリアで、キリュウ・グローバルさんがいくら大層な大義名分を掲げようとも、はいそうですかとデータを開示するわけにはいかないんですよ。我々にも、中小企業としての"プライド"と"顧客の守秘義務"がありましてねぇ。」



安物のパイプ椅子に腰掛けた、脂ぎった顔の男。


『三頭竜・マネジメント』の専務である猪狩いがりが、下卑た笑みを浮かべながら爪をいじっている。


オフィス内にはタバコの煙が充満し、壁には粗悪なDX装備のポスターが雑に貼られている。


まさに、キリュウの本社フロアとは対極にある、泥臭さと胡散臭さが煮凝ったような空間だな。


だが、それだけでこちらが怯む理由にはならない。


俺は表情一つ変えず、高密度魔導合金製バインダーを開く。



「猪狩専務。結論から申し上げますと、我が社広報部へのトラフィック攻撃の発信源が、この川崎ダンジョン特区内、それも御社が管理するサーバーラックの区画と完璧に一致しているんです。我々はただ、調査の許可を求めているだけです。しかし、これ以上の妨害なさると言うのであれば、業務妨害およびテロへの加担とみなさざるを得ません。」


「ハッ、大きく出たねぇ!大企業様は!」



猪狩はパイプ椅子をガタンと鳴らして立ち上がり、俺を睨みつける。



「国の施策だか何だか知らねえが、そうやっていつも上から目線で俺たちのシマを買い叩こうとしやがって! 警察なら令状を持ってきな。民間人のあんたらに、俺たちの敷地を指一本触れさせる気はねえよ!」



この男、かなり頑なな態度だな。


すでに言葉遣いすらも気にしていない。


単に我が社の介入を嫌う"地元の意地"……というだけではなさそうだな。


内心でため息をついていると、凛子が俺に耳打ちしてくる。



「……先輩。この会社、ただキリュウが嫌いなだけじゃないですよ。デスクの端で不自然に明滅している暗号化通信端末も然りですが……こちらの質問に対して、まるで事前に用意されたロジックをなぞるような不自然な言い回し……完全に怪し過ぎます。」



凛子の言葉は、おそらく正しい。


俺にも、猪狩たちが今回の件に絡んでいる確信はある。


しかし、相手のサーバーを調べるくらいしなければ、それを証明する決定的な証拠は至らないだろうな。



「何をコソコソ話してやがる!用が済んだなら、さっさと帰ってくれ!仕事の邪魔なんだよ!」


「……まぁ、猪狩専務。少し落ち着きませんか?」



俺と凛子の態度に、さらに怒りを露わにする猪狩。


諭そうとしたが、彼は全く聞き耳を持たない。


う〜ん、どうしたものか……。


一度、仕切り直してもいいんだが、これ以上伸ばすと定時退社できなくなるしなぁ。


だが、猪狩はテコでも頭を縦には振らないだろうし……。


悩んでいると、焔が口を開いた。



「伊佐水さん。……もう、いい?」



部屋の隅でパイプ椅子を軋ませながら、低く地を這うような声で呟く焔。


愛用している魔鎌の長い柄の先で、床を強く打ちつけると、彼女はゆっくりと立ち上がる。



「私のスマホの画面、さっきからアンチのクソリプしか流れてこないし……ここのおっさんの顔もタバコの臭いもマジでタイパ最悪。もう我慢の限界なんだよね。今すぐこのビル、物理的にバグらせていい?」



焔の瞳の奥に、本物のシーカーの"殺気"が爆発寸前で揺らめいている。


部屋の気圧が急激に下がり、猪狩の顔から一瞬で血の気が引いていくのがわかる。


焔の奴、なかなかやるじゃないか。


殺気によって相手を萎縮させるのは、この場合においては合理的な手段であり、効果的でもある。


だが……今の彼女の場合は、本当にそれをやりかねないか。


ここはやっぱり、一旦引こう。



「神代主任、それをすると総務部への事後始末の書類申請が30枚以上必要になるので却下だ。東條、ここは一度引き上げよう。」



バインダーをパチンと閉じ、立ち上がった俺は、凛子と焔に外に出るように促した。



「ふん、賢明な判断だな!さっさとお引き取り願おう、大企業様。」



勝ち誇ったように鼻で笑う猪狩を無視し、俺たち三人は管理会社のビルを後にすると、そのまま車へ乗り込んだ。


そして、ぐるりと車を回して、管理会社ビル裏のコインパーキングに止める。



「う〜ん……彼ら、何を隠してるんでしょうか。」



助手席に座る凛子が、悔しそうに声を漏らす。


後部座席では、焔が未だに不機嫌そうに魔鎌のパーツをいじっている。



「それはわからんが……何にせよ、対話による交渉は失敗に終わったな。」



俺はバックミラー越しに見える、特区の不気味な中心部を見据える。



「しかし、法的な許可が下りないからといって、調査を中止する訳にもいかない。まぁ、『三頭竜・マネジメント』が管理するサーバーの本体は、地上のオフィスではなく、十中八九、川崎ダンジョンの地下に隠蔽されているだろうがな。」


「……それって、つまり!」



焔の目が、一瞬で狩人の目に切り替わる。


元調査一家の血が騒ぐのか……凛子の目もどこかギラついている気がする。



「察しの通りだ。これより我が社のリスクマネジメント業務として、川崎ダンジョン特区へ非公式の不法侵入を敢行する。神代主任、残業代の申請書は後で志村課長に回しておくからな。」


「やたぁー!じゃあ、好きなように暴れてもいいよね!」



焔の口元に、いつもの不敵な、そして凶悪な笑みが戻る。



「ある程度の判断は任せる。だが、痕跡は残すなよ。」



今回は、あくまでも不法侵入だ。


だから、派手なことはできないし、俺たちがここにいた痕跡は残したくない。


焔は嬉しそうに「了解!」と敬礼し、魔鎌の手入れをし始める。


助手席では、凛子が静かに、そして力強く頷いている。


その様子に満足して、俺は再びアクセルを踏み込んだ。


今回は、法の壁の向こう側へ……川崎ダンジョン特区の闇の奥へと潜入を開始するぞ。



「できる限り、定時で上がるぞ!」



俺がそう鼓舞すると、2人は「「おー!」」と手を挙げた。

ダンジョン内は無断で侵入を試みる3人が見るものとは!

個人的には猪狩みたいなキャラが好きです。


今回もご愛読いただきまして、ありがとうございました!

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