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10 火種の予感

神代焔と片桐千鶴子。


両名への通告業務を終えて総務部へと戻ってくると、俺の席の横に凛子の姿があった。



「あ!先輩っ!通告終わりましたーー?」



戻ってきた俺に気づいた凛子が、立ち上がって手を振ると、大きなお胸も揺れ……ゴホンゴホンッ。



「どうしたんだ……?てか、なんだその目……」



横に座って凛子を見れば、目が真っ赤に充血している。


それに目の下のクマもひどい。



「これですか!?さすが先輩!いいところに気づきますね!実は今朝まで仕事してたんです!!」



凛子はそう言って俺にVサインを向けるが、目がバキバキなのでなんか怖い。


しかし、今朝まで仕事って……情報操作をずっとやってたのか?



「例のデマ情報の件か?そんなに大変だったのか。」


「いえいえー!そっちはすぐに終わったんですが、"ボランティア清掃イベント"のプレスリリースを書き上げてたら、ついついですねーーー!」


「ボランティア清掃イベント……?またうちの会社、イベントするんだっけ?」



社外イベントの情報は定期的に確認してるから、大体は把握してるけど、そんなイベントをやるなんて聞いてたかな?


疑問に思って凛子に尋ねると、彼女は大きく首を振った。



「違いますよ!昨日の渋谷ダンジョンの件で、です!実は昨日の23時に、鉄輪さんからこんな画像が送られてきまして……。」



少し嫌な予感がして、その画像を覗き込む。


そこには、鉄輪とその部下、そして謎の集団が集合している様子が記録されている。



「何でも、街の清掃に有志を募ったらこれだけ集まったから、プレスにしたらどうかって……。鉄輪さんがこんなことするの珍しいので、嬉しくなってついつい力入れちゃいましたーー!」



そこまで聞いて、ピンときた。


昨日の夜、鉄輪はやけに早く現場に来ていた。


いつもなら指定時刻ちょうどに来るのに、昨日だけは俺よりも早く現場に居たのだ。


それはこういう事だったのか……しかし、別に隠さなくてもいいのに。


おそらく、余計な心配を掛けたくなかったんだろう。


鉄輪さんらしいな。



「……なるほど。だから、朝にはあんなに綺麗になってたんだな。街の人に感謝しなきゃ……。」


「ですねーー!でも、少し気になる部分もあるんですよね。」



凛子の発言に、再び不安がよぎる。


この子は勘が鋭い。


ドラゴンの死骸の処理の件も、俺がやったことに気づいている節があったしな。


心して慎重に受け応えしないと……。



「何が……気になるんだ?」



そう尋ねると、凛子は首を傾げながら持論を展開する。



「結論から言うと、渋谷の街……めちゃくちゃ綺麗だなって。鉄輪さんたちの仕事振りは知ってるので、そこに疑問はないですが、ボランティアの方々があれだけ綺麗にできますかね?」



その疑問はごもっともだ。


本当に賢い後輩だと感じつつも、俺はすかさず凛子にある資料を見せてやる。



「確かに……でも、鉄輪さんからの報告だと、今回は魔素による自浄作用の活性化が行われた可能性があるらしいぞ。」


「……!それは初耳です!」


「そりゃそうだ。これは今朝、特区管理局へ報告するために必要だから、回収班に依頼して俺が貰ったものだからな。」



俺の説明を聞きながら、凛子は資料に目を通す。



「だが……あくまでも可能性の話だそうだ。直接見ていた鉄輪さんも、いつもより簡単に落ちるなってくらいの感覚だったみたいだしな。」



そう付け加えると、凛子は納得したように笑みを見せた。



「とても気になる内容ではありますが……公表するには情報が足りませんねーー!先輩、面白い話をありがとうございます!ところで、焔ちゃんの処分は決まったんですか?」



スムーズに話題を切り替えるところはさすがだな。


ここに来たのは、それを聞くためだったんだろう。


広報部に来る前、凛子は探索調査部にいて、その時から焔のことは知っているはずだ。


凛子にとって、あんな焔でも可愛い後輩なのだ。


俺はパソコンに向き直り、カタカタとキーを打つ。



「減給にはなるけど、資格剥奪にはならないと思う。知ってるだろうが、社長が特区管理局へ行くそうだしな。ただ、業務に制限はつく……」


「制限……ですか。」


「あぁ、簡単に言えば"後始末のセルフ化"だな。」



要するに、やりっぱなしはダメですよ、ということだ。


焔が出動した現場に回収班を呼ぶときは、彼女の自筆の依頼書を事前に、もしくはその都度提出させる。


それがない場合、焔はその現場を自分で綺麗にしなければならない。



「さらにもうひとつ……討伐した魔物1体ごとに"討伐個体識別票"、"残骸処理計画書"、"周辺住民への影響評価書"の3枚を現場で作成し、上長……要は志村課長へ提出させる。その承認がなければ、現場から撤収することができない。」



これは本来、焔たちがやるべき業務だ。


通常は現場から帰った後、専用端末に記録されたデータを整理して作るものだが、焔にはこれを現場でやってもらう。


会社に戻ってからだと、他の社員にこっそり作らせる可能性があるしな。


そして、これは志村課長に対する戒めでもある。


いつでもどこでも、しっかりと焔の業務を管理してもらうための対策だ。


焔を上手く扱うのは大変だろうが、管理職としての責任は取ってもらわないとな。


ちなみに、探索派遣事業本部長には、社長が直々に戒めを与えるそうだ。


そこまで聞いて、凛子はホッとしたように小さくため息をついた。



「……納得です。では本題に入りますか。」



珍しく小さな声だな。


俺はキーを打つ手を止めて、凛子を見る。


すると、彼女は周囲を警戒するように声を潜めて切り出した。



「先輩……実は昨日、社長に呼ばれてた件ですが……」



徐に話し出す凛子の様子に、先ほどまでとは違った違和感を感じた。


そして俺は……凛子から驚愕の事実を突きつけられた。

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