過去からの依頼人(その12)
佳央里はモニターを見ながら父を思い出していた。
父は仕事人間で、家にいる記憶はほとんど無い。悪い人を捕まえる仕事と母は父の仕事を表現していた。寡黙だったが父は優しかった。
佳央里は一度だけ家族みんなで遊園地に行った。父と母と佳央里だ。いくつかの乗り物を乗った後だっただろうか、フードを深くかぶる若い男が目の前を通り過ぎた。その直後、父は母と私にカフェテラスの椅子を勧めた。
「パフェでも食べてそこで待っていてくれ」
父はそう告げるとさりげなくその場を離れた。
「お父さんどこに行くのかな」
「言われた通りここで待っていましょう」
「分かった。でも私ちょっとトイレに行ってくる」
当時八歳だった佳央里は母にウソを告げて父の後を追うことにした。
父はパーカーの男を追っているようだった。
追っている男が懐に手を入れた瞬間、父は男の背後から飛びかかった。父の手は男の手首をつかんでいた。男の手にはパイプを数本束ねた物が握られている。
父は男に覆い被さった。馬乗りになり、仰向けになった男の顔面を殴りつける。男の手から爆発物のようなパイプは離れた。
佳央里は物陰から鬼の形相の父を見ていた。男の意識が無くなるまで父の拳は止まらなかった。
男の様子を確認した父は携帯端末を取り出し誰かを呼び出していた。佳央里は震えが止まらなかった。しかし、この場を離れた方が良いだろうと思い、その場を後にした。母には何も言わなかった。しばらくして戻ってきた父も何も言わなかった。何事も無く自分で注文したパフェを食べていた。父には二面性があるのかもしれない。幼かった佳央里なりにそう感じるものがあった。
現実に戻ることを促すように、佳央里の目の前のモニターが点灯する。外部からの通信リクエストを示すものだった。
「山口さん」
佳央里はそうつぶやいた。




