過去からの依頼人(その10)
エリーは作業を開始する。一応現場を押さえるつもりらしい。辺りをしきりに見回している。スキャンしたデータで過去にさかのぼれば、何か発見があるかもしれない。作業を続けながらエリーが話しかけた。
「被害者の人物像を教えてもらえますか」
「クロに近い灰色の悪い奴だった。違法薬物を売りさばく元締めとして、いつも捜査対象にあがる男だった」「一人目も二人目も悪い奴ですか」 エリーがぽつりとつぶやく。
ミツオが根元まで吸い付けたタバコのフィルターを自前の携帯灰皿に押しつけた。ふと視線をあげたミツオは不思議な男に気付く。上空を見上げた男が一人。両手は万歳の形で静止している。小さく、「よし」と独り言を言っている。ミツオが男の視線の先を見ると、ちょうど停車を試みる列車の下部があらわに見えた。ミツオは男に近づくと確信を持って話しかけた。
「列車の撮影ですか」
少し驚いたふうにも見えた男がびくつきながらミツオを見た。肩まで伸びる髪の毛をキャップの中に収めた男。年齢は30代だろうか、ミツオがカメラを取るジャスチャーをしながら近づくと、男は意外にも気さくだった。
「よくわかりましたね。カメラは私の両手首の内側にあるのです」
男が自分の両手首を指し示す。バンド状のものが巻き付いている。
「だと思いました。三次元のデータが撮れるやつですね。ちなみに列車撮影のご趣味はいつからですか」
男は笑いながら返答する。
「子供のころからずっとです」
ミツオは男にさらに問いかける。
「つかぬ事を聞きしますが10年前の年末、この場所で電車を撮影されていませんでしたか」
男は記憶をさかのぼるように目線を上げる。男は何かを思い出したようだ。
「もしかして、棺桶殺人のやつですか」
男はミツオを真顔で見つめている。




