第90話 満点の敗退
「以上を持ちまして予選プログラムは全て終了となります! ポイントの集計も完了しておりますので、メインモニターに注目してください」
会場に緊迫感のあるSEが流れる。これもサキが叩いたティンパニーを録音したものだ。
「発表します!」
シンバルの音が鳴り響き、モニターに結果が映し出される。
「まずは上から、リーダーの悪魔族を中心とした7人編成バンド『フライクーゲル』! こちらリョーマさんから選評を頂いております。えっと、『人数が多い分、音の厚みがあって迫力は出せていると思う。練習時間が限られている中、パートで分担したり工夫が出来ていた。これからは全員が音を出した時に埋もれないような音作りを心掛けて欲しい』とのことです」
審査員席で大きく頷いているリョーマを横目にあたしは『フライクーゲル』へ賞賛の拍手を送った。
「続いて2組目は人族2名、人魚族1名、猫人族1名からなる『シャイニー・プロムナード』! 選評は『バンド名はアブが気に入ってた。ハイソな世界観を魅力的に演出してて良かったと思う。音楽的にはこういった特定のジャンルに拘らない演出先行型の方が色々覚えることは一杯あって大変だろうと思うけど頑張ってくれ』とのことです。おめでとうございます!」
リョーマの言ってることはだいたい本当だ。選択肢が多い方が難しいし、それが良いとも限らない。でも、表現したい世界があるからこそ頑張る。困難でもやるべきだ。
「3番目は圧倒的な存在感を見せつけた顔出しNG3人組『玉響』の皆さんです。リョーマさんからは『あまり褒めると他のバンドに悪いので俺から言う事は特に無いが、歌いながらドラムちゃんと叩けてないってサキが言ってた』だそうです」
サキが無表情でリョーマの方をじっと見ていたがリョーマは気づかない振りをしていた。
「4番目は本コンテスト最多人数となる『アステール宮廷楽団』の皆さんです。伝統的な音楽も忘れてはいけませんよね。リョーマさんからは『地元の音楽が聞けて良かった。伝統を受け継ぐも、新しいものを取り入れるものも自由だけど、記録だけは失わないようにして欲しい』だそうです」
聴き馴染みのある音楽だったからなのか、聴衆の評判も良かったし、我々も新しいものを楽しめたので高い得点を付けた記憶がある。吟遊詩人には参加資格がないコンテストなので、宮廷音楽家ではあるけど吟遊詩人ではないんだな・・・。
「5番目は『夜の顆粒ズ』! ヴァンパイアと梟人族のフォークデュオとなっております。選評は『演奏は普通だけど声に個性があって良かった。今後に期待』だそうです」
演奏中に彼女らの目の下に隈が出来ていたのを見た。夜行性の種族なのだろうか。昼間は辛いだろうにお疲れ様だ。
「6番目は『歌ってハッピー』セイレーンやハーピーなどの歌が得意な種族で構成されたグループです。選評は『演奏は普通だけど声に個性があって良かった。今後に期待』だそうです」
前のグループとまんま選評一緒じゃん・・・。リョーマのヤツ、まさか途中でめんどくなったのか? あたしがジトッとした目で見てると言い訳をかましてきた。
「違う違う、たまたま真剣に考えて相手を傷つけない言葉を選んでたら同じ文章になったんだって!」
「ほんとお?」
まあ、無理して営業トークしてるだけマシか・・・。あたしは一旦、意識をステージに戻す。
「7番目は自称本格志向のメタルバンド! 完全なヴェルディンフォロワー『アイスブレイカーズ』の皆さんです。選評は『サウンドは厚みがあって良かった。練習時間の確保が課題』だそうです」
そもそも募集から1カ月しかなかったのにリョーマもかなり無茶を言うなあ。志が高い相手とみるとすぐに壁を与えたがる。後でフォローしとこ・・・。
「8番目は変幻自在! 体の形を変えられるシェイプシフターとフェアリーのコンビ『タワンダワンド』のお二人です。選評は『妖精の人要る?』だそうです」
まあ、参加資格に2人以上って書いてあるから数合わせなんだろうけど、なんか妖精の人のダンスも世界観の提示に一役買ってたから良かったのではないかと思う。
「9番目はヴァルファゴから来た旅芸人一座のメンバー『クレイジーサイコピエロ』です! 選評は『楽しさの中に確かな狂気が表現できていた』だそうです」
このグループはあたしも気になっていた。練度はそこまででもないけど、舞台慣れしてるというか、もともと音楽に触れてる人たちのような・・・。
「最後の一組みは、野性味あふれるステージを披露してくれた『ワイルド・ライオット』に決まりました。選評は『自分たちの魅力を最大限引き出している。俺も見習いたいぐらいだが、音楽では負けてないのでセーフ』だそうです」
何言ってんだこいつ・・・。
「以上がファイナル進出の10組となります! なお紹介順は得点の順番というわけではございませんのであしからず!」
そんなこんなで予選は大幅に押してしまい、あたりは完全に日が暮れていたのだった。
街灯が辺りを照らし、演者も観客も帰路に就く中、夜間警備の人員が会場に配備された。どうやら最小限の片付けをしてそのまま明日を迎えるらしい。
「あーお腹すいたな。流石に出店も在庫無くなっちゃったか」
「イカ焼きみたいなやつ美味そうだったな」
サキが満杯の携帯灰皿を片しながら残念そうに言う。
「明日は食べれると良いな」
「食べれなくてもどっかの店で売ってるでしょ」
「メリッサに聞けばいいんじゃね?」
「それもそうか」
そんなことを言っていると、何やら見覚えのある老人と品の良い中年男性の2人組が近づいて声をかけてきた。
「お久しぶりでございます。アブさん」
「あら? どこかでお会いしましたでしょうか」
あたしは目を凝らして相手を見つつ記憶の靄を振り払う。
「タガール。少し術がきつすぎるようです。緩められませんか?」
「陛下、名前を出せば流石に術は効果を失いますぞ」
タガールの名前を聞いた瞬間、あたしの記憶のダムは鉄砲水のように決壊した。
「あー! 国王陛下!」
「申し訳ありません・・・お忍びですのでもう少し静かに」
「むぐっ・・・」
口を手で押さえて辺りを見回す。スタッフは撤収作業に入っておりこちらを気にする人はいないようだった。ひとまず胸を撫でおろす。
「ほら、みんなは初見でしょ。ご挨拶しないと」
「ご心配には及びません。皆様のことは存じ上げているつもりでおります」
「そ、そうですか」
そう言いながらボサっと突っ立ってる3人のメンバーを見る。碌な挨拶をしそうにないからお言葉に甘えておくか・・・。
「陛下がこちらに居るという事は、姫殿下の舞台をご覧になられたという事ですかね」
「はい。20人規模で特別対策室を設け、あなた方のステージを研究し、音楽に関する文献を集めた甲斐がありましたよ」
「そこまでやったんですか・・・」
なんともまあ、光栄やら呆れるやらといった感じだ。
「でも、環境面で恵まれていたとはいえ、本人に才能が無ければあのようなステージにはならないと思いますよ」
「そう言っていただけますか! 明日は是非、本人達に伝えて下さい。きっと喜ぶと思います」
「こちらこそ、ファイナルが終わってからのお楽しみにさせていただきます」
「ところで・・・」
国王陛下は深い皺を眉間に刻みながら、更に話題を切り出してきた。
「その、最初のグループやサキュバス店の宣伝のような品性を疑うようなグループはどうにかなりませんか」
うぐっ、痛いところを突かれる・・・。
「う~ん、これらも下品という美学を解すればそう悪いものではないのですけどね。やはり賛否は分かれるので予選を突破することは出来ていませんし。表現の自由を奪うことの方がこちらの沽券にかかわりますし」
「私のような人間からは不快に映りますが、価値観が異なる人々からは賞賛されるようなものという理解の切り分けは出来ています。ですが、家族連れの子供も居りますし、せめて棲み分けできないものですかね」
芸術は見るに堪えないものを表してはいけない、と言ったのはゲーテだったか。あたしらもどちらかというとゲテモノ寄りだからかなり耳の痛い話だ。彼らがどういった人物なのか聞きかじりではあるがフォローはしておく。
「擁護させて頂くと、話を聞く限りではあのゴブリンのバンドのボーカルはかなりの愛妻家で、性犯罪を行うような人物ではないのは交友関係から分かっているんです。ですが本人は作品を作るとなぜか下品になる。しかも出来が良い。だから発表しないわけにはいかない。おまけに今日は固定客も付きそうなほど人気がありましたからね」
「ふむ、芸術というのは難しいものですね・・・」
「好きなものと得意なことが必ずしも一致するわけではありませんしね」
納得・・・はされていないかもしれないが、生存は許してもらえる程度には弁護できたはずだ。だから『ゴブリンレイパーズ』、あまり表で目立たず地下で人気を博して欲しい。しかし、本気で18禁部門を創設することを考えた方が良いのか・・・?
「そろそろお暇致します。明日も宜しくお願いします」
「かしこまりました。ごきげんよう」
そう言って国王陛下とタガールを見送った。
「明日もあるし、今日はこれで終わり!」
「おつおつ~」
我々は元小劇場と思われる王都の拠点でバンド練習と洒落込んでいた。
「あれだけ大量に他人の音を聴くと流石にモチベ上がるよな」
「うん、そだね」
流石に観客とかは居ないので今日聴いた曲を思い出しながらカバーをやったりして楽しんだ。人の曲をやるのは楽しい。
「今日は会わなかったけどメリッサも会場のどっかで見てたんかな」
「そのはず」
この世界に降り立った時から既にバンドだった我々とメリッサは立ち位置は違う。何か思うところはあったはずだ。
「流石にメリッサに並び立つようなのは居なかったな」
「俺達が英才教育を施した至高の存在がどこの馬の骨とも分からん奴に易々と並ばれるとかあり得ねえから」
「それもそうなんだけど・・・やっぱ並べる人が欲しいよなあ。孤高の存在って辛いじゃん」
「そういう意味ではヴェルディンと同じ問題を抱えているわけか」
「ヴェルディンは自分の足で探す方を選んだけどね」
「スタジオミュージシャン的な人材が居るはずもなく・・・」
「私は暇だったら叩いてあげてもいいよ。流石にこっちのバンド優先だけど」
「サキならまあ片手間でもやれるんだろうけど・・・」
サキのドラマーとしての実力は折り紙付きだ。言語以外の意志疎通手段があればなおよし。
「そういえばリョーマが満点付けた最初のバンド、結構よかったのにファイナル行けなかったね」
「あー、それね。深く刺さる人には刺さるけど万人受けはしないじゃん。人気投票だとそういった尖ったバンドはあんまり残れなくて丸まっていくんだよね」
「ふ~ん、要はカップヌードルか」
「変な限定ヌードルはたくさんあるけどな」
「そういうこと言ってるんじゃないと思うけど」
よく聞く“一番売れたラーメンが一番うまいのか問題”ではあるが、売れたからこそ変なことに挑戦できる余力を得たとも言える。まあそれも一種の生存バイアスか。
「それでもファイナルに残った面々はかなり個性的だと思うよ」
「それな! やっぱ種族とか文化の多様度が半端ねえもんこの世界」
「本当にどうなっていくのか楽しみだね」
「ああ」
「そうだな」
リョーマとダンディがあたしに同意する。サキは煙草を吸いに外へ向かった。
このアジトは宿泊するのに向かないため、ホテルを取ってある。客席のソファで完全に眠りこけているリリカをおぶって宿まで移動することにした。
「う~ん・・・たまきん・・・」
「ぷっ、何? 今の寝言!?」
「やはり教育に悪いぞ、あのバンド」
「うう、そうかもしれない・・・」
「存在自体が教育に悪いアブがそんなこと言ったらダメだろ」
「うなされてるだけだと思いたい・・・」
一抹の不安を覚え、宿に向かうのであった。




