第84話 レギュレーション違反
我々は仮設クランハウスに帰って来たわけだけど。
「ああああやっぱ言うんじゃなかったああああ・・・」
道中元気がなかったリョーマがなんか情緒不安定になってる。
「ど、どしたん、話聞こか?」
「かくかくしかじかで・・・」
あたしは今日リョーマとエナさんの間に起ったことについて説明を受けた。
「そりゃ大人しく沙汰を待つしかない感じだね」
「冷てえこと言うなよな」
あたしのコメントに面白くなさそうな顔で応えるリョーマ。
「そもそも攻略終わったら晴れて男に戻るのかと思ったけど、戻りにくくなる要素を自分で追加してどうすんのって話じゃん」
「いや、今しかねえって思ったら居ても立っても居られなくてつい」
「うん、まあ起こったことはどうしようもないから、沙汰を待つって結論になるわけだけれども。それはそうと、アイリとの事は自分の中で整理できたの?」
「それについては問題ないぜ。俺は俺の人生を生きなきゃならない。このままの状態はアイリも望んでないだろう」
それを聞いてあたしはこれを言うかどうか少し考えた。でも、自明の理だ。
「男に戻ったら虫好きが復活するからエナさんは付き合ってくれないかも」
「だから気が気じゃないっつってんだよ!」
リョーマは頭を掻きむしったあと、顔を手で覆って弱々しく言った。
「ああ、もう諦めきれねえし、待つしかないのも苦しいし助けてくれよ・・・」
「あたしはそんな人間らしく悩めるリョーマをちょっとうらやましいと思うけどね」
「ふん、アブは恋人切らしたこと殆どないから分かんねえだろうな!」
「ま、まあそれは置いといて、やっぱ思いついたら即行動ってのもどうかと思うよ。自分の体の状況とかまるで見えてないじゃん」
「いや、後で考えればいいかなって」
「それで今悩んでるわけね」
「ぐうの音も出ねえわ・・・」
そう言っているとダンディが近づいてきた。
「考えをある程度整理できたら、切り替えるしかないだろう。後悔など今までもこれからも無数にあるのだから」
「それをダンディに言われると重いわ」
「事実の陳列において誰が言ったかなど些細な問題だ。俺が何か言ったところで何か変わるわけではない」
「気の持ちようは変わるかも?」
「む、そうか。やはり俺への印象は変わってしまったのか・・・」
そう言うとダンディはブツブツと独り言モードに変わってしまった。あたしもとりあえずなんか言っておこう。
「いや、バンドメンバーとして、共同生活者としてさ。その人の闇に触れる機会ってあるかもしれないけど、そういうのはお互い様じゃん。闇があるから光があるわけで、音楽をやるものとして人生全てを糧に変えていかないといけないわけじゃん。みんな何よりもバンドが好きなのは流石にバレてるし、そういうのもあるよねって気軽に共存できる関係で居たいっていうか、バンドメンバーの心境の変化も受け入れて行こうという気持ちを持とうっていうかさ、いまさら言いたくないけど、う~ん・・・」
あたしは言ってるうちにまとまらなくなってきた考えに無理矢理着地点を与えた。
「全部音楽にぶつけよう」
メンバーの顔つきが前向きなものへと変わった。いつの間にかサキも居り、言葉を発した。
「わかった。今日はドラゴンカーセ〇クスをぶつける」
「えぇ・・・」
サキの謎の気合に更なる混乱を抱えたまま我々はバンド練習に向かうのだった。
「闇よ、その深淵に届きし光を昏き底に引き摺り給え」
ブゥゥゥン
「畳み掛けるぞ!」
「おうっ!」
底冷えのする悪寒と共にあたしの言霊による闇がダンジョンボスを包み隠し、我々は靄で黒いミシュランマンのようになったボスを一気呵成に倒した――。
「2回目だからかなりスムーズだったな」
「攻略情報も先にクリアした組からもらってるしね」
我々は大量の戦利品を回収し、ダンジョンを出た。出会い頭に視界に映ったのはリョーマだった。
「おう、遅かったな」
「まあ、若干突入遅かったしね」
ダンジョンを出ると5カ国のみんなが集まって待ち構えていた。
「『金獅子の牙』が最後だ。これで5組がクリアしたわけだが・・・」
「見ろ! ダンジョンの入り口の宝玉が!」
赤色を湛えていた宝玉が光を強めると、徐々に紫へと色が変わっていき、青い色になった。周りで見ていた一般冒険者も歓声を上げる。
「やったぞ!」
「ダンジョンが消滅していないという事は安定化したまま残るタイプということか」
「これからは攻略村もダンジョンを中心に発展していくだろう」
「とりあえず任務完了だな」
アリルさんの一言にあたしはホッと胸をなでおろした。
「これでダンジョンがタケノコみたいにニョキニョキ生えてこない限りはやっと休暇が貰えるって寸法ね」
「バカ、アブ! フラグ立てんなって」
「あ、そうだね。滅多なこと言わんとこ・・・」
あたしは気になってたことを訊いてみる。
「そういやリリカとボロゾの既クリア組はどうだったの?」
「どうもなにも1層からの攻略だったぞ。せっかくだから20層まで攻略してやったわ。ボロゾのとこは18層だったか?」
リリカが嬉しそうにボロゾに話しかける。
「くっ、リリカとサキが居るパーティなんて卑怯だぞ。レギュレーション違反だ」
「50層までそのようなことは一言も言っておらんではなかったか」
ボロゾの苦しい追及にリリカも呆れ顔だ。
「これで交渉力においても汝に勝ったと言えよう」
「異議あり! それは『アーケイン・ナブラ』『金獅子の牙』両クランの物理と魔法の均衡を図った結果に過ぎず、戦力の偏りについては認めながらも埋め合わせをすると聞いているぞ」
「やれやれ、細かいことを誰から聞いたのやら」
ボロゾとリリカが言い合いになっていると、アリルさんが場を収めようとした。
「続きは酒の席でやれ」
まあ、プロジェクトに一区切りついたらまずは打ち上げだよね。
「どっかいい会場ねーの? ジモティーズ」
リョーマが『ダスク・エヴァンジェル』のメンバーに絡んで嫌そうな顔をされる。
「ああ、それでしたら」
モラさんが名乗り出た。マジ聖者。
「私の出身の修道院を貸し切っちゃいましょう」
「お、いいっすね」
あたしはすぐに相槌を打った。リョーマにオルガン直させないといけないのを思い出したからだ。我々はすぐに移動を開始した。
「おつかれさまでした~!」
「乾の杯!」
「KP」
我々はギルドと協議会への報告もそこそこに昼間から祝勝会を始めた。といっても聖堂の中ではやっていない。外の庭で立食形式だ。
「優秀な料理人も居るし、食材も自分たちのを使えばいいし、どこでも宴会できるな」
「聖都は公園でも料理を振る舞ったりするのは許可が要るぞ。どこでもというわけにはいかない」
「じゃあ、モラさんに場所用意してもらって正解だったね」
あたしはセリアにそう返した。
因みにリョーマはパンと肉をひと切れずつ齧ったらオルガンの修理に行ってしまった。チューニングの狂った楽器が許せないらしい。
「ん? あれは・・・」
メリッサが凄い顔で睨んでいるのが、頭に二つお団子と編み込みを作った中華風の女の子。なんで異世界に中華? と、思ったが、ヨーロッパぽい国とか侍とか居るから中華風の人も居るかそりゃ。
「料理の道を捨てて歌を歌ってるような女には負けないアル。大人しく出されたものを美味そうに食ってればいいアル」
「温度管理と香辛料の配分が甘いわ。見栄えは良いようだけど」
「『美味しそう』は食欲増進のための最高のスパイスアル。シナジー込みでこっちの方が美味いアル」
「両立させる姿勢を見せろって言ってんのよ!」
「お客さんで実験する趣味は無いアル」
ああ、この子が『幻影の刃』の専属料理人か・・・。
「ちょっとちょっと、メリッサもそんな詰めなくていいんじゃない? 十分美味しいじゃん」
「素人は黙ってて」
「素人は黙ってるアル」
「あ、はい・・・」
飯食うのは素人なんだし、素人の意見も参考にした方が良いよ。音楽にも通じるところあるし。などと思ったがあまりの剣幕にそれ以上口を挟むのを躊躇ってしまった。
「おーい、オルガン直ったぞ~」
「お、リョーマ!」
「マジックアンプ組み込んだからつまみで音量調節できるようにしといたぞ。ついでにストリングスとかエレピっぽい音も出せるようにしたしピッチベンドホイールも付けといたわ」
「もはや原型留めてないじゃん。てかそれ何のコスプレ?」
「アーヴィン」
「ああそう・・・って個人も行けるの、そのスキル強すぎでは。サキの格好したらサキみたいに強くなるってこと?」
「いや、あくまでなりきることが大事だからそう簡単じゃねえよ。サキの真似とか絶対無理だろ」
「確かに思考回路的な意味で無理だ・・・」
サキは世界の見え方が違うんだよな。多分メンバーの中でサキから一番遠いところに居るのがリョーマ。リョーマは険悪な目の前の二人が気になるようだ。
「なんかあったん?」
「料理のことでお互い納得いってないみたい」
「そうなん? じゃあ、勝負しろよ。俺が審査員するから」
「「!?」」
その言葉が二人に油を注いだ。
「完膚なきまでに叩きのめしてやるから覚悟しなさい!」
「半端者に負ける道理はないアル。お前は厨房の隅っこから店内に鼻歌でも流してればいいアル」
「よっしゃ、舌に拘りのあるやつちょっと来ーい!」
あっという間に料理バトルがセッティングされてしまった。
「審査員のブラディオだ。好きな料理は肉だ」
「それは料理というよりは食材では?」
「細けえことは良いんだよ!」
「審査員のボロゾだ。大好物は特にないが、最近は鴨のテリーヌが好きだ」
「審査員のロズホーンだ。昔からクリームシチューが好みだ」
「審査員のセラフィーネよ。好きなものはメガ盛りデラックスチョコバナナパフェアルマゲドン」
「審査員のリョーマです。好きな調味料は味〇素です」
「よっバカ舌!」
「うっせー、うまみ成分がまずいわけないだろ。みんな気取りやがって!」
「司会を務めるのはこの私、ユランです。皆様、覚えておいででしょうか?」
「えっと、『アーケイン・ナブラ』の方ですよね?」
「リリカ様の執事を務めておりますが、最近は隣をアブ様にすっかり取られてしまいましてね。それはさておき、皆様の好物からお題は『前菜にテリーヌ』『副菜にシチュー』『主菜に肉料理』『デザートは自由創作』となっております」
野菜少なくない? とは思ったがまあ、好きなもんばっかりお題にしたらそうなるか。
「食材に制限はございません。それではレディ、ファイ!」
戦いの幕は切って落とされるのであった。




