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第68話 置物

 




 “22層の目標。敵の殲滅。ただし物理攻撃は敵味方共に無効になる”


「来たぁ!」

「団長、置物決定!」

「うるせえ!ヘイトは取ってやるよ!」


 あたしはブラディオ、エルネスタ、シルヴィア、バラック、グラントと一緒にダンジョンに潜っている。『アーケイン・ナブラ』と『金獅子の牙』。魔法と物理に偏っているお互いの編成において、多様性を維持して対応力を高めるためにメンバーの一部を入れ替えている。

 あたしは移動速度アップのため『疾風のパラディドル』を展開する。使用楽器は振って音を鳴らすシェイカーという手製の楽器だ。


「『サモン:風精シルフィード』」


 シルヴィアの召喚加護効果で更に移動速度はアップする。制限時間があるため、我々はダンジョンの先へ駆け足で進む。あたしは移動しながら『魔泉のアルペジオ』『罅隙のオブリガート』を展開する。


「エーテルバタフライだ!5体」

「団長!お願い!」

「うおおおお!『ウォークライ』」

「弱点は炎です」

「グラント!ありがと!」


 ブラディオは雄たけびを上げながら敵に突っ込んでいった。ブラディオに気づいた青いオーラを纏った五十センチぐらいの蝶の群れは、魔法弾を撃ち出してきた。ブラディオは体当たりでそれを全て正面から受ける。あたしは言の葉を紡ぐ。


「はためく虫は誘わる、燃えよ!猛夏の盛りに!」


 あたしの声は凛として響き、エーテルバタフライの群れの中心にごうと音を立て、引き寄せ効果を伴った火柱が上がる。それは3体の羽を焦がし、体中に燃え広がせる。床に落ちたエーテルバタフライはそのまま消滅した。


「『エンチャント・フレイム』!よっと!」


 魔剣士であるバラックが炎の魔剣を振るう。残り2体のエーテルバタフライを燃え上がらせ、同じく消滅させた。


「星の癒しよ『スターライトヒール』!」


 戦闘が終了したのでエルネスタがブラディオを回復させる。


「サンキュー!次だ次」

「アブさん、なかなかやるわね・・・」

「へへ、どうも」

「威力だけなら折り紙付きっスよ」


 シルヴィアがあたしを褒め、バラックが威力を保証する。召喚獣は強力だが、指示を出さなくてはいけないため、初動は遅れがちだ。魔剣士や言霊師のような小回りの利くジョブが加わったことで弱点が補われ、来たかいがあったと実感する。『アーケイン・ナブラ』だと全部リリカが出合い頭に倒して終わりだ。


「コカトリス3体!邪眼と石化ブレスに注意!」

「星の護りよ!『スターダストヴェール』」


 エルネスタが状態異常を1回だけ無効化する魔法をパーティ全体にかける。


「『ウォークライ』!」


 ブラディオが注意を引き付ける。コカトリスは大きな鶏と言った感じだが、尻尾は蛇の様で、人間と同じぐらいのサイズ感があるため、かなり厳つい。


「腹が減ってくる敵だな!こいつの肉はうまいんだ」


 口の中に広がる肉汁。香ばしい焦げ目、ハーブの醸す味のハーモニー。あたしもお腹がすいてきた。


「石屋彫って七つの輪、焚きつけ鳥葬らむ」


 コカトリスは丁度いい加減の火で炙られ、体の一部を焦がした。


「あー、時間かけて焼かないと美味しくないよね。ごめん、イメージ引っ張られちゃった」

「ちょっと、団長が余計なこと言うからアブさんが言霊失敗したじゃない」

「す、すまん。こいつは本当にうまいんだ。おっと」


 敵の嘴と爪を避けながらブラディオは謝る。バラックが既に駆け出して氷の魔剣を振るう。


「『エンチャント・フリーズ』」


 氷の刃はコカトリスのうち1体を真っ二つにした。切り口は見事に凍って血の一滴も出なかった。


「力が溜まったわ!シルフィード!『エアブラスト』よ!」


 凄まじい風がおこり、コカトリスの羽をブチブチと千切り始める。石化ブレスを吹きかけようとするが、こちらに届くはずもなく霧散してしまう。

 グラントが杖に力を込め、狙いを定める。


「リリカ様より授かりし力!『サンダーボルト』!」


 雷鳴が空気を切り裂き2体のコカトリスを黒焦げにする。


「ああ、焼き過ぎだ・・・」

「帰ったら好きなだけ食べればいいじゃない。どんだけ食い意地張ってんのよ」


 ブラディオがシルヴィアに呆れられる。まあ、あたしもちょっともったいないなって思っちゃった。


「大部屋だぞ」

「ボスかな?」

「敵の反応あり。1体だけの様です」


 中を開けると部屋の中央には仏像のような魔物が居た。


「吽形ですな」

「知っているのねグラント!」

「解析しましたので・・・」


 あたしは劇画調になりそうになった。吽形は「阿吽の呼吸」の吽を司る仁王像の片割れの事だ。口を閉じ静かな力強さを誇っている。


「どう見ても物理っぽい敵だけど・・・」

「確かに普通に戦えば物理で押してくる相手ですが、水属性の術を得意としています」

「へえ、意外」

「行くぞ!『ウォークライ』!」

「作戦とか無いのね・・・」

「このぐらいの層で作戦など不要だ!」


 リリカみたいなことを言っている。強い人ってこれだから・・・。

 エルネスタがアストロラーベを設置して回復距離を伸ばし、継続回復スキルである『星天の加護』を発動させる。


「魔剣『ニヒリティブレード』」


 バラックが何やら魔剣を取り出す。柄だけだと思ったら刀身がラ〇トセーバーのように黒い光を伴って現れる。バラックは吽形に近寄り背後から切りつける。


「闇属性の攻撃っスよ。効くっしょ」

「むうん!」


 吽形はダメージを受けたようだが、水球を次々と作り出しブラディオにめがけて放つ。


「ふん!そんな水玉など!おわっ」


 ブラディオは複数の水の弾を受け、その弾同士が合体し、大きな水玉の中に閉じ込められてしまった。ヘイトはリセットされ、バラックがターゲットを取る。だが、流石にあのままではブラディオが窒息してしまう。あたしは咄嗟に言の葉を紡ぐ。


「啜れ!水よ龍となり、下界へ還れ」


 ブラディオを包んでいた水がキッチンシンクに吸い込まれるように渦を巻いて消えた。回転しながらブラディオはバランスを崩すが、エルネスタから回復魔法が飛んできた。


「目、目が回った。くそ、もう大丈夫だ」

「シルフィード!『エアカッター』よ!」


 エアカッターで浮遊する水玉を破壊する。あたしは『鏡像のレゾナンス』でバラックのヘイトをブラディオへと移す。


「ふん、水玉を壊せばいいんだな。もう食らわんぞ!」

「敵さん生憎もうそんなに体力は残ってないっスよ」

「むうん!」


 吽形は合掌したかと思ったら、閉じたままの口から尋常ではない速度の水鉄砲を放ってきた。


「うお!あぶねえ!」


 ブラディオが持っていた斧で弾く。


「止めだ!『マーシーエッジ』」


 バラックの十八番、敵の自動復活や食いしばり系のスキルを無効化して止めを刺す剣技が炸裂して、吽形は沈黙し、消滅した。


 “条件達成。次のフロアへ進みます”


「ふい~、なんかどんどんきつくなってるね」

「次は制限とかなしで頼むぞ」


 本日の我々は28層まで進んだ。







 ダンジョンの外に出た。サキと『アーケイン・ナブラ』のみんなも居たので話しかける。


「おつかれ~! どうだった?」

「いつもとそんなに変わらなかった」

「魔法禁止が今回は出なかったからね。リリカ無双って感じだったよ」

「それでもお互い28層か。やっぱ戦闘より移動距離とかギミックの方が厄介だよねえ」


 そんな話をしていたら、『幻影の刃』のみんなも通りすがった。見覚えのあるどこにでもいそうな男が嬉しそうに話しかけてくる。


「やあ、こんにちは。僕たちは30層まで進んだけど。君たちはメンバートレードまでして28層かぁ」

「ぐぬぬ、シッシッ!」


 リリカがボロゾを追い払おうとする。昨日はボロゾも熱心に情報収集をしていたみたいだし、その成果が出たみたいだ。あたしは疑問に思ったことを訊いた。


「物理禁止がお題に来た場合は『幻影の刃』もきつそうに見えるけど、どうしてんの?」

「確かにマルガレーテ准教授の燃費は悪いが、一心斎には『妖刀・陽炎』があるし、ブリューナも闘気を飛ばす魔法攻撃判定の技を持っているからそれほど苦ではないよ。僕にもそれなりに魔法の心得はあるしね」

「へえ、器用なんだな」

「呪歌が使えるならメリッサも置物にならないし、ルイーズは回復も魔法も物理も行ける万能型だ。スタンドプレイにおいても『幻影の刃』に隙は無いよ」


 なんかパーティ自慢が鼻についてきた・・・。適当にあしらって特訓に行こう。だが、ボロゾは話をつづけた。


「話は変わるけど『人権派』のアジトから続く洞窟のことで、調査が終わってやはりグレザール帝国へ通じていることが分かった。スラン側からは『人権派』の身柄の引き渡しを要求するらしい」

「あちらが易々と表立って情報提供するとは思えんな。ただでさえ友好的とは言えない国だ。そもそも一連の件は工作の一環の疑いがある」


 リリカが懸念を抱く。グレザール帝国は我々5カ国とは協定を結んでいない非同盟国だ。現在は軍事的な対立こそないが、国民に圧政を強いて軍備を増強しているという噂を聞く。


「そう! まさにその通りなんだよ。本当なら僕が直接行って内情を探ってこようと思うんだけど、ダンジョンの方が大事だからね。現地の冒険者に情報提供をお願いしようかなって考えてるんだ」

「汝のポケットマネーでか?」

「いやだなあ、スランに出してもらうに決まってるでしょ」


 前回の会議でボロゾは神官長に首魁を捕らえられなかったら責任を問うぞ、とまで言われてたのを思い出した。責任は多分、有耶無耶にするんだろうなと思いつつも、そもそもボロゾが教会からお金を引き出そうとしていたことが発端だったような。


「まだ首謀者捕まえてないと思うんだけど、出してくれるのかな?」

「出してもらうさ。そうしなければスラン側もマズいということぐらいは自覚しているはずだ。あの神官長はそこまで頭は悪くないよ」


 ボロゾは神官長の事をそう評す。金に厳しく実務寄りの人物だけに、きっとボロゾも親近感が湧くのだろう。


「だから、なるべく調整を急ぎたいから、悪いけど聖都まで移動頼めるかな?」

「う~ん、どうしよっかな~? さっき進捗でマウント取られたしなあ・・・」


 まあ、最終的には協力するのはそうなのだが、簡単には協力しないぞというポーズだけ取っておく。実際、パーティ自慢されて鬱陶しいなと思ったし。


「頼みたいことはあるっちゃあるんだけど、リョーマと合流した時に話そうかな。移動に関してはまあ是非もなしっていう状況だから協力するよ」

「勿体ぶるねえ。楽しみにしてるよ。それじゃ後程」


 そう言ってボロゾは去って行った。リリカがあたしに話しかける。


「今日の特訓はどうするんだ?」

「まあ、聖都でも出来るでしょ。あたしも向こうで用事あるし」

「ならば全員を集めて待機しておくか」


 そういう結論になった。









「へえ、時術ってそういう感じなんだ」

「使いこなせるかどうかはこれからのトレーニングにかかっているが、『ダスク・エヴァンジェル』は訓練に協力をする時間を設けると言ってくれている」


 あたしはダンディとリョーマに昨日エルフの里であったことを共有してもらった。

 昨日は夜遅くに帰って来たようだったが、ダンジョンは早朝に行っていたため突入回数を無駄にするようなことはしていないようだ。


「あたしも戦闘訓練してるんだよ。言霊は結構強いし、寄られた時の体捌きもかなりこなれてきたから大抵のモンスターなら相手できちゃうよ」

「それは言い過ぎだ。まだ教えていないことが山ほどある」

「そのせいでリリカがこんな感じで厳しいのよね・・・」


 リリカに釘を刺された。まあ、サキと比べられると全然だけど。


「リョーマはルルイエの時からザインヴァルトの人と戦闘訓練してるんでしょ」

「まあ今までの俺の場合は体力トレーニングがほとんどだったけどな。実践を本格的にやるのはこれからって聞いたぜ」

「ちゃんと武器使えてえらいよリョーマは」

「斧は重心がギターに似てっからな」


 あたしも魔力での身体強化はできるが、リーチや威力面を考えると素手では心許ない。何か使いやすい武器があれば良いのだが。

 そうこうしてるうちに聖都へ移動する組はみんな集まってきた。便乗する一般冒険者や仕入れ業者などもおり、自分達が居るうちはもう時間を決めて定期便にしてしまおうかなとも考えている。あたしはボロゾを呼び止めた。


「ボロゾ! さっき話してた件なんだけど、リョーマが居るから頭出ししとこうと思って」

「おや、歓迎するよ。リョーマくんはエルフの里でもこっぴどく振られたみたいじゃないか」

「うっせーな! 振られたんじゃねえよ! お互いを尊重してそれぞれの道を行くことに決めたんだっつーの! そもそも誰から聞いたんだよ」

「さっき『ダスク・エヴァンジェル』のメンバーと事前の打ち合わせで会話しててね。本当に男同士の恋愛に走ってしまったのかと思って心配したけど、杞憂で良かったよ」

「お前の妹には期待してるからな!」


 まだ諦めてなかったのか・・・。っていうかボロゾの妹とか、顔はともかく性格がボロゾに似てたら嫌なんだけど。頼む、こいつだけ突然変異であってくれ。


「まあ、前置きはこのくらいにして本題なんだけど。何をやって欲しいんだい?」

「ん~、まあ俺達がインターネットって呼んでる異世界の技術なんだが、それをこっちでも実現できないかっていう案があってね。ビジネスとして儲かりそうな話になるから、聞くだけ聞いて実行計画なんかを練る時間を作ったらいいんじゃないかと思ってな」


 リョーマはインターネットの概要を説明した。


「要は冒険者登録システムの流用で世界中におけるあらゆる情報のやり取りが可能になるそのインフラを構築したり許可を取り付けたりする実務面と資金面でのエージェントをやって欲しいんだ。具体的なユースケースは――」

「ストップ。 一先ず、儲かりそうな話という事は理解したけど、君たちに伝えている通り僕がやりたいのはあくまでダンジョン攻略だ。現状、そこまでの時間的資源を割くだけのメリットがあると思えなかった」


 ボロゾはリョーマに厳しい目を向ける。リョーマは残念そうに肩をすくめる。そこにあたしは口を挟んだ。


「ん~、じゃあこの事業が出来そうな知り合いに心当たりは?」

「ヴァルファゴの八大商会が総出で何とかってとこだね。その規模だともう寡占するのは難しいだろう。流石に僕はその音頭を取って一生を棒に振るつもりはないよ」

「やっぱ、そのぐらいの規模になると一生分の事業なんだな・・・。了解、取り敢えず肌感は分かった」

「異世界の技術の話としては大変興味深かったよ。今は無理だけど状況が好転すれば機会はあるかもね」


 そう言ってその提案は棚上げになった。

 我々は聖都へ『楽隊マーチングバンド超特急エクストリーム』で向かった。


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