第64話 不均衡
「う~ん、これは我々のパーティの明確な弱点だね」
「ダンジョンのルールで魔力を禁止されてしまうと物理的な戦力に頼るしかなくなるな」
「今は低層だから敵が弱くて助かってるけど、今後の事を考えるとね・・・」
まさかパーティの個性が潰されてしまうとは。戦術に多様性を内包させないと魔力禁止が来ないことを願う運ゲーになってしまう。
「かといって今すぐに解決できるような問題でもないの」
「特にリリカ様、アブ殿、この私グラントの物理的戦力は5カ国の代表クランの中で見ても著しく低いです」
「マルガレーテはあれでいて物理的破壊にも通じておるからの。爆弾の投擲やハンマーの類が得意だ。やはりスタミナは壊滅的に無いが」
研究で迷走し過ぎて魔法を捨ててみたりした時期があったのかな?音を捨てた現代音楽みたいに。
「乱戦で爆弾とか勘弁してほしいな」
あたしはルルイエ50層で味方を巻き込んでの破壊魔法連打を思い返した。あれがモラの防護魔法なしに行われると思うとぞっとする。
「ちくしょー!今日はハズレだ!21層までしか進めなかったぜ」
「もうちょっと魔道具を持ち込むべきなんですかねえ」
聞き覚えのある声で振り返るとサキと『金獅子の牙』の面々がダンジョンから排出されてきたところだった。あたしはブラディオに話しかける。
「おお、調子はどう?ってあんまイケてなさそうな感じ」
「聞いてくれよ。物理攻撃無効の層に当たっちまってよ」
「あれ?なんか身に覚えのあるエピソードだ・・・」
「ん?『アーケイン・ナブラ』なら物理無効とか何の問題も無いだろ。羨ましいぜ」
「違うって。こっちは魔力禁止の層に当たっちゃって」
「ああ、なるほど。そう言う事か。お互いツイてないな」
『金獅子の牙』は戦士、魔獣使い、シーフ、召喚師、星読み、吟遊詩人という殆ど物理特化型の編成だ。魔法は星読みであるエルネスタと召喚師であるシルヴィアに頼るほかない。
「ロックゴーレムなぞ本来は瞬殺なのだが、倒すのにリベリアが3回も殴らなければならなかったぞ」
「ほう、ヒーラーにしては強いな。ダンジョンも1回しか入れねえし暇なら俺と模擬戦してみるか?」
ブラディオがリベリアを模擬戦に誘う。
「いいだろう。だが、誰か他に死人が出た場合、蘇生は私に任せてもらおう」
「そんなんで良いのか?変わった奴だな」
「あ、貴方だったのね!ルルイエの東区に無報酬で蘇生する変人が居るって噂だったのよ。私ならちゃんと定価で蘇生するのに」
「お?よく見たらあの時の緑のおっさんじゃん」
エルネスタとサキがリベリアに反応する。50層で一度一緒にはなったと思うけど、人数が多かったので、当然の如くサキは誰が誰だか覚えていないだろう。
「む、言われてみればお前はあの時の。また新鮮な死体を頼む」
「話題とゾンビは鮮度が命」
意味不明な会話を繰り広げる。この二人仲良かったのか・・・。
「リベリアってなんでそんなに蘇生が好きなの?」
「気持ちが良いからだ」
「あ、そうなのね」
理屈ではないんだろう。あたしも分野は違えど同じ世界観を共有している。
「だが、強いて言うなら」
「ん?」
「邪神様はとてもお茶目な方なのだ。あの方の素晴らしさをみなに広めたい。あと、リリカ様万歳」
「申し訳程度に忠誠を見せるな」
リリカがリベリアに突っ込む。
それはそうと。
「ねえ」
この多様なメンツが集まってみて思ったことがある。あたしはそれを口に出してみる。
「このダンジョンだけでも『アーケイン・ナブラ』と『金獅子の牙』でメンバーを一部コンバートしてみるってのはどう?」
みんなに衝撃が走った。
「さて、誰と誰を交換するのがより良い選択か。話し合おうではないか」
建設ラッシュの野営地と行商人を脇に望み、我々は空き地に椅子を並べて議論を開始した。
「なるべく同じ役割で入れ替えした方が無難ですよね」
「貴重な吟遊詩人が2人になったりするようなことはこちらも望まん」
クロードとリリカが正論をかざす。サキと一緒になれればいいなと思ったが、吟遊詩人は公共の資源のような扱いを受けているため、編成の偏りはNGらしい。
「リーダーが交換対象になるとややこしくなるな。リリカさんとブラディオさんのパーティとか見てみたくはあるけど」
「残された方が余りものっぽくなるからダメだよね」
「もはやどっちがどっちの所属か分からなくなるのも問題だ」
「つまりタンクとメイジの枠は固定、と」
リリカはホワイトボードのような魔法を展開し始めた。6人2パーティ、計12名の顔アイコンが映し出された。メイジ枠であるリリカ、シルヴィアとタンク枠であるロズホーン、ブラディオの色が灰色に着色される。
「ヒーラー同士の交換はメリットが薄い気がするぜ。こっちはただでさえ魔法人材が不足しているのに魔術寄りのエルネスタと武闘派のリベリアの交換では偏りが加速してしまう」
「という事はヒーラーも交換NGだな」
エルネスタとリベリアの顔アイコンがグレーアウトする。
「次は前衛アタッカー枠」
「これはメリットがあるな」
「魔剣士は確かに魔力を帯びた搦め手も使えるが、別に物理が弱いということはない。一方、魔獣使いは魔法は使えないが頭数を増やして盾役にすることも出来る。物理的な話なら火力面でも、防御面でも魔獣使いの方が上だろう」
「魔獣の中に魔法を扱えるものは居ないな。ベヒーモスの雷などは魔力と判定されず、物理の雷属性と判定されるようだ」
「では候補として保留だ」
バラックとライラのアイコンが光を強める。
「次はスカウト枠だ。スクリアであるグラントとシーフのクロード」
「正直、戦闘力はクロードの圧勝だね」
「シルヴィア、雑に褒めないでください。でも、戦闘以外は負ける部分がありますよ。鍵開けや罠解除なんかは接近するシーフより魔術的に解析して解除してしまうスクリアの方が安全で早いです」
「グラントを出すなら魔道具に予め我の魔力を込めたものを持てるだけ持たせておこう」
「申し訳ありません・・・」
「これも『金獅子の牙』にメリットの無い話ではないな。スクリアなら隠蔽魔法も心得があるだろうしパーティ全員が安全に移動できる」
多分、あたしがいるからってリリカが張り切って全部やってたんだよなぁ。もうちょっと部下に花を持たせてあげればいいのに。
グラントとクロードのアイコンもやや光が強くなった。
「スカウト枠は候補として保留。ではサポートの吟遊詩人の枠だが・・・」
「正直サキは物理職としても強すぎるぐらいだ。手放すのは惜しいが、物魔の偏りを減らす意味では言霊を使えるアブに来てもらうメリットも感じている」
「最近ようやくソロでモンスターを倒せるようになってきたからな。これからまだまだ伸びるぞ」
「トレード候補としては最有力の枠だな」
あたしめっちゃ期待されてる。もっと特訓しないと・・・。
「では以上の枠を交換すると出来上がるのは、『アーケイン・ナブラ』リリカ、ロズホーン、リベリア、ライラ、クロード、サキ。『金獅子の牙』ブラディオ、シルヴィア、エルネスタ、バラック、グラント、アブ」
「ぐ、リリカとサキが一緒だなんて・・・最強じゃないか」
「そもそもが物理と魔法の不均衡を是正するのが目的だ。通常の戦力として見ると偏ってしまうのは目を瞑るべきなのではないか」
「それについては全くその通りだ」
「とはいえ『アーケイン・ナブラ』側が得をしているというのはもちろんその通りだ。まだ考え付かんが、グラントに持たせる魔道具だけでなく別の形で埋め合わせを行おうと思う」
「ん~、まあこっちも今すぐには思いつかねえが、あのリリカ・エラディンに貸しを作れると考えれば全く気にならねえな。ガハハ」
ホワイトボードの顔アイコンは位置が入れ替わり、話はまとまってしまった。
「で、これが特訓用の防護服ってわけね」
「多少は動きにくいだろうが我慢しろ。仮に死なれでもしたら衰弱から復活するのに中1日かかってしまう」
リリカの作り出した真っ白な閉鎖空間で、あたしは対放射線スーツ、いわゆる宇宙服のようなものを着させられ、バラックと対峙している。体捌きのトレーニングとしてリリカが用意した環境が現在のこの状態だ。
「これからバラックの太刀筋を無手で避けきってもらう」
「リリカ様~。手加減苦手なんスけど、本当に本気でやっちゃっていいんスか?」
「そうでなければ特訓の意味がないだろう」
「ん~じゃ、この剣が良いかな」
そう言ってマジックバッグから何の変哲もない剣を取り出す。両手でそれを曲げてみせる。
「ホラホラ、ゴムみたいに曲がるんスよ。でも、当たれば鞭みたいにそれなりに痛いと思うから気を付けた方が良いって感じ」
「では、始めよ」
「ウィーッス!」
合図と同時にバラックは間合いを詰めてきた。あたしは重心を低くして身構える。バラックとその手に持った剣の一挙手一投足を見逃さないように観察する。だが、バラックは近づきながら回転し、刀身を自分の体であたしの視線から隠すように移動させ、斜めに薙ぐような一撃を放ってきた。
「ッシ」
バチン
半身をずらしてよけようとしたあたしはその軌道を捉えることが出来ず、剣はあたしの肩口に命中した。
「まず一本」
「今の観察は悪くないっスけど、太刀筋を相手に観察してることが伝わってるっス。搦め手が得意な相手からすると超ベリーイージー。もっと筋肉の流れとか見ると良いっスよ」
「相手が人間じゃない場合でも?」
「まあ、その応用というか雰囲気で分かるようになると思うっスよ」
「なるほど。次、お願いします!」
あたしは今度は筋肉の動き、力の流れを捉えることに注意する。するとバラックは半身に構える。剣の切っ先はあたしに向いている。
「フッ」
ドッ
吐息と共に尋常ではない速度の突きがあたしの肩に刺さった。
「あだっ」
「今のは構えを見て軸をずらすか距離を取らないとマズいっスよ。突き技ってめっちゃ見切りにくいっスから」
「反応できる速度じゃなかった・・・」
「お褒めに授かり光栄っス。あ、リリカ様。やっぱり反撃してこない相手だと牽制もないし、攻め放題スけどこれで大丈夫スか?」
「無論、これで問題ない」
「なら、オッケーっス。次いくっスよ」
バラックは今度は距離のある場所から剣を構える。
「『リープエッジ』」
バラックの得意技で遠くから剣閃を放つスキルだ。予備動作が大きく、距離があったので到達するまであたしは反応して右に移動して避けた。
「ウェ~イ!」
バラックはまだまだ剣閃を放ってくる。その動作が見えていたあたしは更に走って剣閃を躱す。
「そらっ!」
今度は進行方向に剣閃を撃ってきた。あたしは急制動をかけ、剣閃にぶつからないようにする。
「もういっちょ!」
急制動をかけたため移動することが出来ない。当たる――。
ドガッ
剣閃はあたしを捉え、衝撃により数歩分弾き飛ばした。胸に衝撃を受けて息が詰まったが、真剣だったら真っ二つなのだろう。
「うっ・・・」
「これが、いわゆる『詰み』っス。時間と空間を制圧していく過程が良く分かったと思うっスから、今度はこれを続けて最小限の動きで避けられるようになるまで繰り返すっスよ」
「押忍!師匠!」
黙って見ているだけだったリリカも徐に口を開いた。
「アブよ。戦いとは筋書きである。相手の描く物語を上回らなければならぬ。見ることも大事だが、次に考えて、最後に感じよ。さすれば何者にも負けん」
「見えてはいるようだからあとは慣れっスよ」
特訓は手を変え品を変えこの後も続いた。




