第63話 フィジカル
「今日も一日頑張るぞい!」
朝を迎えて宿から攻略組を便乗させてダンジョン付近へ向かった我々は、各クランでダンジョン攻略を再開させるべく気合を入れた。といっても1日1回攻略という事が分かっているので、終わったら自由時間だ。とはいえあたしはリリカと魔法の訓練をしなければならないし、サキはドラゴンの子育てで忙しいらしい。今はバンドメンバーの4人しかいない。そのサキがアビーをあやしながら言う。
「アビーは肉ばっかり食べてる。逆ヴィーガン」
「ドラゴンは寝てる時間が結構長くて割と育てやすいらしいね。一般的には懐かないってことになってるけど」
「タバコ吸っても良いのが神」
あたしはリョーマとダンディに昨日の話を聞く。
「で、そっちはどうだったの?」
「ああ、リョーマは結局、相手の性別によって愛の形が変わるわけではないという結論に至ったようだ」
「まあ、あたしからしたらそりゃそうでしょって感想なんだけど、体験しないと分からないんだよねリョーマは」
「ああ、俺は今、長命種の愛に興味がある!エルフは顔面偏差値高いからな!」
「短命種との恋愛はあんまり歓迎されないみたいだし、安易なロミジュリとかやめといた方が良いんじゃないの?」
「うるせー!ペット感覚で養ってくれる心の広いエルフのお姫様とか居るかもしれんだろ!」
「それでいいのか・・・」
あたしが口を出すことじゃないかもしれないが、リョーマがその枠に収まるはずが無いのは自明の理だ。
「それはそれとして、時術の資質を引き出せる人物がこの森のどこかにあるエルフの里に住んでいることが分かった」
「え、それは是非とも力を引き出していただきたいね」
「『ダスク・エヴァンジェル』のメンバーには通達済みだ。戦力アップが見込めるため、ダンジョン攻略の後、クランメンバー全員で挨拶に向かうことになっている」
「『第七特殊迷宮攻略分隊』のみんなとも一緒に行くことになってるぜ」
「なんで?」
ダンディはともかくリョーマが向かう理由が分からない。
「なぜか俺が行きたいと言ったらアリル隊長の許可が下りたんだ。ただし条件としてクラン全員で行くという事になった」
「あのお堅いアリルさんがね・・・。謎だけどまあ、みんなが一緒ならそんなに危ないこともないだろうし別行動で良いのかな」
「最悪泊りになった場合は、明日の夜までにダンジョンに入れば攻略回数を維持できるからな」
ダンジョンは深夜0時にきっちり再突入可能になるらしい。回数はストックされるということはないため、突入できない日が多いとその分ロスになる。
「次のライブはこの国でやりたいね。良いハコあればいいんだけど」
「ああ、それなら昨日行った秘密クラブが良いんじゃないか?ステージもあったし」
「5000人規模のライブをやった我々からすると狭いかもしれないが、ハコの大きさだけが価値ではないことを我々は良く知っているはずだ」
「そうだね。店側と交渉して日程詰めるのはあたしがやっとくね」
「アブなら大丈夫だと思うが、秘密クラブなので配慮を忘れるなよ」
「無理なら無理で諦めるから」
あたしたちはそう言って別れた。
ダンジョンの周りの町はまだプレハブのような建物が多いが、1日で随分形になってきた。魔法や魔道具による建築技術のお陰でかなりの速度で進んでいる。あたしはリリカと再合流してダンディの時術の事を共有した。
「ほう、ついに時術師殿も覚醒の時か」
「リリカも話を聞きに行かなくていいの?」
あたしは疑問に思ったので聞いてみた。行くと言えばあたしも着いて行く。
「よい、恐らく眠っている力の使い方を教えるだけであろう。時術そのものについては我が直々に研究するしかない」
「そういうもんなのか」
そのようなやり取りをしていると、メリッサと『幻影の刃』の面々が居たので声をかける。
「おはよー!これからダンジョン?」
「おはよう!なんかリーダーが他のパーティから情報収集するって言ってるから今日の突入は遅くなりそうなのよね」
メリッサはあたしに挨拶を返し、事情を説明した。
「本当はすぐにでもダンジョンに入りたいのを我慢して、余程あなたたちに負けたのが悔しかったのかしら」
「そう、悔しいんだ。認めなければならない。でも、僕たちと張り合えるパーティが居ることを喜ぶべきなのか」
ボロゾはとても充実してそうな笑顔を浮かべ、こちらを見る。
「うわ、リリカのせいだかんね。責任もって相手しといてよ」
「ふん、挑戦なら受けるまでよ。馴れ合いは不要」
「ああ!いい!」
リリカの模範解答を受け、絶頂に達しそうなボロゾは取り敢えず無視しておく。
「早めにダンジョン攻略して各自自由時間に充てた方がライフワークバランスが取れると思うんだけどね」
「実働たった1時間ではないか」
「そうは言ってもダンジョンの仕組みの問題だしねえ。その分あたしも魔法の習得に時間が取れるわけだし」
「ふうん。その分戦闘訓練に充てるってのもありなのかな」
メリッサは思うところがあるようだ。
「実はこの解体包丁って言う武器を貰ったんだけど、戦闘で使うにはまだまだ慣れてなくて」
そういうとメリッサは明らかに両手で持つサイズの鉈のような包丁を取り出し構えてみせた。
「おお、近接戦の武器!」
「食材の解体は慣れてるけど、やっぱり動いてる相手じゃないとね」
「あの店ってそんな大きなサイズのお肉解体してたのね・・・」
「店長が安いからってお肉は一頭買いしてたの。使ってた道具はこれより全然小さいけどね」
知られざる店のバックヤード事情が聞けた。
あたしはあたりを見回すとある事実に気が付く。
「そう言えばもう行列は出来てないのね」
「ああ、一日一回だという事実が広まってしまったからね。各々待ち時間は住環境を充実させたりして突入をずらして挑戦するだけだろう。昨日も夕刻前ぐらいには待ち時間もなく突入出来ていたようだ」
「まあ仕組みが分かればそんなもんかもね」
そう言って『幻影の刃』のみんなと別れ、突入の準備をするのであった。
“16層の目標。目的地まで魔物に見つからず到達せよ。”
「クアドラブルスペル『コンシールメント』『スニーク』『デオドラント』『フェイドサイン』」
リリカが存在希薄、消音、消臭、魔力痕跡隠蔽の魔法をパーティ全体にかけ、念話も展開する。
「急ぐぞ」
「手慣れたもんね」
我々は難なく次層へと進んだ。
“17層の目標。モンスターの殲滅。制限:魔力の使用”
「なんだと!?」
「魔法が使用できないようです。魔力も探知できません」
「これは困ったな・・・」
あたしは肉弾戦が得意ではない。多分リリカも得意ではない・・・はず。
「この中で近接戦闘が行えるのはバラック、ロズホーン、リベリアだな。3人を前に出し、我々は後方から支援するぞ」
「リベリアって近接行けるんだ!?」
ダークプリーストであるリベリアには危ない時の保険というイメージが染みついていたので、あたしはびっくりした。
「私の第二適正はモンク僧だ」
リベリアは拳を突き出し蹴りを放つなど体術をアピールする。
モンク僧ってよりは破戒僧っぽくはある。多彩な剣技を持つバラックとガタイの良いロズホーンはまあ説明不要だろう。
「呪歌も言霊も魔力を使うから何か物理的な武器を使えるようになっておいた方が良いのかな」
「それはダンジョンを出てから考えるとしよう」
リリカはマジックバッグから由緒正しそうな鞘に収まった短剣を取り出し、腰に装着した。グラントも手に持った護身用の錫杖を構えながら進む。ロズホーンはいつぞやのランタン頭を装着し、いつものマジックシールドではなく、スパイクシールドを装備している。
「グールの群れだ!6体!」
「ロックナーガも2匹!」
バラックとリベリアが颯爽と敵に向かって駆け出す。ロズホーンは少し後方から我々を守るように立った。
「頂き!」
バラックがすれ違いざまに2体処理して更に2体の攻撃を二刀流にした剣で捌く。リベリアは飛び蹴りで1体を吹き飛ばし、もう1体にぶつける。まだグールは息があるようだ。
「キシャー!」
「蛇が!」
「させん!」
後衛を狙おうと地を這いずったロックナーガの尻尾をロズホーンが足で踏みつけ頭の近くを手でつかむ。
「もう1匹はどこだ!?」
もう1匹はあたしたち3人の方へ向かっていた。
「ひぃ!」
「落ち着け、身をかわして距離を取り、時間を稼げ」
リリカとグラントは互いに距離を取り、武器を構え、受け流す体勢を取る。
あたしは何も持っていなかったので、いつも使っているライアーを取り出した。
「シャー!」
ロックナーガがあたしに向かって飛びついてきた。
「来ないで!」
ガッ!
あたしは必死にライアーを振り回した。横薙ぎの一撃はロックナーガの横っ面を捉え、壁に弾き飛ばした。だが、ロックナーガというだけあって流石に頑丈だ。平然と起き上がり、2度目の襲撃を行おうとしてくる。もちろん怒りの矛先が向かっているのはあたしだ。
「させるかよ!」
スパン!
既にグールを始末したバラックが颯爽と駆け付けてロックナーガの頭をはねる。敵は全滅したようだ。
「ふう・・・こわ・・・バラック、ありがとう!」
「いいってことよ」
「被弾しても毒消しやポーションがあるとはいえ、問題がありますね」
「課題は後回しだ。さっさと殲滅して先へ進むぞ」
我々は先に進んだが、いつものように瞬殺とはいかず、時間を取られた。目標が殲滅なので敵を避けるわけにはいかない。
次に待ち構えていたのはロックゴーレムだった。
「こいつを倒さないと先に進めぬか」
「硬くてタフな敵は嫌だね」
「私に任せてもらおう」
リベリアが前に躍り出る。
「破岩掌!」
中腰から大きく足を開き、掌底を繰り出す。ロックゴーレムの体は大きく削れ、バランスを崩し、大きな音を立てながら倒れた。
「モンク僧の技だな。岩で出来たモンスターに特効がある」
「剛体靠!」
背中から体当たりを受け、ロックゴーレムは壁際まで吹き飛んだ。限度はあるが、重い敵でもよく吹き飛ぶという効果を持っているらしい。
「見えた!核撃蹴!」
そう言いながら飛び蹴りを放つ。核を持った相手に確実にダメージを与える技だ。ロックゴーレムは露出した核に致命的なダメージを受け、消滅した。
“条件達成。次のフロアへ進みます”
「よし!こんな思いは二度と御免だ」
「頼むからもう魔法禁止はこないでくれよ~」
リベリアの隠れた実力が明らかになったものの、今日はこのフロアの若干の停滞が祟って21層までしか攻略できなかった。




