第55話 新たな一歩
「いや、それは難しいぞ」
「そこを何とか頼めねえかな」
「技術的な問題じゃなくてだな・・・」
俺こと舎利弗亮磨はルルイエの工房で魔導技師のアーヴィンにインターネットの概要について説明した。
「なんたって規模がやべえ。国家事業クラスな上に多国間まで繋ぐ魔導通信網なんて予算の確保と許可を取るだけで一生が終わっちまう」
「エルフでもそんな感覚なんだな」
「どう見ても千年はかかるだろ。人族の発想じゃねえ」
「流石にそんなかかんねえと思うけどなあ・・・」
そう呟いた俺だったが、あることに思い当たった。
「そういえば冒険者の登録システムって最近できたんだよな」
「ああ、そうだぜ。今冒険者ギルドで支部長やってるステラっていう有翼人が取りまとめて、かくいう俺もその手伝いをしてたし、ここに呼ばれたのもステラ経由でお声がかかってるって、前話さなかったか?」
「いや、あんときは徹夜続きで頭おかしくなってたから覚えてないわ・・・」
「人族は脆弱だな」
「うっせー、いきなり差別かよ!」
「しこたま稼いだからそれぐらい大目に見ろよ英雄様」
まあ、この世界には労基署なんてものは無いのだが。話を本題に戻す。
「んじゃまあ、冒険者登録システムを流用するか拡張する方向で話を進められないか?」
「なんでもうやることになってんだよ」
「サキがどうしてもって言うからさ・・・」
「んだ?おめえのスケか?」
俺はツアー最終日にサキから言われたことを思い出し耳まで真っ赤になった。
「ちげえって!仲間だけど、仲間に手えだしたらそこで試合終了なんだよ」
「ふ~ん、本当はどう思ってんだ?」
俺も気になったので、ふと考える。
「頭が悪くて、タバコ臭くて、部屋は汚い、風呂キャン、ガサツ、悪趣味で目つきが悪くて何言ってるか分からない時がある」
「よくそれだけ悪口が言えるな・・・」
アーヴィンに呆れた表情を向けられる。
「でもまあ、最高の仲間だ」
「ふん、そうか。なら大事にするしかねえな」
そう言ってアーヴィンは立ち上がった。
「んじゃ一丁気合入れるか」
「助かるぜ」
「録画と録音とか色々並行しながらだから、俺が考えるのは実現するための技術と設計だけだぜ。作業の段取りとか予算はおめえが考えろよな」
「了解だぜ」
(へへっ、後の面倒な対人関係はアブに丸投げしよっと)
こうして魔導インターネット(仮)プロジェクトは産声を上げたのであった。
「あ、やべ、今日スランに出発だから急がねえとな」
俺は出発準備のためにクランハウスへ急いだ。
「こんにちは。今日は宜しくお願いします」
「アブさんだ!宜しくお願いします!」
「やべ、俺話しかけられちゃったよ」
あたしは目についた集まった人々に挨拶をする。
ルルイエの郊外、そこにダンジョン攻略の英雄が集結しつつあった。それ以上に便乗希望の一般冒険者も200人近くざわつきながら集まっている。
「王都でもっと稼げる予定でしたのに」
「まあ、そう言ってくれるなよ。別にダンジョンの稼ぎだって悪かねえだろ」
「そうですけどぉ」
そう言うのは星読みのエルネスタだ。『金獅子の牙』リーダーのブラディオになだめられているが、本来なら占いでもっと稼げる予定だったのだろう。シスター・エナが聖騎士マリアンヌに話しかける。
「で、ダンジョンが発見された場所ってどのあたり?」
「スラン教国内、ダラコッホ郡の森林地帯だ。人が滅多に入らない秘境になっているため、発見が遅れたようだ」
「げ、じゃあ、スタンピード間近ってこと?」
通常、活性化したダンジョンは1年ほどでスタンピードが発生すると言われている。いつダンジョンが生まれたか、活性化したかを知る術は今のところ目視で確認するしかない。
「まだ詳細な調査が行われていないから確かなことは分からない」
「じゃあ周辺に拠点作るとこからだね」
「それは協議会が先行して教国に依頼している」
リリカがそこへ割って入る。
「土地を開拓する程度なら瞬きをする間にでも終わらせてやるぞ」
「ほんと?じゃあお願いしようかな」
「リリカ殿、それでは派遣された一般労働者の仕事が・・・」
「午前中に穴を掘って午後に埋める作業をしてもらえばよい。今は早きことを旨とせよ」
「くっ、ではそれに代わる実用的な仕事を私が考えておこう・・・」
マリアンヌが腕を組みながら思案しだした。あたしはリリカに話しかける。
「随分話ができるようになったじゃん」
「この方が面倒がなくてよかろう。そもそも、汝が我を一番扱き使っておるではないか」
「おっしゃる通りで・・・」
リリカが居なければステージの設営など、こんなにスムーズに終わっていない。
「まあ、それは良い。それ以上の対価を貰っている故、煩くは言わぬ」
「状況を楽しめている様で何より」
「アブと居れば退屈せずに済む」
「そういえばヴェルディンは?」
『幻影の刃』の面々は居るが、彼の姿がないことに違和感を覚える。リョーマがそれに答える。
「あれ?アブ、聞いてなかったのか。ヴェルディンは仲間を探しに旅に出るって言ったから『幻影の刃』にはメリッサが入ることになったんだぜ」
「あ、そうだったのね。納得」
ボロゾに預けることになるのか・・・。不安だがやってもらうしかないだろう。
「優先権的にはアブちゃんとトレードしたいところだけどね」
「先行利益で稼いでたの忘れてないから」
「ははっ手厳しいな」
ボロゾは楽しそうに笑った。
「やっぱダンジョンは初回攻略が一番楽しいよね」
「金持ちの娯楽感覚でいると足元を掬われるぞ」
アリルがボロゾに釘を刺す。
「おや、心配してくれるのかい?今回は30人攻略じゃないから競争になるけど、僕たちが勝っても恨まないでくれよ」
「私は祖国の期待に応えるだけだ」
一時的に協力関係にあったとはいえ、本来は競争相手だったんだよな・・・。
「はあ、バンドメンバーとも競争かぁ」
「アブのクランは全員別のクランに1名ずつ派遣されておるからどこが勝っても良いのではないか」
「あそっか・・・でも、そこを譲りたくはないよね」
「その意気やよし」
リリカの満足そうな顔を見て、あたしは空中での移動に備えた。
「ここから先はスラン教国ね・・・」
「うむ」
あたしは入国の手続きを済ませ国境の門を潜ると、先ほどまでとそれほど変わり映えしない風景が広がっていた。
「なんかあんまり外国って感じがしないけど?」
「スランの首都である聖都セイラムに近づけば街道の装飾の様式の変化にも違いが見えてきますよ」
そうモラにガイドされた。まあ地続きだからそんなもんか。島国根性丸出しでごめん・・・。
「スラン教国は国土がそれほど広くはない。聖都セイラムも先ほどと同じ要領で行けば一瞬で到着するだろう」
先ほどの移動方法というのは『空中楽隊超特急』のことだ。一般冒険者も便乗している。
「みんな~。10分後には出発するからトイレとか済ましておくように~」
あたしは言霊で拡声器のように大きな声を出した。
「アブもお人好しよの」
「人気のない場所を開拓するんだったら人手が多い方が良いでしょ」
「30人だけなら近くの町から通えばよかろう」
「リリカは身内かそうじゃないかでハッキリ分け過ぎだよ。こういう小さなお裾分けから仲間を増やしていかないと」
「ふむ、そういう考えもあるのか・・・」
リリカは納得したようだ。と、そこに。
「素晴らしいお考えだ!」
大きな声で呼びかける身なりの整った中年の男性が現れた。
「どなた?」
「申し遅れました。私はマロゾフ。一介の司祭に過ぎませんが、モラ様の後見人を務めておりました」
「まあ、マロゾフ。迎えにいらっしゃったのですか」
モラが驚きの声を上げる。
「ええ、ダンジョンのために帰って来られるなら、きっと関所を通られると思ったもので」
「マロゾフは私の育ての親のようなものなのですのよ」
「モラ様を見出したのがマロゾフ司祭だ。その先見の明は何物にも代えがたい」
「よしてくれ、セリア。だが、『ダスク・エヴァンジェル』は例の件があったのによく持ち直したな」
「それは、吟遊詩人として加わったダンディ殿のお陰だ」
セリアの紹介にダンディが挨拶をする。
「ジャック・ダンディと名乗っている。よろしく頼む」
「おお、あなたが。こちらこそ、窮地を救ってくれたと伺っています」
ダンディとマロゾフはがっちりと握手を交わした。
「実は今は協議会のメンバーでもあります。ジェルミン女史より諸々の引継ぎは済んでおります。スランの事で何かお困りでしたら遠慮なく仰ってください」
「まあ、マロゾフが協議会に?」
「人族至上主義派閥が軒並み一掃されて玉突き人事でね。どうせならモラ様と接点のある人物を協議会に据えたいという事で元老院からお声がかかったんだよ」
「そう言う事情でしたか」
モラは急に声を潜めた。
「サラは何か喋りましたか?」
「いえ、何も・・・」
「ティリス、エイラ、ルシンダ、フィオナについてはどうですか?」
「なんでも彼女らは人質を取られており、秘密を洩らせば術式により敵勢力に情報が伝わるような魔法をかけられているとか」
「むごいことです。私にもっと人徳があれば」
「モラ様のお慈悲をもってしても全てを救えるわけではありません」
急に湿っぽい話になったな。あたしは隣のリリカと会話をする。
「リリカ、魔法的なトラブルならパパっと解決できたりしない?」
「ふむ、卑しい坊主どもの鼻を明かすのはさぞかし気分が良かろう」
「そんな言い方しなくてもいいんじゃない?」
「宗教に頼っておる時点で半人前だ。虚仮にもするであろう」
「教えを広める立場だから、聞いてばっかりの人よりはティア上なんじゃない?」
「団栗の背比べだ」
そう言っていると、モラが話しかけてきた。
「恥を忍んでリリカ様にお願いします。ティリス、エイラ、ルシンダ、フィオナの4名を救ってくれませんか?」
「解呪ならモラでも出来るのではないか?」
「呪いの力ではない可能性が高いのです。聖職者の多いこの国で取り調べが呪いで滞ることはまずありません」
「ふむ、まあ我は気づいておったがあの時は急いでおったものでな。仕方ない、乗り掛かった舟だ」
「お、その乗り方は良い感じだよリリカ。その調子でいけば人気爆発間違いなし」
「ほう、そんなに恐怖と絶望を振りまいておったか」
「それはベクトル違うから・・・」
人気者への道は遠い。
2026/2/21 インデント修正




