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第54話 また、いづこかへ

 





「帰ってきたぞ~!ルルイエ~~~!!!」


 うおおおおおお!!!!


「延期してごめん!文句はダンジョンに・・・ってボスは倒してきたんだったね」


 うおおおおおお!!!!


「それではツアー3日目最終日ファイナルラスト!早速行ってみよう!『Higher Ideal』」


 うおおおおおお――――







「はあああ楽しかったあああああ!!!」

「終わっちまったな~」

「おつかれ」

「この年には堪えるぜ」


 成し遂げた偉業。あたしはまだその夢の跡に居た。町はずれの空き地に設置した会場は撤収が済み、リリカが時間をかけて地面に返している最中だ。


「町に住んでるやつ殆ど来てたってさ。店もライブ中は全部閉まってんでやんの」

「いい加減だな~。まあ告知しておいた意味はあったのかな」


 夕闇に沈んでいくルルイエの街並みを遠目に見て、ため息を漏らす。


「あたし、この国が好き。もし、帰り道が出来たとしても帰らない。帰りたくない」

「行き来できるようになったら親御さんに連絡だけはした方が良いんじゃない?」

「それが理想だけどね。だけどそれは現実的じゃない。もう覚悟は決まってるよ」

「来た当初は色々慌ただしかったけどな」

「ほんとそう。あれから1か月か」


 あたし達は恐らくこの地に骨を埋めることになるだろう。だけどそれを悪いことだとはもう思わない。


「あのDEI団体は腹立つけど、復讐って柄じゃないしな」

「ディックドッグがまだ見れないんだけど」

「あ、サキ。それはマジでごめん。インターネットに代わる何かがこの世界で再現できないと厳しいかも」

「じゃあ、リョーマにお願いする。直してくれるんだったら童貞を捨てさせてあげてもいい」

「えええええええ!?」

「ちょっ、サキ!それはルール違反!」


 あたしは思わず慌てた。バンド内恋愛は禁止のはずだ。


「アブ、心配しないでいい。付き合ったりはしない。愛の無いセッ〇ス」

「なるほど?っていやいやいやいや騙されないから!リョーマもなんか言え!」


 あたしはリョーマに発言を促した。


「いや、正直喫煙者とは付き合えないっていうか・・・」

「この世界なら浄化魔法でヤニもきれいにできる」

「ぐぬぬ、アブ!なんかサキのくせに賢いぞ!」

「リョーマあんた愛の戦士でしょ!早くそれを理由にして断んなよ!」

「おおそうだった!俺は愛が欲しいの!」

「チッ・・・」

「ほっ・・・」


 我々は胸をなでおろした。だが、サキが手軽な娯楽を欲している事実は変わらない。


「まあ、そういう不純なお礼は無しで良いとして、リョーマにはなんか代替のシステムかなんかを提案してみんなに作らせる的なのやってもらおうかな。調整事とかはあたしがやるからさ」

「録音とか録画についてももっと便利になってもいいしな」

「今んとこスマホの機能に頼るしかないからね」

「また、アーヴィンに相談するか」


 あたしはふと気になったことを言ってみる。


「そういえば、元の世界の著作物どうしよっか?あんま考えずにメリッサとかヴェルディンに教材として使用しちゃったけど、これからの事を考えると良くないよね」

「あーそうだな・・・どうせJASRACも集金には来れないとはいえ、俺が後先考えてなかったんだよな。早く仲間を増やしたい一心で」

「ダンディはどう思う?」


 年長者の意見を聞きたい。


「俺達は既に作曲者に筋を通すことが出来ない環境に居る」

「帰れない以上はそうだね」

「であればまず、我々としては今後、著作物を教材にも使用せず、公開もしないということをメリッサとヴェルディンに伝えるべきだ」

「うん」

「広めたいという気持ちもあるだろうが、方法論や構造の引用に留める必要がある」

「まあ、断腸の思いだな」

「そしてそれは文字に起こしさえすれば、音源が無くても成立する話だ。そうすれば音源を所持していること自体がリスクとも言える」

「スマホもこの世界だとオーパーツだけど、ぶっちゃけ著作物を盗作されたりばらまかれるのがあたしたちにとって一番効くよね。いっそのこと破壊するか」

「録音録画が技術として成立したらもう処分して良い気はするぜ。聴けなくなるのは惜しいけど」

「この世界の音楽史はこの世界の人間に委ねるべきだ」

「そう、だね・・・」



 やはりダンディは大人の意見を持っている。気持ちに区切りはついた。今ならこの結論も受け入れることはできるだろう。


「セック〇がダメなら膣コキ・・・」

「それもうセ〇クスなんよ」


 サキの呟きにあたしは特大のため息を漏らした。








「え?なんで・・・?」


 あたしたちは一旦クランハウスに戻り、メリッサに元の世界の音源をいずれは処分することを伝えた。既に大衆音楽ジャンキーだったメリッサの表情は訃報を聞いた寡婦のような悲しみに色めき立った。


「い、いや・・・。嫌よ!まだ聴いてない曲が一杯あるのに!」


 メリッサの声は怒気を孕んでいたが、その怒りがやり場のないものだということを理解するように目に涙が溜まっていった。


「すまねえ・・・。俺達は当たり前のように俺達と同じ方法で学ぶことが正しいと思い込んでたんだけどよ、それはこっちの世界で言う『禁呪』に近い方法だったんだ」


 リョーマは真っ直ぐメリッサの眼を見て訴えかけた。メリッサは嫌がるように首を振る。


「これをメリッサ以外の人間に与えるわけにはいかねえ。分かってくれ」

「分からないわよ!あなたたちの世界の法律なんて、こっちの世界には何の効力も無いのよ!『禁呪』のように禁止されるようなデメリットもないのに!」

「メリッサの言う通り、究極的には俺達のわがままだ。本当にすまない」


 メリッサはその場に泣き崩れてしまった。見ていられないぐらい表情がグズグズだった。


「き、気まぐれに与えておいて、グス、そ、そっちの都合で取り上げるなんて、あ、あんまりよ、ひどすぎる・・・ううっ」

「本当にごめん」

「馬鹿。謝らないでよ・・・。ううっ、ひっ、グス・・・私が決めることじゃないってことぐらい、わかってるわよ。グス」


 メリッサだって分かっていないわけじゃない。自ら曲を作るようになった今、アーティストの立場でものを考えることが出来ているはずだ。他でもないリョーマがそう教えたのだから。


「俺だって辛いに決まってんだろこん畜生!!!」


 そのリョーマが突然怒鳴り出した。


「じゃあやめればいいじゃない!!」

「そうもいかねえから辛いんだろうがバカタレ!!」


 リョーマがローカルに音源を収集するのにどのくらいマメな活動をしていたかを知ってるあたしからすれば当然の怒声ではあった。


「アブなんか全部ストリーミングで写真も動画もクラウドだからスマホん中なんも入ってねえんだぞ!!」

「なんであたしに飛び火した!?」

「うっせー!八つ当たりだ!お前も同じ苦しみを分かち合えって言ってんの!!」

「う~ん、どうしたらいいんだ・・・?」


 金を出せと言われても持ってなければ払えない。そんな心境だ。でも、言えることはある。


「無いものを、あったらいいなって思えるものを作るためにあたしたちは頑張ってんじゃん」

「アブは、その他人の想いを無かったことに出来るのかよ・・・」

「そんなわけないじゃん。何もかもがあたしを作っている。メリッサだってそう歌ってたでしょ。それが、糧にして前に進むってこと。でもまあ、音楽って一度耳に残ったら簡単に忘れないから、きっと大丈夫だよ」

「うう、アブさん。うわ~ん!」


 メリッサが私の胸に飛び込んできた。今は時間が必要だ。ショックを受けた時はだいたいそう。


「よしよし」


 頭をポンポンなでなでする。

 大きすぎる胸が当たってきて危険な気持ちになってきたので体を適切な距離に保った。あたしの頬が赤いことに気づいたメリッサは申し訳なさそうに離れる。


「あ、ごめんなさい、リリカさんに怒られちゃうわね」

「いや、いいって。リリカは意外と心広いから悪意が無きゃ大丈夫だよ」

「マジで意外だな・・・」


 メリッサはこの世の終わりみたいにわんわん泣いたが、数十分後にはケロッとしていた。







「『こちら吟吟吟吟ですがパーティどうですか』ツアー終了お疲れした!!」

「おつかれ!!!」

「かんぱ~~い!!」


 我々はある意味始まりの場所でもある料理屋『トラペジスト』を貸し切って打ち上げを行っていた。店長も信じて送り出したウェイトレスが吟遊詩人になって帰ってきたとなれば鼻も高いのか快く貸し切りに応じてくれた。


「じとっ」

「む~」

「悪意ないですか?この座席」


 6人掛けのボックス席であたしの隣には今カノ元カノが陣取っていた。正面にはラディオスが座っており、その両隣にはボロゾとアリルが居た。


「やはりアブさんの隣はリリカさんぐらいじゃないと務まりませんね。座を明け渡して正解でした」

「ふん、当然だ。我が育てたと言っても過言なかろう」

「それは流石に過言かも・・・」

「僕は誰と何を話せばいいんですか?飲み会って怖い」


 正面から何か聴こえてくるが、こちらもそれどころではない。


「アブちゃん、両手に花とは見せつけてくれるね」

「いやいやいやいや見せつけるつもりなんて、ステラさんとはあれっきりまともに会話出来てなかったから丁度良かったっていうか、リリカの事も考えなきゃいけないから自然とこういう形になっちゃったっていうか!」

「まあ、気を付けなよ、恋は盲目っていうからさ」

「存じております・・・」


 恋をすると周りが見えなくなったり、知力が下がるのは世の常だ。あたしは常人の二倍恋多き男女なのでおそらく二倍知力が下がっている。

 あ、そろそろラディオスを助けないと。


「あー、ラディオス。隣に居るのはアリルさん。リョーマがお世話になったクランの隊長さん。リョーマの話題なら多分盛り上がれるかも」

「ありがとうございます!!!!」


 そう言うとラディオスはアリルさんと勢いよく喋り始めた。隣に居たボロゾは少し不貞腐れた。


「アリルさんを取られてしまったな」

「ボロゾ友達少ないもんね」

「一心斎みたいなこと言うな」

「ふふっ」

「何かおかしかったかい?」

「人って隣に並び立てる人を欲してるんだなってちょっと思っただけ」


 ボロゾは一瞬呆気にとられつつも答えた。


「ああ、そうかもしれないな。どうだい、僕の隣は退屈しないよ?」

「ゆ、許さんぞ!ボロゾの分際でアブを寝取ろうとは!」


 リリカの罵声を浴びたそのにやけ面も、雀の涙ほどの優しさを湛えていたような気がした。


「ところで、アブちゃん」

「ん?」

「リョーマくんに僕の妹を紹介しようと思ってるんだけどどう思う?」

「いや、やめといた方が良いと思うよ」

「僕と接点が増えるのそんなに嫌?」

「嫌」

「嫌」


 隣のリリカも仏頂面で答えた。


「おいいいいいい!アブ!俺の愛の芽を摘み取るんじゃねえ!」

「出たよ地獄耳」


 遠くから罵声が飛んできた。


「あの地獄耳には我々も世話になった」

「ですよね。彼は兎人族を遥かに凌ぐ聴覚を備えています」


 アリルとラディオスも会話が弾んで何よりだ。

 ダンディもダスク・エヴァンジェルのみんなとうまくやれてるようだし。

 リョーマもさっきまでヴェルディン、ジーク、シスター・エナ、メリッサと楽しそうに話してた。

 サキは喫煙所でブラディオとルイーズの相手をしている。


「なんか、楽しいね」


 あたしはそう呟かずにはいられなかった。


「ジークが即興ソング歌うってよ!」

「おーいいぞーやれやれ~!」

「聞いてください『姉さん万歳』」

「あっはっはっは!マジウケるんだけど!」


 調子っぱずれな音に恥ずかしい歌詞、弟の醜態に赤面する才媛が目と耳を楽しませる。

 ふとそこに。


「室長~~~!じゃなかった支部長~~~!」


 店に飛び込んできたのは見覚えのある猫人族。ミーナさん。


「どうしたのですか。サボった分の残業をしないと帰さないと言ったはずですが」


 仕事サボってまでライブ見に来てくれてありがとうな・・・。


「まだ上がってないっすよ。それよりダンジョンっす。新たな活性化ダンジョンが見つかったっすよ」

「えええええええ~~!?」


 どうやら束の間のバカンスは終わりらしい。





 あたしたちの音はまだ鳴り止まない――――。




これにて第一章完結です。ご愛読ありがとうございました。

ストーリーの構想自体は3年ぐらい前からあったのですが、こういう形で発表に漕ぎつけて良かったです。

良かったら次話の【偽典】クロノ・シンギュラリティも含めて感想をお聞かせください。

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