第52話 再演
「この後、豪華ゲストや諸々の宣伝など控えていますがまずはライブを楽しみましょう!続きましては『Emotional Logic』!」
この曲はヴェルディンにも披露した曲だ。ちょっとしっとりとした切ないナンバーになっている。
“あなたの心音 葉を揺らす
幽かに光り 揺らめいて
波紋を作り 小さく焦がす
火は灯り 燃え上がる
何もかも つまびらかに
神々しくも 燦然と
側面から 全てが見える
ただ少し 難しいかな
分かるのならば 分かりあえるのに
僕らは敵でも味方でもある
生まれながらの 比翼連理
ああ 何もかも つまびらかに
あなたの心音 葉を揺らす
幽かに光り 揺らめいて
波紋を作り 小さく焦がす
火は灯り 露と消ゆ
何もかも 余すことなく
幽玄なりて 泰然と
細を穿ち 全てを解す
ただ少し 難しいかも
分かるのならば 分かちあえるのに
僕らは敵でも味方でもある
造られた 両裏のコイン
ああ 何もかも 余すことなく
明かせぬ星の秘密
色褪せぬ彩のニヒル
すべて破れ去ったのなら
分かるのならば 分かりあえるのに
僕らは敵でも味方でもある
結ばれぬ 鴛鴦の契り
ああ 何もかも 零れ落ちる”
会場は静寂を取り戻し、拍手が舞う。あたしはMCを長めに取る。
「ありがとうございます。あたしたちのことは殆どの方がご存じないと思うので軽く自己紹介などを。まずはとっても腕の良いドラムス!バンドの屋台骨!戦闘の報酬に変顔を要求する前衛最強の冒険者!朽名紗季~~~!!」
ドラムフィルを披露してアピールするサキ。でかいハコだから相当張り切ってるな。かわいい。
「続いて~暗闇にきらりと光る弱☆ダンディズム!通報するなよ!オンベース!ジャック・ダンディ~~~!!」
控えめに高音のフレーズをディロディロ鳴らすダンディ。いつもよりは緊張しているかもしれない。
「異世界に来てもモテないことが判明!顔面偏差値はそれなり!恋人募集中!舎利弗亮磨~~~!!」
ギターでファンキーなカッティングを披露するリョーマ。マイクに向かって何かを言う。
「誓ってファンには手を出しません」
「ここに来てる人全員対象外かっ!」
そう、リョーマはファンに絶対手を出さないのだ。なんでかは知らん。
「そして男性でもあり、女性でもあるわたくし、濁川鐙の提供でお送りします」
ここまでは定型文というかメンバー紹介のお決まりの流れだ。次のMCも流れは決めてある。
「で、あたしたち異世界から飛ばされて冒険者やりはじめたの1か月ぐらい前だっけ?」
「確かそんぐらいじゃねえかな」
「それでダンジョン制覇って、吟遊詩人っていうジョブの性能がぶっ飛んでるっていう証拠だよね」
「まあ、他のジョブで代用利かないっていう話だもんな」
「我々が吟遊詩人として認定されているのも日々こういった活動をしていたおかげなのかなって思うと、前の世界での努力は無駄じゃなかったなって思えるかなって」
「お前は早く環境を整えてライブすることしか考えてなかったように見えるぜ」
「バレてました~!」
あたしはあざとく頭の後ろに手をやり、はにかみながら誤魔化す。
「人生何があるか分かんないですけど、今日はこんな面白いことをやってるやつが世の中に居るんだねって思って帰ってもらえると幸いです。はい」
そしてあたしたちは『顔面グーパンキャンセルサブカルチャー』『いんたーねっつアディクション』の2曲を続けて披露した。あたしの書いた渾身の電波ソングに見せかけた風刺ソングになっている。異世界では現代社会に潜む病理とか全く関係ないので、曲の意味とか分からなくても良いからとにかく楽しい雰囲気だけ伝わればいいかなと思ってセットリストに入れた。
続いて、『テンポラリーピープル』『ゼログラビティ』『エンプティ・エンティティ』といった真面目なナンバーを披露した。
「お次はいよいよ特別ゲストの登場ですが、お色直しのため休憩に入らせて頂きます」
衣装替えのためあたしたちは声援の中ステージを一旦去り。控室に向かった。
「ふい~、一旦お疲れ。お客さん思ったよりノってくれててすごく助かったよ」
「エンターテイメントに関してはそんなに異文化を意識しなくて済みそうだな」
我々が着替えを済ますと、黒レザーと鋲だらけのメタル系のファッションに身を包んだヴェルディンが控室にスタンバイしていた。
「やあ、待ちかねたよ。残り3日だが全力で再演させてもらうとしよう」
「こっちこそ来てもらって助かるよ。来なかったら言霊で姿だけ再現するなんて案も出てたんだから」
「フッ、それはそれでどれほどの再現度なのか見てみたい気もするがね」
ヴェルディンは特に肖像権については頓着はしていない様子だった。
「さて、僕たちは僕たちの軌跡を多くの人に伝える義務があるはずだ。待たせてはいけない」
「そうだね、行こう」
あたしたちは舞台袖に移動した。
観客席にブザーが鳴り響き、最低限の足元の明かりだけを残して照明を暗く落とす。
「これはルルイエのダンジョン最下層の激闘、その攻略の軌跡である――」
言霊によるボイスチェンジャーを使ったあたしの語りと共にバックスクリーンに映像が点る。
「神の詔がもたらした未曽有の事態。30の熱き魂は悪意の群れに死力を尽くすも、撤退を余儀なくされる他なかった」
月面のフィールド。地平の先に浮かぶ虚ろな瞳。埋め尽くす大群。巨大な口と触手と眼球の塊。そして、サキの姿を象り口元を歪ませ、帰還石を使用して脱出する我々を見送る『混沌の先兵』。
「その窮状に光を見出したのが我々の世界、つまり君達から見て異世界にあたる場所に伝わる戦いの音楽『ヘヴィメタル』である」
ぼかしは入れてあるが、歴代のHR/HMバンドのアルバムのジャケットなどが映し出される。超常的な力や闘争に関するアートワークが多いためファンタジーの世界観と合致し過ぎており、図らずともリアリティが生まれてしまうという結果になっている。
「我々はこの作戦の要である聖者モラの協力のもと、舞台装置の一部として戦装束を纏っていただくことを了承してもらった」
ボンテージ姿のモラが映し出される。会場からは驚きの声が上がったが、他民族の戦装束ということなら露出が多くても異文化交流の一環ということである程度の言い訳は立てることが出来る。まあ多少脚色はしているが。
「そして運命の日が訪れる――」
ライトが点灯すると同時にステージ周辺で火花が散り、爆炎が舞い上がる。もちろん言霊の演出だ。我々は暗闇の中、既に配置についており、爆炎の音を塗りつぶすようにサキのドラムが、リョーマとヴェルディンのギターが、ダンディのベースが、それぞれ唸りを上げて一つの奔流を形作る。壮大なイントロはやがて終わりを迎える。
「『Scapegoat』」
カッカッカッカッ
サキのカウントと共に曲が始まる。あたしもリズムギターとして前奏に参加する。
“What have I sacrificed?”
(何を捧げてきた)
“Future, past, my name, my home”
(未来 過去 名前 故郷)
“Only when they’re gone”
(失って気づく)
“Do I see their worth”
(かけがえのないもの)
““All of it meant nothing” — such a fragile lie”
(何もかも取るに足らないものだったんだ)
“Do you really believe in that?”
(本当にそう思っているのか?)
“Even if my blade shatters”
(刃が砕けても)
“Even if my sword is broken”
(剣が折れても)
“I’ll split your skull with the hilt alone”
(柄でお前の頭をかち割る)
“Rip off my wings, burn out my eyes”
(翼をもがれても 両目を焼かれても)
“I’ll choke the breath right out of you”
(お前の息の根を止めてやる)
“Why do I still fight?”
(何のために戦う)
“Fortune, rank, honor… friends”
(財産 地位 名誉 仲間)
“These blood-soaked hands”
(血で汚れた手に)
“Deserve none of it”
(その資格などない)
“If I can’t take it in my grasp”
(手に触れられぬものに)
“Then it means nothing”
(価値などない)
““Happiness” is just a sweetened lie”
(幸せなどお為誤化しだ)
“Till my mind collapses”
(心が折れるまで)
“Till my heart stops beating”
(心臓が止まるまで)
“I’ll unleash brutality, till nothing remains”
(暴虐の限りを尽くす)
“Turn me into dust”
(塵と化しても)
“Defile my soul”
(魂が穢れても)
“Still I’ll leave a scar upon this world”
(この世界に楔を残す)
“Until only one is left alive”
(世界がただ一人になるまで)
“We steal, we hate, we kill”
(奪い 憎しみ 殺しあう)
“You’ll reign as king”
(お前は君臨する)
“Of a kingdom of one”
(ただ一人の王国に)
“So fight me now”
(さあ俺と戦え)
“There is but one throne”
(王座は一つ)
“Nothing here is meant to be shared”
(分かち合うことなどなにもない)
“For that is the only hope we have left to follow”
(それがただ一つ残された希望の導)
言霊の映像では丁度全ての雑魚モンスターを倒し切ったところで曲が終わった。観客からは大きな歓声が響いていたが、間を空けずに2曲目『Chaotic Syndrome』に突入する。
“迸る力 滾る熱 限界を超える速度で進む現実
永久の愛 巡る智謀 出口のない迷路を支える願望
只ひとつ 無数にある 小さなもので満たす大気
やがて溺れ 殊死に臨み 息を吹き返し吐き捨てるはずの唾を呑む
静かにして 今 叫び出す声が聞こえてくるから
混沌 ダンテ なんだっけ 悪魔に唆されぬ魂の形も
握りしめた掌の中の宇宙 その夢のひとかけらに過ぎない
疑いの眼も よく利く鼻も まるで機能しないで息を潜める
錆びた鎖も 馴染んだ首輪も もう覚えてなどいない彼方へと
ここじゃない いずこかへ 帰らない想いを乗せて消ゆ
血だまりが 掘り起こす 素晴らしいあなたたちはここにいる
喧噪の中 まだ 糸を手繰り寄せられない
混沌 カント 誰だっけ あくまで独り善がりで飾らぬ自律も
踏みつぶされた卵の中の宇宙 その泡沫の微睡に過ぎない”
新たに現れた2体のボス級モンスターと吸収合体後の戦いの映像を言霊で再現する。サキなどは映像に同期するあまりスティックを投げそうになっていたが、寸でのところで踏みとどまった。一歩間違えば大惨事だ。
「ありがとうございました!以上が我々の戦いの顛末です。体験が伝わりましたでしょうか?」
あたしがそう言うと、会場から歓声があがり、盛大な熱気に包まれた。
「では、ヴェルディンさんはここまでとなります。明日の2日目公演、最終日のルルイエ公演まではゲスト参加していただけますが、その後は我々は違う道を歩むことになっています」
ヴェルディンも一言あるようだ。
「僕と一緒に『ヘヴィメタル』を追求したい吟遊詩人の仲間が居れば連絡をしてくれ。彼ら『オレンジ・ストリート・ストレンジャーズ』の面々にはその気がないからね。音楽の道は一つではない。たとえ一時的でも彼らと接点を持てたのは幸運だったと思う。みんなもそれぞれの幸運を是非掴んでくれ。それでは健闘を祈る」
ヴェルディンは盛大な拍手と歓声に包まれ、舞台袖へと去って行った。その後、我々は衣装はそのままに『望郷』『極光』、そして『ロジカルエモーション』の3曲を演奏してその日は終幕となった。異世界にはアンコール文化などは無いので、最後に舞台挨拶とフリートークなどをしてファンサービスを行った。




