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第41話 ライジングフォース

 



「なんだ君たちは。普段はこんな小さな家で練習しているのか」

「いちいち鼻につく言い方しないの。文無しのぽっと出の世間知らずだった我々が1か月以内に整えた環境なんだから。むしろ褒めて欲しいぐらいなんだけど」

「吟遊詩人なんだから当然さ。どのクランも放っておかなかっただろう?」

「まあ、今でも気持ち1割ぐらい迷惑だけどおかげさまでね」


 うちのクランハウスにお邪魔しているのは『幻影の刃』に所属しているヴェルディンと言う吟遊詩人だ。我々は曲作りとバンドとは何かをこの気障ったらしい男に叩きこんで一緒に演奏しなければならない。バンドメンバーのサキ、リョーマ、ダンディと見習いのメリッサも一緒だ。


「まずは我が国の音楽文化(の一部を誇張した表現)に触れてもらいます」

「そういえば町の人の噂になっていたな。吟遊詩人4人の集団が見世物を催して盛況を博したと」

「あの時はヴェルディンはボロゾと一緒にヴァルファゴに帰ってたんだっけ。じゃあ噂でしか知らないのもしょうがないね。興味ある?」

「まずは聴いてみよう」

「そうだな、手っ取り早く聴いてもらった方が早いだろう」

「じゃ、Emotional Logicやろ。サキ、カウント頼む」

「ゆー・えぬ・けい・おー」


 サキはカウントのアルファベットで遊ぶ。今日のは直球だ。

 イントロが終わり、あたしはオリジナル曲である『Emotional Logic』のコーラス部分を歌う。演出の言霊ももちろん一緒だ。



 あなたの心音 葉を揺らす

 幽かに光り 揺らめいて

 波紋を作り 小さく焦がす

 火は灯り 燃え上がる


 何もかも つまびらかに

 神々しくも 燦然と

 側面から 全てが見える

 ただ少し 難しいかな


 分かるのならば 分かりあえるのに

 僕らは敵でも味方でもある

 生まれながらの 比翼連理

 ああ 何もかも つまびらかに


 

 あなたの心音 葉を揺らす

 幽かに光り 揺らめいて

 波紋を作り 小さく焦がす

 火は灯り 露と消ゆ


 何もかも 余すことなく

 幽玄なりて 泰然と

 細を穿ち 全てを解す

 ただ少し 難しいかも


 分かるのならば 分かちあえるのに

 僕らは敵でも味方でもある

 造られた 両裏のコイン

 ああ 何もかも 余すことなく


 明かせぬ星の秘密

 色褪せぬ彩のニヒル

 すべて破れ去ったのなら


 分かるのならば 分かりあえるのに

 僕らは敵でも味方でもある

 結ばれぬ 鴛鴦の契り

 ああ 何もかも 零れ落ちる



 あたしは一礼してスタジオに静寂が満ちる。


「ブラーヴォ!なんて素晴らしい歌曲なんだ!レベルの高い者同士の合奏とはこうも互いを高めあうものなのか!大衆から支持を得られてるのも納得だ」

「お褒めにあずかり光栄の極み。受けなかったらどうしようかと思った」

「吟遊詩人は普段群れたりしないからね。こういうことをする奴らは珍しいんだ」

「居ないことはないんだ?」

「宮廷の催し物とかの時にスポットで招聘されたりすることはあるけどね。決められたパートを決められた通りに演奏する味気ない仕事さ。吟遊詩人同士も交流を持ったりしない」

「ふ~ん、噂に聞いてた通りドライな関係だね。謎だわ」


 この世界では吟遊詩人同士で楽団をやったりしないらしい。


「ということで、やる曲を決めよう。というか曲作ろう」

「つか、ヴェルディンって普段どんな音楽やってんの?」

「パイプオルガンという巨大な楽器を個人で持っていてね。独奏できるような曲であれば実演できるよ」

「あー鍵盤イケるんだね。メモメモ」

「グランドピアノならうちにもあるから弾いてみないか?腕前も知りたいし」


 リョーマが提案する。そしてマジックバッグからグランドピアノを取り出してセッティングする。


「かなりの大きさの鍵盤楽器だな」


 ティロリロリロリン


 リョーマが鍵盤を軽く撫でて音の確認をする。


「音はこんな感じでアタックの強さでダイナミズムが変化するんだ。座って弾いてみてくれ」

「こうかな」


 ヴェルディンはバロック調の音階の曲を演奏し始めた。複雑な和音の変化と多彩なハーモニーが特徴で、職業が吟遊詩人と判定されるほどの腕前と知識を持っていることは出音から察せられるほどに技巧派だった。


「おー、初めての楽器なのにすごいすごい。今更だけどこの世界にも和声学ってちゃんとあるのね」

「強弱の付け方がまだ慣れないな。押し続けないとサステインが伸びないのも惜しい」

「ああ、それは足元のペダルを使うんだ」

「これを踏むと押さえ続けなくても音が伸びるのか。なるほど、良い楽器だな」

「代わってくれ、バロック調の音階も良いが、ピアノソナタの曲と言えば俺にとってはこれだな」


 リョーマはベートーヴェンのピアノソナタ第14番、通称『月光』を弾き始めた。

 抗えぬ運命に懊悩する人の姿を現した荘厳な楽曲である。とあたしは解釈してるけど定説は知らん。イケメンが弾くと絵になるが、残念なイケメンのリョーマだと内面を知っている分ノイズになる。

 曲は長いので適当に切り上げて短く終わった。


「寂寥感をうまく表わしているな。こういうのもあるのか・・・」

「ベン・フォールズ弾くのかと思った」

「俺だって歩み寄ることはあんだよ。あとはジャズっぽいのとか」


 スリーコードを基調にセブンスを強調しながら適当に16小節を完走する。


「ふむ、喜劇には良いかもしれないな」

「歌劇とかあったりするの?」

「あるにはあるが庶民には縁の無いものだ」

「まあ、それはおいとこう」

「あ、ヴェルディンこれ絶対ハマるわ。間違いなく好きそう」


 そう言うとリョーマはスマホに保存してある曲を再生した。


 ドゥルルルルルルルキャーン!


 名前は伏せるがギターキッズ御用達の超絶技巧速弾き兄貴の曲だった。クラシカルな音階と幻想的な世界観を持った唯一無二のギターヒーローの曲だ。


「あ、あ・・・」


 ヴェルディンは口を開けたまま固まってしまった。と思ったら早口でまくし立てる。


「これはなんという楽器だ?どういう分類の音楽なんだ?弾いている人は誰だ?僕はこの分野を伸ばしていかないといけない。そういう使命感に駆られている・・・!」

「どうやら効きすぎてしまったようだ」


 ダンディがため息をつく。


「では、作曲のお題はヘヴィメタルで決まりだな・・・」

「あんまやったことないジャンルだけど・・・いけんのかこれ?」

「リョーマが聴かせたのが悪いでしょ。まあバトルBGMっぽいし合ってるんじゃない?」

「為せば成る」


 ソロパートは全部リョーマとヴェルディンに任せることにした。







「おつかれ~」

「おつ~」

「素晴らしいセッションだった。吟遊詩人としてこれ以上ない喜びを感じているよ」

「そこまでストレートに言われるとなんだか照れるな」

「お前、お高くとまっていけ好かねえ奴かと思ったけど案外良い奴じゃねえか」

「お金では買えない価値を与えてくれた君たちに感謝だ。また明日からもよろしく頼む」


 そう言ってクランハウスから出ていくヴェルディンをみんなで見送った。


「んじゃ、曲はあんな感じで行くとして課題挙げてこ」

「音がペラい。流石にメタルやるには無理がある」

「魔導技師の人を事務局総出で探してるみたいだけど間に合うのかな?」

「まあ、ビゼリさんとヴァンダルさんのとこに後で行ってみようか」

「ツーバスかツインペダルが欲しい」

「まあそうだよな・・・」

「できればツーバス」

「あと別に課題じゃないけど、ダンディが結構HR/HMにも知見があって助かったわ」

「伊達に長く生きてはいない。それにサポートをすることも多かったジャンルだ」

「バンドやってるって感じするもんな、パンクとメタルは。だからこそ歪みと刻みの音は大事にしたいんだが」

「結局さっき挙げた課題に戻ってくるんだよね。アンプ」

「じゃあ、さっさと工房行こうぜ」

「おー」






「お久しぶりです」

「4人揃ってとは珍しいな。と言っても話は聞かせてもらっているが」

「噂になっているぞ。30人居なければ攻略不可能なダンジョンとは未曽有の事態だ」


 ビゼリもヴァンダルも元気そうだ。


「魔導技師の人は見つかった?」

「ああ、事務局の職員が見つけて来てくれた。有名な職人で俺は面識があったがな。早速回路を組んでもらっている」

「もう見つけてくれたの?半日も経ってないのに」

「ほら、あそこだ」


 ヴァンダルは工房の一角を指し示した。そこにはエルフと思われる耳の長い種族が居た。だが顔の半分は縫われ機械のような肌が露出している。左手と左足も義手義足のようだ。


「彼は魔導技師のアーヴィン。幼い時に半身を失い、腕の良い魔導技師に救われたがそいつが短命種だったので、自分の体を整備しながら生きていくには技師としての腕を磨くしかなかったそうだ」

「体の一部が長い間失われてしまうと回復魔法でも再生しない。彼の場合は強力な呪いのせいだったと聞いたが、呪いを解呪した時にはもう手遅れだったらしい」

「仕事頼んでるあたしが言えた口じゃないけど、そんな体で働いて大丈夫なの?」

「それは本人から聞いてみると良い。お~い、アーヴィン。クライアントだ」


 呼びかけられたアーヴィンはこちらに気づき近づいてきた。片手を挙げ気さくに挨拶をする。


「よう、こんな訳の分からんもんを作ろうと思ったのはお前たちか?」

「ああ、そうだぜ」


 リョーマがそう答えるとアーヴィンはニッと笑う。


「もっと完成のイメージを固めてえ。音は聴かせられるか?」

「話が早くて助かる。とりあえずこいつを聴いて欲しい」


 リョーマは懐からスマホを取り出して適当なギターサウンド主体の曲を再生した。図面を片手にアーヴィンに見せ、指を差しながら説明する。


「入力は楽器の弦振動をこのコイルで拾い、出力はドーム状の振動版だ。道中の魔導回路で信号を増幅させてオーバーフローするとこの音になる」

「だとすれば音がデカすぎて耳が壊れちまうぞ」

「そこで許容量を下げるつまみを付ける。こうすれば小さい音量でも歪みを生み出すことが出来る」

「頭良いなお前」

「俺が考えたんじゃねえよ。ドライブの調整もそうだが音の周波数特性もいじれるようにさらにつまみを追加する」

「ふむ、なるほど。お前が持ってるその魔道具も気になるが、今は依頼の品だ。明日には出来てると思うから取りに来い」

「そんなすぐ出来るのか」

「イメージが固まったからな」


 そう言うとアーヴィンは仕事に戻ってしまった。


「なんつうか、仕事が好きなんだな・・・」

「見た目の5倍ぐらいは元気だ・・・」

「まあ、そういうことだ。心配はしなくていい」


 そう言ってるとアーヴィンが戻ってきた。リョーマに向かって言う。


「音量と出力のバランス調整は多分お前がやった方が良い。徹夜で付き合え」

「えっ、マジか。まあ全然いいけど」

「若いって良いねえ」

「俺からしたらアブも変わらんが・・・」

「ダンディから見たらそりゃそうでしょ。ビゼリさんなんてどうなるのよ」

「種族的には若い気でいるんだがな・・・」

「長命種あるある」


 実際、長命種は見た目が若くてもジジババ扱いされることが多いそうだ。その代わり、短命種をいつまでも子供扱いするからお互い様らしい。







 リョーマがアンプの仕様を固めてる最中、あたしはステラさんの顔を見に冒険者ギルドに向かった。ここんとこバタバタしててリリカの件で相談しに行った時以来2人で会えていない。時間は夕方になっていた。


「アブさんじゃないっすか。なんかダンジョンの最下層がとんでもないことになってるって聞いたんすけど」

「まあ、流石にギルド職員なら聞いてるよね。おかげで大変なんだって。ステラさんは居る?」


 猫獣人のミーナさんも元気そうだ。仕事してる感が全然なく、いきなり雑談気味に話しかけてきた。


「それが居ないんすよね。なんか冒険者ギルドの本部に呼ばれたらしいっす。王都だから多分、3日は帰って来ないんじゃないっすかね。昇進して支部長になるっていうもっぱらの噂っすよ」

「え?そうなの?朝、話しておけばよかったなぁ」


 今朝ダンジョンに行く前に支部長代理としてスピーチをしたステラさんを思い浮かべる。


「昨晩、うちの支部長が不正してて捕まったとかで、今空席なんすよね。順当にいけば次に偉いのは室長っすから」

「そんなことになってたんだ。因みに何やって捕まったの?」

「収賄と奴隷取引っすね。少なくとも10年は臭い飯っすよ。威張ってて偉そうだったからいい気味っす」

「あたしは面識ないからなんとも・・・」


 知らない人を悪く言うのはあたしの趣味じゃないので言葉を濁す。まあ、いい話を聞かないってことはそうなんだろうなという印象に留める。


「アブさん達にコンタクト取ろうとしてたのを室長が握りつぶしてたっす。『アーケイン・ナブラ』のリリカさんからも関わろうとするなって釘を刺されてたっす」

「いつのまにかそんな護送船団方式が成立してたんだ」


 だとすると逮捕の決定打はボロゾの工作の様な気がするな。今の状況を作るために邪魔なものは絶対排除するだろうし。まあ、あくまで予想でしかないが。


「聞いておかないといけないけど、今は曲を仕上げるのが先だよね・・・」


 そのあとミーナさんと適当に雑談して帰った。



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