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第42話 ヘヴィメタルサンダー

 



「歌詞どうしよっかな・・・」


 あたしは珍しく悩んでた。そもそもメタルの曲の歌詞なんて書いたことがない。曲はハーモニックマイナースケールが乗るように土台を作ればウワモノ隊が組み上げてくれるとして歌詞をどうするかだ。


「メタルの曲って歌詞はどんなのが多いの?」


 ダンディに聞いてみる。


「そうだな。アーティストによるが、闘争、死や反抗に纏わる歌詞が多い気はする。共通してリアルを超越した非日常を表現した曲が多いな」

「あたしとは縁遠いけどその中で行けそうなテーマは反抗かなぁ」

「死に関しても今ならいけるのではないか?」

「あ、そっか1回死んでんだよねあたしたち。でも、それだとヴェルディンとの共通項が消えるから良くない気がする」

「主テーマから外してエッセンスとして取り込むなら有りだろうな」

「そもそもあたし達だけじゃなくて、一緒に戦うみんなのためのアンセムにしないといけないもんね。そういう意味では闘争は当てはまるのか」

「超現実性というのもこの世界のファンタジーな世界観と割と合致しているように思えるな。俺の引き出しの中で前向きなメッセージ性と闘争のイメージに最も合致するのはDragon Forceだろうか」

「あー、Dragon Forceは流石に知ってるわ。あたし達は別に超絶技巧で売ってないからサウンド面で真似してもっていう感じではあるけど」

「ならばセオリーに拘らず自分の想いを自由に込めるべきだ。滾るような熱い思いがあれば激しいサウンドと合わせても違和感はないだろう」

「昔ハロウィンとメタリカのコピーをやってた頃の記憶を思い出してみる。サイドギターだったけど・・・」


 中学生のころバンドをやりたくて色んな曲をコピーしていた記憶が蘇る。メンバーが自分のやりたい曲をそれぞれ持ち寄る感じで実現していたが、金持ちだった親が自宅に練習室を作ってくれたのを覚えている。結果、学生の頃のバンドメンバーたちとのたまり場になってしまったが・・・。


「因みに俺がメタルバンドで最も影響を受けたのはPanteraだ」

「あ~~~~~!知ってる!ライブ中に銃で撃たれた人!ダイムバッグ・ダレル!」


 奇しくも死に方があたし達と一緒だった人。なんとか記憶を手繰り寄せて名前を思い出す。


「そんな知られ方よりも演奏の方を知って欲しかったがな・・・」

「う・・・不勉強ですみません」

「ベーシストの視点だと面白みに欠けるかもしれないが、全体のサウンド構成やグルーヴ、ヘヴィネスに対する姿勢が良くてな。バンドとして本当に格好いい。影響を受けたアーティストも多いはずだ」


 そう言ってダンディはスマホを取り出すとPanteraの曲を再生してみせた。

 あたしのスマホはストリーミング再生派だったから写真ぐらいしか入ってない。


「これは中期の作品で、Cowboys from hellという曲だ」

「ボーカルはだいぶコア系ね。男声のハイトーンならともかく、シャウト系はポリープできるからあんまりやりたくないんだけど・・・」

「まあ、無理をしない歌い方にしてくれ」

「あ、でも、喉の損傷は回復魔法でどうにかなるんじゃない?やってみよっかな」

「アブがそれでいいならいいが・・・」

「音楽制作で一番偉いのはサウンドだから。勿論、持続可能なことも大事だけど、魔法によって解決できるのであれば使わない手はないっしょ」


 女子がシャウトすると金切り声みたいになる事が多い。そうなるのは発声方法を知らないのもそうだが、制御するための筋肉が足りてないせいだ。こっち来て加護を得てからの身体能力ならいける気はする。


「Arch Enemyは聴いたことあるんだよね。よくこんな声出せるよなとは思ったけど、練習したらできるようになるんだろうか」

「短時間でものにできるかはそっち方面の才能が必要だ。あくまで表現の一手法として参考にする程度で良いだろう」

「こっちとしても自分の作品に落としこまないとダメだと思うからパクるつもりはないよ」

「なんなら素直にkawaiimetalで良いのではないか?」

「う~ん、スタンスとコンセプトが違うんだよね。ぶっちゃけ今回は観客を楽しませる要素が無くていいというか。そうしちゃうと主題がそっち寄っちゃうでしょ」

「ふむ、分からなくもない」

「結果論的にそっちに寄るならともかく、最初から目指しちゃいけないわけ。あくまでバンドという個性のぶつけ合いを主軸に置きたいから」

「理解した。ならそれでいいだろう」

「まあ、あたしなりに咀嚼してみるね」


 結局真面目にメタルの世界観と向き合って1曲は書き上げたものの、2曲目は力尽きて普通に書いた。







「うい~っす、アブ・・・ふわぁああ・・・」

「ぐっも~」


 目を擦り、大きなあくびをしながらリョーマがこちらに歩いてくる。朝になっても帰って来ないのでルルイエ工房に迎えに来たというわけだ。


「2時間ぐらい寝たらまあマシになったわ」

「それでアンプは出来たの?」

「ああ、なんとかな。明日にはギターアンプがもう2台。明後日にはベースアンプと本番用のギター3本とベース1本ができる」

「おお~すごいすごい!あたしには言霊があるからマイクもボーアンもとりあえずは後回しで良いかな」

「今回は間に合わないし妥協するならそれでいいが、音響を考えるならゆくゆくはPAシステムも構築したいんだよな。会場によっては位相の関係でデッドスポットとかできるし」

「えっ!?ちょっと待って!キャビ木枠で作ってるの?洒落てるぅ~」


 あたしはアンプのヘッド部分と接続するスピーカーが4発ついてる台座の部分、通称キャビネットを見て感想を漏らした。木枠ではあるが樹脂で塗装されており、リッチ感溢れる気品を備えている。


「それはビゼリさんの仕事だぜ。普段は美術品とか高級家具を作ってるだけあってやっぱセンスあるよな」


 ファンタジー世界の木材だから相当頑丈なんだろうな。楽器に使ってるのも異常に品質良かったし。


「で、音はどんな感じなの?」

「へへっ、気になるだろ?お~い、音出しても良いか?」

「駄目に決まってんだろ、とっとと持って帰れド畜生!俺は眠いんだ!」


 奥に居るアーヴィンが大声で返事をするのが聞こえた。リョーマは肩をすくめた。あたしは鼻から溜め息を出しながら感想を漏らす。


「残念」

「流石に、邪魔するとスケジュールに影響出そうだし大人しく帰ろうぜ」


 あたしたちはその場を後にしてクランハウスへ戻った。






「ごきげんよう。諸君」

「ヴェルディンおっはー。来るの早いじゃん」

「待ちきれなくてね。あのサウンドを聴いてから新しい着想が頭から離れないんだ」

「まあ、あとで聴かせてやるけどメタルってああいうのだけじゃなくて重厚なヤツとかスピードがあるやつとかいろいろあるからあんま拘り過ぎないようにしろよ。あとメタル以外も聴け」

「任せてくれたまえ、いかなる聖域も排除しつつメタルへと昇華してみせよう」

「結局メタルかよ!」


 ヴェルディンに突っ込むリョーマ。だがすぐに考え込むと呟いた。


「ふ~む、でも、確かにこういうのは背景とかアーティストとの関係がない分、遠慮なくできるのかもしれねえな・・・」


 まず、先達への敬意を忘れないリョーマにしては珍しい発言だ。あたしは意図を聞いてみる。


「リョーマにしては随分不遜な発言じゃない?」

「いや、この前メリッサに言われたんだけどこの世界に住む人にはアーティストの歴史とか知らないし関係ないから、縛られずに自由な発想ができるのかもなと思ってな。別に俺のスタンスは変わんないけど、他人にそれを押し付けるのもなんか違えなと思えるようになったというか」

「リョ、リョーマが成長してる・・・」

「わ、悪いかよ」

「多分、先達だって理解者を求めてるから作品を出してるようなもんだし、リョーマぐらい理解できる若者のことは悪く思ってないはずだよ。遠慮なく肩を並べなさい」

「ア、アブが俺を褒めてる上に励ましてる・・・」

「そりゃこーんなアンプまで作ってくれたら褒める気にもなるよ」


 あたしは練習室の隅に置いてある物体を指差した。Marshallによく似た音が出る。メタルに使われているアンプはMESA Boogieが最大のシェアを誇るが、Marshallの改造品を元にしたものも多くある。このアンプから出る音はそれらのうちの一つによく似ていた。


「回路は正直急造で伸びしろしかないけど、素材が良い音出すぎてたからめちゃんこ助かったわ。アーヴィン、彼、相当やるね」

「リョーマと性格似てそうだしウマ合うんじゃない?」

「俺も魔力回路のことは全然分かんねえから色々聞いたし、音のこと教えたんだよな」

「でも、また高い買い物になったんじゃない?」

「そうかもしれねえけど、今回は協議会の経費で落ちるぜ」

「あんまやりすぎると予算オーバーして請求されるから気を付けてよね」

「へいへい」

「じゃあ音合わせ始めるよ。みんな偽Marshallで音出したいだろうしそれぞれのギターに交代で繋ごう」

「カウントォー!」

「2度・漬け・厳・禁!」


 サキがカウントを取りセッションが始まる。

 ヴェルディンには実はレンタルでソリッドギターを渡している。魔力で音量を増幅させるような構造をしているが、内部サーキットも備えており、アンプにつなげるとちゃんと音が鳴るように作ってある。ダンディーの今使っているベースもそれに近い形だ。


 あたしとリョーマも似たようなギターを用いているが、あたしはギターソロに参加するつもりはないのでバッキングと歌に専念させてもらうことにする。パンクの曲は昔よくやってたので刻みに関しては特に問題ない。


 かくして、バンドとしての形は着実に完成へと近づいているのであった。


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