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第38話 呼吸をするように





「というわけなんだ、まずはみんなの意見を聞きたいかな」


 協議会でのボロゾは饒舌だった、いかにこの状況に持ち込むのに苦労したか、手を打たなかった場合ヴァルファゴ上層部の介入によって攻略そのものが滞るリスクがあったことなどを掻い摘んで説明した。


「貴様の功績は分かった。だが、事前に何の相談も連絡もせず単独で動いたのでは信用は得られんぞ。現時点でお前の言葉が本当かどうか裏を取る手段はない」


 厳しい言葉を投げかけるのは『第七特殊迷宮攻略分隊』のアリル・トリロイ。


「今までの誤解されやすい言動が祟っています。まずは反省して、包み隠さず我々の質問に答えていただきたいと思います」


 そうアリルに同調するのは『ダスク・エヴァンジェル』代表のモラ・キレイン。


「まあ、過程はどうあれ結果オーライではないか?違反についても協定の規約に則って清算すればいいだろう」


 この国のクラン『金獅子の牙』代表のブラディオ・ノーランはボロゾをやや庇う立場を取るようだ。


「それについては疑義がある。報告義務違反を追求されることを予見して利益の確定を急いだ形跡がある。これについてはどう弁明する?」


 手元の資料を突きつけ、アリルがボロゾに質問する。


「48層攻略からの報告がなかった時期から起算して国外に持ち出した素材を元に分配金を算出してもいい。それぐらいで買える信用など安いものだ」

「それが本当に利確を目的としたものならばな」

「どういう意味だ?」

「貴様の性根を問うているんだ。問題が発覚する度に尋問していては埒が明かん。貴様がどのような考えと動機を持って事に至ったのか説明させてもらうぞ」

「つまりボロゾ、貴方という人物を知る必要があるとアリル様は仰られています。私も同じ思いです」


 モラもボロゾの追求に加わる。


「要するに、君たちは貴重なカードを僕のことを知るために使ってくれるんだね」

「語弊のある言い方だがそういうことだ」

「分かった、少し話そう」


 ボロゾは一息ついて話し始めた。


「僕にとって利益を最大化するのは呼吸をするのと一緒の行為だ。そうでなければ『幻影の刃』のリーダーなどやっていられないよ。確かに道義上は問題あるが、ルールに穴があったことの方が僕からは問題に感じる。まるで利用してくれと言っているように見えるね」

「問題があれば法はより実態に即したものに改正されていくものだ。今回の件で事務局も改正のための草案を策定中だ。そもそも素材の格差を是正するために法解釈の適用範囲を広めに取っている。考案した先達に敬意を表して法の精神に則った運用を心がけようという気は無いのか?」

「ないね。僕がやってるのはやるかやられるかのゲームだ。こっちはそれも本来はやりたくもない仕事まで押し付けられて迷惑しているんだよ」

「なればなぜ貴様はここにいる?」

「ダンジョンを攻略するためだ」


 ボロゾの感情が露になった。


「君たちが知りたかったのはそれだろう。そう、ダンジョンを攻略したいという熱こそが僕の根源さ。幼少期からその衝動に突き動かされて冒険者の道を選んだ。僕は商家の跡取りだったけど、そのためにちょっとだけみんなに協力してもらった。それが僕の全てだ」


 アリルは一瞬呆気にとられたような表情を見せたが、目を閉じ嘆息した。


「そうか、貴様という人間がどういう人物なのか少しわかった気がする」

「逆に問うけど、『第七特殊迷宮小隊』『ダスク・エヴァンジェル』君たちに合同でのダンジョン攻略を拒否する正当なシナリオはあるのかい?」

「そんなものはない。だが仮にも仲間になる人物の事を知りたいと思うのは当然ではないか」

「『ダスク・エヴァンジェル』としては私の体が持ち去られた件でボロゾさんには恩義があります。確かに対価は支払いましたが、攻略には協力するつもりです」

「前回の協議会の件は良いのか?アブちゃんが男の子でもあるって黙っててさ」

「いえ、見た目に騙された私が悪いのです。ですが、その件を気にしているのであれば今後の働きで返していただきたいと考えています」

「人が良すぎるね」

「それが私のにとっての『呼吸』ですから」


 モラはボロゾに怖気づくことなくそう返した。

 アリルはボロゾを見据えた。


「今回の件で貴様がルールの上でなら何をやってもいい、場合によってはルール外の方法も容赦なく使用する人物であることを再確認した」


 アリルは小さく嘆息する。


「だが、私としてはそういう人物であると認識したうえで用兵を行うことにしようと考えている。人生を賭けてここまで至れるダンジョン馬鹿ならば無い知恵を絞って攻略に貢献することだろう。異論はあるか?」

「なしなし。白旗を上げるとするよ」

「では、その白旗が偽りの白旗であったとしても良いようにこちらも動くとしよう」

「・・・やっぱり、まともに遊んでくれるのはアリルさんだけなのかな」

「こんな面倒なことを遊びでやっているなら張り倒すぞ」

「おっかないねえ」


 剣呑な雰囲気ではあるが、攻略は前に進みそうなところに着地した。






「では、初日は各クランのパーティは組み換えを行わず、本日決めた配置で戦うことにする。何が出てくるかは分からん。可能な限り臨機応変に継戦し、情報を持ち帰ることを念頭に事に当たって欲しい」

「了解だ。各クランのパーティメンバーの能力とスキルについても書類での可視化を行いたい。各自、資料をまとめおいてくれ」

「『アーケイン・ナブラ』と『第七特殊迷宮攻略分隊』についてはもう資料をもらってるよ」

「仕事が早いな」

「現時点で50階層の入り口に到達していないのは『ダスクエヴァンジェル』のみか」

「内部の不祥事対応があったため後れを取りましたが、得意とする光耐性の低い敵が多いため順調です。明日中には到達見込みです」

「急かすようで悪いが頼む」

「それで期限は1か月だったか?」

「そうだね」


 余裕はなくもないが時間をかけるわけにもいかない、そんな期限だ。


「死亡から蘇生した場合の衰弱時間の問題はどうする?」

「聖者の力で衰弱時間の短縮が可能です。本来であれば中1日必要ですが、寝て起きる頃には回復するので連日攻略が可能です」


 24時間戦えますかって言うね・・・。あれ?これ、あたしたち休みなくね?


「すみません、休みが無いようなんですが」

「なんだ?まだそんな甘えたこと言ってるのか?」

「『アーケイン・ナブラ』は随分甘やかしているようだな」

「いやいやいやいや、なら休日分は上乗せして請求しますからね!」

「ああ、お金が欲しいのか。なら好きなだけ稼がせてあげるよ」

「おそらく、一生遊んで暮らせる額になるだろう。それで何を成すかは貴公次第だが」


 そう言うとリリカとボロゾとアリルは戦術の具体的な共有の話に戻って行ってしまった。


(う~ん、鉄火場だこれは・・・練習時間確保できるかな)






「ということになったんでぇ・・・」

「休みなし?とんだブラックだなオイ!」

「次のミニライブもキャンセルだなこれは」

「ライブキャンセル界隈」


 リョーマとダンディが感想を漏らす。最近は次の休日に街の外の広場で予定してたライブがあってそのための練習をしていたのだが、ライブはリスケにするしかないだろう。


「ストライキでもするか?」

「いや、1か月の時間制限付きだから、ストしたら余計状況が悪くなると思われ」

「まあ、情もわいてきたしみんなに迷惑かけたくないわな」

「少しでも早く終わらせるように協力するしかないね・・・」


 そういう結論で一応はまとまりを見せた。


「で、攻略が完了したらどうなるんだ?」

「ダンジョンが非活性状態になって、攻略チームはなくなるのかな?その辺まだ聞いてないや」

「自由になるならワールドツアーとかどうだ?」


 ダンディが提案する。


「せっかくできた環境を捨ててまで遠征する意味あるのかな?」

「作りたいものも詰まってるからな。しばらく遠出はしたくないぜ」

「まあ、色々周ってみたくはあるけどね。てか、今何作って貰ってるの?」

「真空管アンプ。電気だとやっぱり一般的に浸透してないから魔力回路で作ってもらってるんだが、電気とは性質が違うからこれがまた難儀でな・・・」

「まあ一から作るってなると相当だよね」

「遠出しても大きく環境が変わらない状況になったらワールドツアーもありだと思う」

「いつになるやら」


 そうして音合わせやメリッサの教育などをしていると夜も更け込むのであった。





 『アーケイン・ナブラ』のクランハウス。

 今日は素材狩りと探索メインの予定なのだが・・・。


「ハァーイ!今日は宜しくお願いね!」

「なんでこの人がいるの?」

「我は今日も戦術共有会の予定があるので、人員補填として『幻影の刃』が提示してきたのがコイツだ」


 コイツ呼ばわりされたのは、見た目は20代前半のように見えるテンションだけは高いがどこか陰のある女。リリカと同じ大学の破壊学部准教授でマルガレーテと名乗っていたはずだ。


「この人がリリカの替わり・・・」

「アテにするなよ。攻撃の事しか考えていない女だ。運用するコツは徹底的に時間稼ぎをすることだ。そうすれば勝手に敵を全部倒してくれるだろう」

「ちゃんとやらないと研究費削られちゃうから心配しなくてもいいわよ」

「実力は確かだが、コイツの講義を受けるときは思想に感化されないようにという宣誓書にサインさせられるからな」

「大学からも危険人物扱いなのね・・・」

「安全な学問の何が魅力的なのかしらね」

「そういうところが良くないんじゃないかな・・・?」


 まあ、決まった物はやるしかない。


「では後は宜しく頼むぞ。今日限りの辛抱だ」

「明日以降も顔は合わすことになるわよ」

「憂鬱だ・・・」


 リリカ以外の我々はダンジョンへ向かった。


「『ストラタム・ディテクト』!」


 グラントが探査魔法を展開する。


「出口はあちらですので、あちら以外を探索しましょう」

「了解」


 歩きながら雑談する。


「そういえばあたしから詳しく自己紹介していなかったね。濁川鐙と言います。吟遊詩人として協議会を通じて『アーケイン・ナブラ』に派遣されています」

「伺ってるわよ。将来有望な吟遊詩人として業界でもマークされてるわ」

「何の業界・・・」

「破壊界隈よ」

「なにそれこわい」

「支援職は破壊行為において切っても切れない存在。威力の追求だけ見ていては駄目。シナジーこそが破壊を生み出す。大枠で考えることこそ真の破壊に繋がるのよ」


 ぶっ飛んだ思想を持っているのは予め分かってたけど、こう直接話すと実感がこもってるな。浪漫の追求に近いものを感じたので、あたしは自分との共通項を見出そうとしてみた。


「マルガレーテさんは音楽について興味はありますか?」

「あまりないわね」

「では、破壊をモチーフにした楽曲や表現などには?」

「少し興味があるわね。本質的ではないけど」

「では、物が壊れるときの音などは?」

「・・・素晴らしい」


 マルガレーテは歩みを止め、一点を見つめる。


「想像するだけで満たされる!素晴らしい着眼点だわ!これで生活に潤いを齎すことこの上なしよ」


 あたしそっちのけでブツブツ呟き始めた。


「あの、歩かないと先進めません。研究費減らされますよ」

「おっと、そうだったわ。お金なんて概念なくなればいいのに!あなたも音楽だけしてたいでしょ?一緒にお金という概念をぶっ壊してみない?」


 リバタリアンの社会実験かな?そんな地獄はまっぴらごめんだ。


「こちらの生活にも支障が出るので遠慮しておきます」

「残念ねぇ」

「敵襲!アビスドレイク3体、闇天狗2体です」

「待ってたわよ!破壊魔法『クリティカルデストラクション』」


 マルガレーテはアビスドレイク1体に向けて魔法を放った。それはアビスドレイクの喉辺りに吸い込まれ、その後動きを止めたアビスドレイクは口から血を吐いて動かなくなった。


「い、いきなり!?」

「あはは!壊れちゃった!ターゲットを取り返す必要はないわよ!他を頼むわ」

「『マナタウント』!」


 不承不承と言った感じでロズホーンが応じる。あたしも呪歌の演奏を開始する。『魔泉のアルペジオ』から『縮約のスタッカート』、『罅隙のオブリガート』へとつなげるいつものコンビネーションだ。


「上からも来るぞ!」


 ロズホーンの『マナタウント』の範囲外だった闇天狗の1体がこちらに向かって飛びかかってきた。マルガレーテはそれを迎撃する構えを取った。


「いい音で壊れなさい!『フラクチャースフィア』」


 すると闇天狗と我々の間に球状の魔力による力場が出現し、それは闇天狗と衝突する。その瞬間、闇天狗の姿が小さくなったかと思うと大きな音を上げて破裂した。


「残りは1匹ずつ処理するぞ」


 既にロズホーンとバラックによって片付けられた1匹を除き、残り2体を掃討し、襲撃は収まった。


「なかなか効率的な破壊ね」


 マルガレーテの魔法は燃費が非常に悪かったが、その日はグラントの探査魔法のおかげで隠し部屋の宝箱も開けることができ、相当な稼ぎで終了した。




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