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第36話 ドリームコンサルティング

 



 クランハウスの食堂。奥のキッチンではメリッサが食器を洗っている音がする。

 報告が終わったあたしは湯気の出た紅茶を啜り、一息つく。


「ってことがあってぇ。多分、会議で色々決まると思うから、そっちも攻略頑張ってね」

「30人でバトルか。なんかすごそう」

「因みにみんなのとこの攻略状況ってどんな感じ?」

「『第七特殊迷宮攻略分隊』は今日40層を突破できたぜ」

「『ダスク・エヴァンジェル』は明日40層を攻略見込みだ」

「えっと、名前忘れたけど43層。だと思う多分」

「『金獅子の牙』ね」

「そう、それ」

「まあ、みんなに情報頭出ししといて。結局、明日中には知ることになると思うけど」

「了解した」

「う~っす」

「ほい」


 サキは伝えられるか不安だけど、どのみち時間の問題だし良いか。


「そういやみんなって、呪歌の時どんな音出してんの?」


 リョーマが訊いてきた。


「あたしはこんな感じ」


 あたしは『魔泉のアルペジオ』の時の演奏をいつも使ってるライアーで奏でてみせた。


「こっから『罅隙のオブリガート』とかのメロディーが必要なときは歌ってカバー。『支配のオスティナート』のときは循環コードじゃなくてコード固定でリフを繰り返す感じ」

「へえ。無難な感じだな」

「失礼な。それに失敗したら大惨事だからわざわざ変わったことする必要なくない?」

「俺はスウィープでもアルペジオ扱いになるのを発見してそればっかやってるぜ」


 そうするとリョーマは持ってるリウトフォルテ風に改造したリュートで爆速スウィープ奏法を披露した。


「はーうまいもんね。流石ギタリストってところだけど」

「俺は元々サウンドエンジニア志向で、そんなに技巧派じゃないけどな。色々やるけど、突き詰めてはやれないし」

「もしかして、それを誤魔化してるって自己評価するタイプ?」

「いや~流石にそんなにドMにはなれねえわ。そういうのは才能ある人がやってくれるでしょ。うちのバンドも求めてないと思うし」

「分かっていればよし」

「へいへい」

「ダンディはどんな感じ?」

「俺か?」


 ダンディはアコースティックギターを取り出し、オーソドックスなスリーコードでアルペジオを奏でた。


「へぇ、これまたオールドスクールな」

「トラディショナルと言え。リフはこんな感じだな」

「アブと同じ安定志向か。まあダンディの性格考えたらそうだよな」

「あとは、サキか」


 あたしたちはサキの方を見た。


「最近は、敵を打楽器にしてる。このスティックで」


 サキはそう言うと、前にリョーマに言ってヴァンダルさんに作らせたアダマンタイト製の特注スティックを掲げた。


「叩きながら鼻歌歌ってると威力アップと速度アップのヤツは発動するよ」


 多分、威力アップは『支配のオスティナート』、速度アップは『群像のレチタティーヴォ』の事だろう。


「発想がヤベぇ」

「それ聞いたときどうかしてると思ったけど、ダメージを与えつつ演奏するっていう、すっごく合理的な方法だわ」

「ダンジョンの攻略速度が上がってるのも納得だな」

「敵を叩くのは『けーやく外』の事だからアブの許可が要るって言ってるんだけど、しつこくお願いされたから、じゃあ面白い顔してくれたらいいよって」

「・・・面白い顔してもらってるの?ブラディオさんに?」

「うん」


 とんでもないやつだ。


「おっさんの変顔はおもろい。バイト先のみんなも笑顔になる。雰囲気〇」

「それで軋轢が生まれないんならいいけど・・・」

「サキはショート動画見れなくなったから、そういうささやかな笑いが欲しいんだろ」

「うん、リョーマもたまに変顔してくれるけど、皺と筋肉が足りない」

「ああ、そこを言われると根本的に勝てない気はするぜ」

「なかなか要求が厳しいね・・・」


 他は他で色々だということが分かった。







「よし、全員揃ったな。これより訓練の時間に移るが、伝達事項のあるものは居るか?」

「はい!リョーマです!」

「簡潔に述べろ」

「情報提供です!アブの派遣先クラン『アーケイン・ナブラ』が昨日50層へ到達しました!そこで神の詔を拝読したとのことです!それによれば、50層は30人でなくては突入することはできないとの話でした!以上です!」

「分かった。午前は自主訓練とする。私は協議会と『アーケイン・ナブラ』に接触を図りさらなる情報を共有するために自ら動く」

「はっ」

「解散!」




「おい、リョーマ」

「なんだ、ジーク」

「さっきの話は本当か?」

「ああ、大マジだぜ。ってもアブの言ってることだから俺が見たわけじゃないけど」

「つまり、5カ国による合同での攻略が実現するってことだよな」

「そうなると思うぜ。俺たちはまあ49層まで攻略する必要があるが、時間の問題だろう」

「そうか、であれば姉さんの活躍が他の4国のクランの奴らの目に留まるってことだな」

「うん?まあそうなるかな」

「これは姉さんの素晴らしさを外の人間にアピールするチャンスだ」


 そんな会話をしているとフェンリスが割り込んできた。


「おい、ジーク。アリル隊長は確かに素晴らしい方だが、我々がアピールすると却ってよくないと思うぞ」

「なぜだ!」

「部下も御せぬ未熟者だと受け取られかねない。だから我々は優秀な兵である、それ以上でもそれ以下でもないというスタンスで居た方が良いと考える」

「むう、一理あるな・・・」

「それに、大人数であればアリル隊長の第2適正『指揮官』の効果は必ず発揮される。これは既定路線と言ってもいい。邪魔をしないことを第一に考えるんだ」

「・・・ふう、どうやら頭が熱くなっていたようだ。おかげで目が覚めた」

「分かってくれて何よりだ」


 フェンリスがジークを言いくるめた。俺はそこに更に続けた。


「それにアピールし過ぎるのは考えもんだと思うぞ。アリル隊長の露出が増えると、狙う奴も増えるんじゃないのか?」

「ふん、釣り合う奴が居るとは思えんな」

「じゃあなんで俺を目の敵にして遠ざけるんだよ。釣り合うと思っているのかよ」

「ぐっ・・・、この前のお前の演奏を聴いた時、ちょっとかっこいいと思ってしまったんだ。姉さんもすごく褒めてた」

「ええ・・・?それだけで・・・?」

「姉さんが人を褒めるのは珍しいんだ!俺だってそんなに褒められたことはない」

「俺みたいに向上心がなくて才能がない奴に、アリル隊長みたいな人が相応しいとは思えないけどな」

「馬鹿を言え!」


 ボガッ!


 俺はいきなりジークに殴られた。呪術師は物理職ではないが、日ごろの訓練のおかげで腰の入ったパンチを顔面にお見舞いされた。


「俺は、お前が音を上げずに戦闘訓練をしてきたのを知っている。吟遊詩人の戦闘貢献度だって。耳の良さを生かした索敵もだ。キトゥンフィッシュの利益のおかげで我々がどれだけ恩恵を得たか!神の試練も超えてみせた!お前はお前に出来ることを全てやって、それ以上の成果を上げている。お前以上に姉さんに釣り合う奴は居ない。俺はそう思ってるのに!お前は!お前という奴は!」

「痛えな!そう思うなら俺の気持ちも尊重しろよ!」

「そこまでだジーク」


 タイザンがジークを羽交い絞めにする。


「放せ!リョーマにはまだ言ってやりたいことが山ほどあるんだ」

「青春ねえ」


 最近、俺の世界のダンスを覚えて踊りに更に磨きがかかったシスター・エナがそれを見ながらニマニマする。


「ドリームコンサルしちゃう?」

「ジーク!逃げろ!金玉空っぽにされるぞ!」

「ひいいいい!!」

「もー、夢魔だけど淫魔じゃないのに、失礼しちゃう」


 エナさんには悪いが、俺はジークを脅して仕返しをしてやった。

 殴られたのは理不尽だが、なんだかんだ俺のことを評価してくれてるし、好きなものが取られるかもしれない恐怖と戦っているんだろうと思うと、このぐらいで許してやろうという気分になる。


「前から思ってるけど、なんでアイツの中で隊長と俺のカップリングが成立してるんだ?妄想が逞しすぎるだろ・・・」


 午後からはちゃんとダンジョン攻略に移って44層まで攻略できた。







「失礼。私はザインヴァルト騎士団領『第七特殊迷宮攻略分隊』隊長のアリルだ。ダンジョン攻略に関する件で、『アーケイン・ナブラ』より何か報告を受けていないか」


 私の名はアリル・トリロイ。吟遊詩人のリョーマから報告を受け、ダンジョン攻略協議会の窓口に掛け合っているところだ。


「アリル様ですね。協議会の担当者と『アーケイン・ナブラ』のユラン様で内容の共有がなされたところではありますが、ぜひ卓にご参加ください」

「承知した」


 そう言うと受付嬢は既に3名が席についている一角を指示した。私はそちらに向かう。先方もこちらに気づき、起立して会釈をする。


「ザインヴァルトのアリルだ。久しいなユラン、ジェルミン、と『ダスク・エヴァンジェル』の祈祷師だったと記憶しているが」

「正式なご挨拶は初めてになります。ミリアと申します」

「ユランです。アリル様とは前回は吟遊詩人の振り分け会議ぶりでしたか」

「そうだな。リリカ殿は息災か?」

「ええ、過ぎるぐらいに」

「お久しぶりですジェルミンです」

「ああ、世話になっている。早速、話題を共有させてくれ」


 私は兎人族であるジェルミンに進行を促し、着席した。


「ではアリル様には『アーケイン・ナブラ』が50層への扉にて発見した碑文の書き写しを見ていただきます」


 ジェルミンはそう言って私に紙を渡してきた。


「なるほど。報告に相違はない。だが、これは『幻影の刃』の報告義務違反なのではないか?」

「おっしゃる通り、我々も同じ見解です」

「協定によれば、報告義務違反は『金貨10枚をギルドに支払い、報告義務違反によって得た利益の半分を他団体に分配する』とあるが、『幻影の刃』が41層以降に稼いだ金額は帳簿に記録されているのか?」

「それが、48層攻略後にオークションへの出品も素材の売却もピタリと止まってしまい・・・」

「つまりそこから先は自国に持ち帰った可能性が高い、か」


 ユランが口を開く。


「元々、ダンジョン協定自体が資源の格差是正のための制度でありますから、素材の持ち帰り自体は禁止されてはいません。ですが、これは露骨に意志が介在していると見ていいと思います」

「そうだな・・・」


 追及に動くか?いや、30人が欠けるわけにはいかない。


「ボロゾめ、妥協できるラインのギリギリを狙っているのか」

「左様でしょう。ここにリリカ様が居られましたら同じ結論に達すると思われます」

「我々は有資格者を欠くわけにはいかない。奴らの違反には目を瞑るしかない。既に奴は莫大な利益を得ているだろうが、これは奴に後れを取った我々の責任でもある」

「目下の課題は5カ国の協議会の開催スケジュール。協議会には報告義務違反によって抜け穴を使用することによる不正利益等の再発防止草案を策定してもらう予定です」

「分かった。開催スケジュールが決定したら知らせてくれ」

「では、本会合はこれにて」


 一同は会釈をして去っていく。ミリアが小さく呟くのが聞こえた。


「お金稼ぐのって大変なんだな・・・」


 ボロゾのようなな方法で金儲けをする奴はそうそういないと教えたかったが、微笑ましさに緩んだ口元を見られるのが恥ずかしくて振り向くことはせず、そのまま立ち去った。



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