第35話 詔
「このバンドのボヘミアンラプソディっていう曲、とっても素敵ね。展開が多彩な上に劇的で人生の縮図みたい」
「あ~はいはいその曲ね。ある意味私の先輩でもあるんだよねフレディ」
ク〇ーンの楽曲はとても繊細で力強く独特の美しさがある。唯一無二と言ってもいい。確かにボヘミは良い曲だがあたしは『I Was Born To Love You』や『Don't Stop Me Now』の方が好きだな。
「この曲はドストエフスキーって言う作家の『罪と罰』っていう小説をモチーフにしてるって言われてるんだぜ」
「どんな話?」
「人を殺した青年が裁かれる話」
サキが隅っこの方で目を泳がせながらブツブツ言っている。何を言ってるのかは聞き取れなかった。
(確かに死んだけど・・・生き返ったから、セーフ)
(俺の罪は俺に幸福をもたらした。それを守るのが俺の罰・・・)
ダンディまでポーズを決めて役者気取りだ。そんな空気を読んであたしは提案する。
「はいはい、じゃあ戯れにボヘミアンラプソディのカバーってかコピーしまーす」
「コーラスどうすんの?」
「低い方からダンディ、リョーマ、サキ、あたしで良いんじゃない?メリッサも歌う?」
「うん、参加できるならしたい」
「そういえば言うの忘れてたけど、でかいの出すからちょっとこの辺スペース空けてくれ」
リョーマから何かあるようだ。言われたとおりに地下の練習室の真ん中に広めのスペースを確保した。するとマジックバッグからリョーマは黒い何かを引っ張り出した。黒い机のような脚が見えるがもっと大きなもののようだ。それをバッグからはみ出した状態で一旦床に足を置くと、今度はバッグの方を引っ張り、黒い巨体が露になった。
「グランドピアノ・・・!最高か!?」
「金貨50枚かかったぜ。月給だけじゃ払えないけど攻略してると臨時収入が結構入ってくるからな。沼地の『キトゥンフィッシュ』って言うレアエネミーを倒した時は1人金貨100枚ぐらい稼げたぞ」
リョーマの索敵は評判らしく、音がする敵なら半径2キロ先ぐらいまでなら追えるらしい。敵が多すぎると無理だが。
「本当は黄金のピアノを背負ってピアノミサイルとかやりたかったけどな。愛の戦士らしく」
「はい出た、この世界の人に絶対伝わらない小ネタ選手権」
「黄金でピアノを作るなら白金貨1000枚要るよって言われたから涙を飲んで断念したんだぜ」
「柄が笛になってる鎌なら持ってるよ」
「モ〇ハンにもそういうのあったよね」
「狩猟笛とか人気なさ過ぎてな・・・」
「あれディジリドゥみたいな音するじゃん。全然優雅じゃない」
「狩りゲーの世界観なんだからしょうがないだろ」
「そろそろメリッサが話題に入れなくて困ってるから演奏するぞ」
「カウントォー!」
「もー、そういう曲じゃないじゃん・・・まともに始めなさいよ」
「ふんがー!」
『ボヘミアンラプソディ』はちゃんと演奏できてそこそこ盛り上がった。
「『マーシーエッジ』!」
エルダーリッチにバラックの『マーシーエッジ』が刺さる。敵の自動復活を阻止し、確実に止めを差した。
「流石に最深部にあたる階層だけあって高額な素材がポンポン出てくるな。先行した『幻影の刃』はどれだけ儲けおったのか・・・」
「今もう最深部なの?」
あたしたち『アーケイン・ナブラ』一行はダンジョンの48層を攻略中だ。
「過去の傾向からするとダンジョンは50層で終わりだ。ダンジョンについては誰が何のために作ったのか不明点も多いので不測の事態はあり得るが」
「攻略しきっちゃうとどうなるの?」
「攻略が完了するとダンジョンは安定期に入り、敵が弱体化し、素材や戦利品が劣化する」
「え、それって攻略しちゃっていいの?」
「活性化したまま放っておくといわゆるスタンピードと言われるダンジョンの中の魔物が外にあふれ出す現象が引き起こされる。稼げるからと言って放置はできんのだ」
「ふ~ん、じゃあしょうがないね。でもルルイエってダンジョンで発達した歴史のある町じゃなかったっけ」
「ダンジョンは活性化と安定化を繰り返すタイプのものと、攻略すると消滅するタイプの2種類に分かれる。ルルイエのダンジョンは前者だ」
「まあ弱いモンスターなら派遣されるような強い人たちじゃなくても任せて大丈夫なのか」
「そうだ。ダンジョン攻略協定は出土品による富の不均衡をなくすためもそうだが、攻略の滞りを避けるためという側面もある。制覇したクランは国の代表からの表彰と特別ボーナスが支給されるぞ」
「そういうところで競争心を煽ってるのね」
「だが、『幻影の刃』は先行しているにもかかわらず攻略を一旦休止し、国に帰りおった。不祥事のあった『ダスク・エヴァンジェル』さえ帰らなかったというのに」
「バカンスに行ったとかじゃなかったの」
「戯け。ボロゾの言をまともに受け取るでない」
「そういえばそういう奴だったな・・・」
周りに味方しかいない状況なのでつい気が緩んでしまっていた。ボロゾは確かに根は悪いヤツじゃないとは思うけど、立場や境遇によっては手段を選ばないタイプではある。故に油断はできない。
「悔しいけど知恵比べじゃ勝てる気しないのよね。相手が面白がってるからなんとかなってるけど。ほんとリリカが頼りだよ~」
「あやつは興味がない相手には滅法冷たいからな。付け入るスキがあればアブの魅力も少しは利用させてもらうぞ」
「うへ、藪蛇」
「使えるものは何でも使うのだ。いずれにせよ奴が居ない今のうちにさっさと攻略するのが最善手だろう」
「鬼の居ぬ間にってね」
「敵襲です。シャドウハンズが3体、エコーパペットが4体、ネイムレスナイトが1体」
「鬼は居ないが敵は出るってね」
「行くぞ。ロズホーン!」
「承知!『マナタウント』」
まず、ロズホーンが敵全体のヘイトを一心に受け、誘導する。
シャドウハンズは戦闘力は低いが、触れられると声が出せなくなる『ミュートタッチ』が得意技で、床や壁などから突然生えてくる。
エコーパペットは音声の伴った魔法をこだまのように返してくる。2種類とも魔術系ジョブの苦手とするモンスターだ。
ネイムレスナイトはバカ高い戦闘能力で力押ししてくるが、剣技が凄まじく、1対1では戦闘が長期化してしまう。
「あわよくば永眠せよ『スリープ』!」
リリカの『スリープ』がネイムレスナイトに発動し、ネイムレスナイトは膝から崩れ落ちた。
エコーパペットがこだまを返そうとするがそれよりも早くリベリアが動いた。
「『ダークヴェール』」
黒い靄が味方全員を包み、状態異常耐性を上げる。
「「「「スリープ」」」」
エコーパペット全員がスリープを返してくるが、誰も眠らなかった。
「シャドウハンズに気を付けろよ」
バラックはその中の1体を既に始末しながら言う。
「聞くまでもないが一応弱点は?」
「光です」
リリカの問いにグラントが答える。魔法の発動の予感がしたのでリリカに『罅隙のオブリガート』をかける。
「光の濁流よ。全てを押し流せ『クワドラブルスペル』『シャイニングフラッド』」
眩い光を放つ液体状の魔力の塊があたりを包み、リリカを中心に大きなうねりとなって辺りを押し流していった。全方位無差別範囲魔法だが、味方には害がないよう調整したのだろう。
モンスターはネイムレスナイトを除いて全滅し、そのネイムレスナイトも多対一で完膚なきまでに叩きのめされた。
「まあ道中は味方が6人もおれば大した敵ではないの」
「でも、あたしが6人居たんじゃ全滅だよ。やっぱパーティって互いを補っててなんかいいね」
「いや、案外吟遊詩人6人は割といい線行くのではなかろうか」
「え、ほんとに?」
「アブのところのサキという吟遊詩人だ。あれはとてつもない力を秘めておる」
「あれを基準に求められると立つ瀬がございません」
「アブも素質はあるようだがの」
「いつ開花しますのやら」
「ふむ、やはり荒療治が必要か・・・」
「無茶な育成計画とか立てないでよね」
気が気ではなかったが、50層の扉が見えたのはその日の夕方のことだった。
バロック調に近い華美な装飾にまみれた扉の前、我々『アーケイン・ナブラ』の面々は神妙な面持ちで立っていた。扉を発見した時点で、この地点に戻ることは可能なので、一度帰還石を使い、ユランに50層を攻略することを伝えてまたここまで戻ってきたというわけだ。
「50層の情報は『幻影の刃』からも得られていません」
「奴らは50層に到達したことも報告しておらん」
「到達してれば報告して戦術を共有するなどの義務が発生しますからね」
「まあ、ボロゾなら教えないだろうね」
あの、どこにでもいそうな男のとぼけ面を想像する。
「今回の目的はできるだけ多くの情報を持ち帰ることにある。全滅するようなことがあってもユランが救助隊の手配を済ませているはずだ」
ダンジョンで全滅した場合はルルイエ東区全域のどこかにすっぽんぽんの死体が排出される仕組みになっている。3日経てば完全に蘇生が効かなくなってしまうので、その前に蘇生を行う必要がある。
「リリカは全滅した経験ってあるの?」
「ない」
「リリカ様は戦闘で死亡した経験もありません」
「じゃああたしと一緒だね」
あたしはリリカの手を握る。
「嬉しく思うぞ。汝と死ねるなら本望だ」
「なるべく生きて帰りたいのはそうでしょ?」
「無論だ。だが帰還石を封じられる可能性もある。広範囲かつ即死級の攻撃を全員が一度に受ける場合もある。何が起きるか分からんのだ」
死んでも生き返る。その事実は別として、良く知らない他人に生き死にを握られるのも癪ではある。発見されるまで身柄は無事とは言い難いし、邪な目的を持った人間に持ち去られる可能性もある。
「モラさんみたいにバラバラにされて持ち去られても見つけてくれる?」
「当然だ。アブの体組織の一部は採取済みで、体の一部が世界中のどこにあろうともその情報をもとに追跡可能だ」
「ぬ、抜かりないね・・・。それを聞いてちょっと安心したかも」
「ではゆくぞ」
リリカは50層の扉に手をかけた。
「!?」
扉は開かなかった。そのかわり、扉が光に包まれ文様が浮き上がる。
“冒険の徒よ よくぞ此処まで辿り着いた
我は迷宮を司る神々の一柱
然れど この扉を開くに値するは三十の魂
その誓いを共に立てし者のみ
さらなる十八の同志を待ち
資格を有す仲間と共に
迷宮の入り口にて新たな途を選べ
さすれば扉は開かれん”
「こ、これは・・・」
「神の詔か。グラント、書き写しておけ」
「かしこまりました」
「この先に進むには30人必要だって言ってるよ」
「5カ国のパーティを合わせると丁度30人。これは神に観測されている?いや、考えすぎか」
「今までもこんなことはあったの?」
「いや、我の知る限りでも初めてだ。あったとして報告がなされていないか記録が残っていないかだが、いずれにせよ、この事実を協議会に報告し、議題とせねばならん」
「この碑文の人数からすると、ボロゾは報告義務を怠っていたわけだけど、どうする?」
「どこかの交渉の場において、あと一押しというところで使うカードにするべきだ。闇雲に追及しても罰金を払って終わりだ」
「あいつもその方が喜びそうだよね」
悔しそうに笑みを浮かべるボロゾの顔が容易に想像できる。ああいう手合いは自分と同じフィールドに立てる仲間をこそ欲しているのだ。敵味方を問わず。
「今日はひとまず終わりだ。帰還する」
「了解」
「到達者が揃わんうちの活動日は41層からの探索を続けることにする。レアモンスターや隠し部屋もあるやもしれん」
ということで今日は解散になった。




