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第22話 パティシエ、焼きそばを食す

「えー、焼きそばー、焼きそばはいかがですかー」


「あれっ? チャトラン、今日は焼きそばの屋台をやってるの?」


 コロネとショコラが『パン祭り』を楽しんでいると、見覚えのある虎の獣人の男の子が焼きそばを売っていた。

 一応、『パン祭り』と銘打っていても、お祭りである以上は、普通の屋台とかもしっかりと出てはいるんだよね。

 このチャトランは、さっき、毒パンを振舞ってくれたビスカさんたちの部下のはずなんだけど。

 コロネとも、ちょっとした縁があって、この町に来て最初に、警報を聞いた時に遭遇した人でもあるので、そのせいか、いつの間にか顔なじみになってしまったのだ。

 もっとも、メルさんの患者として運ばれてきたせいで、あいさつとかはあんまりだったんだけど。


 うさぎ商隊の中でも、マッドラビットと組んで、輸送を担当しているチャトランだ。

 見た目は、普段から半獣化をしていて、人型をした虎さんって感じかな。

 年齢はコロネとだいたいおんなじくらいで、一応、孤児院の出身ってことなので、そういう意味では、パティシエの弟子のリリックとかとは顔なじみではある。

 年が近いので、コロネとしても、それほど気を遣わないで話せる相手のひとりでもあるのだ。

 

「あっ、コロネ、ショコラ、いらっしゃいー。いやあ、実はな、ここの屋台を出している連中に頼まれて手伝ってたんだよ。ただ、なかなか戻ってこないし、下手に離れられないし、どうしようかなって」


 何でも、チャトラン、元々、この屋台の担当ってわけじゃなくて、追加分の食材の配達ついでに手伝う羽目になったのだとか。

 一応、お仕事の方はひと段落しているから、そっちはいいらしいけど、問題は屋台をやってた人が、ちょっと席を外したまま戻ってこないのだとか。


 なるほど。

 それはちょっと大変そうだよね。

 焼きそばの売れ行きはまずまずみたいだけど。


「ちなみに、屋台を出しているのって誰なの?」


「ハヤトとレキとイダテンだよ。まあな、何だかんだ言って、かわいい後輩の頼みだから、ちょっとは力になってやろうかな、って思ってさ。それに、俺も焼きそば作るのはちょっと興味があったし」


「あ、あの三人がやってるんだね?」


 なるほどね。

 実は、焼きそばの麺って、ようやく量産とかができる準備が整ってきた食材だったから不思議に思っていたんだよね。

 ハヤト君とレキちゃんとイダテン君は、三人とも、教会で働いている子供たちだ。

 たぶん、この町でも小麦粉から麺類を作るって言ったら、得意な方に入るんじゃないかな?

 この町にやって来てすぐに、塔でパスタ作りのお手伝いをしてたくらいだし。

 その結果、一部の麺類については、教会でも作ったりするようになったんだものね。


「そういうこと。でも、今日は『パン祭り』だからなあ。やっぱり、おんなじ主食で争っても、いつもの祭よりも、焼きそばの売り上げはいまいちってわけさ。だから、三人とも、他の店を巡ったり、対策をたてに行ったというか。店によっては、提携とかもできるだろうし」


 そう言いながら、目の前で焼いていた焼きそばにソースをかけるチャトラン。

 うん、ソースが焦げる匂いが香ばしいねえ。

 これぞ、屋台の焼きそばって感じだよ。

 向こうにいた頃、お店とかで食べる焼きそばと、屋台の焼きそばってちょっと違ったんだよね。

 こっちの洗練されていないというか、野趣あふれる焼きそばって、嫌いじゃないし。


 それにしても、チャトラン、焼きそばを混ぜる手つきがなかなか堂に入ってるね。

 上手いもんだよ。

 そういえば、最近、焼きそばを食べてないことに気付く。


「そういうことなら、わたしたちも焼きそばもらおうかな。子供たちが頑張ってるっていうのなら、ちょっとは売り上げに貢献するよ。ついでに、チャトランもね」


「はは、ついでとはご挨拶だなあ。でも、ありがとうな、コロネ。二人分でいいのか?」


「ショコラ、もうちょっと食べる?」


「ぷるるーん!」


 なるほど、五人前は行けるって。

 それなら、ちょっと多めに頼むとしようか。


「チャトラン、ショコラが五人前食べるっていうから、焼きそば六人前ね」


「はい、まいどありっ! ちょっと待っててくれよ、サービスするから」


 そう言いながら、器用に、両手に持っていたへらをくるくると回転させて、紙皿の上の焼きそばを盛り付けていくチャトラン。

 ちなみに、ショコラの分は、随分と大きめの紙皿だ。

 五人前どころはその倍は余裕で入りそうなお皿だねえ。


「ああ、それ、リディアさん用の皿だよ。それだったら、いっぺんにたくさんの焼きそばを盛り付けられるだろ? リディアさんの他にも、たくさん食べる人が増えてきたし……ほら、できたぞ」


 チャトランが、屋台の横の方にあった、テーブル席まで運んでくれた。

 ふふ。性格は豪快なんだけど、そういうところは優しいんだよね、チャトランって。

 その辺は、孤児院育ちなのが関係してるんだろうけど。

 年下の子たちの面倒とかも見てたことがあるんだろうね。


「ありがとう、チャトラン……って、ショコラ素早いね!? もう食べてるの?」


「ぷるるっ! ぷるる!」


 焼きたてであつあつの焼きそばにも臆することなく、飛びつくショコラ。

 大きな口を開けては、焼きそばを頬張って、もぐもぐと食べているし。

 さすがは、なんちゃってグルメスライムだよ。


「はは、相変わらず、すごい食欲だな。というか、熱くないのかね?」


「うん、まあ、その辺はね。『耐熱』とかも持ってるし、ショコラ。確かに、舌が火傷しないで食べられるのって、ちょっとうらやましいかも」


 こっちは、ふぅふぅと冷ましながら、焼きそばを口へと運ぶ。


「あっ、いいね、これ。屋台の焼きそばって感じの味だよ」


 ソースの味が強めで、ちょっと焦げている麺とか混じって、もちもちとカリカリがちょうどいい塩梅というか。

 キャベツに似た葉野菜と、ジュージュートンのお肉もソースにほどよくからまって、美味しく仕上がってるし。

 さすがに、紅ショウガとかはないけどね。

 そもそも、ちゃんとした焼きそばの麺を作るのが大変だったし。

 これも、地道に小麦の種類を増やしていった結果だよ。

 パンとか、お菓子以外にも、小麦粉が使えるようになってきたってのは大きいもの。


「うん、とっても美味しいよ。やるね、チャトラン」


「ぷるるーん!」


「まあな。そう言って頂けると恐悦至極ってな」


 ちょっとだけ誇らしげに、ちょっとだけ照れくさそうに笑うチャトラン。

 その横で、あっという間に五人前を平らげるショコラ。

 一方のコロネは、ゆっくりと味わって焼きそばを食べる。

 めちゃくちゃ美味しいというよりも、どこか懐かしい味なのだ。

 たぶん、これで、本格的なあんかけ焼きそばを屋台で出されても、何かちょっと違うような感じになるだろう。


「でも、せっかくの『パン祭り』だしね……あ、そうだ。チャトラン、もうちょっと味付けを濃いめにできる?」


 ふと、目についた『自分だけのサンドイッチを作ろう』のコーナーを見ながら、ちょっとしたアイデアを口にする。

 確か、まだお店とかでは売り出してなかったよね?


「濃いめって……十分に塩分が強いと思うぞ? あんまりソースたっぷりでも、食えない焼きそばになるんじゃないか?」


「それでいいの。せっかく色んなパンがあるんだから、焼きそばパンの食べ方を提案してみようよ。パンにはさめばちょうどいい感じの味付けにして、ね」


「へっ!? 焼きそばをパンにはさむのか!? なんだそりゃ? うどんパンとか、そばパンとか、そういうのも聞いたことないぞ?」


「大丈夫、大丈夫。わたしがいたところだと、ソース焼きそばとパンは相性が良いって評判だったから。ただ、そのまま食べてちょうどいい味付けだと、パンに焼きそばが負けちゃうから、ちょっと工夫が必要だけどね」


 炭水化物かける炭水化物。

 ちょっと禁断の組み合わせだけど。

 ジャンクフードって意味では、やっぱり人気があるんだよね。

 焼きそばパンって。

 さすがにパティスリーじゃ出せないけどね。


「たぶん、パン工房でも、麺との兼ね合いで作ってなかったと思うし。まだまだ、焼きそばは単品で食べるものって感覚が強いから、ある意味、新メニューとしては狙い目だと思うよ?」


「ふうん……そういうことなら、一丁やってみっか! って、ここ、俺の店じゃないんだけど」


「後輩にいいところ見せたいんでしょ、チャトラン? それなら、ちょっとパンにはさむ用の濃い味の焼きそばを準備してて、わたしはちょっと、ピーニャのところに行ってくるから」


 せっかくだから、『パン祭り』の出品リストを見せてもらおう。

 焼きそばパンに向いたパンがあったら、そこで、ちょっと交渉して買ってくる感じで。


「おっ、コロネ、手伝ってくれるのか?」


「うん、やっぱり、お祭りを見てて、楽しそうだなって思ったしね。普段は甘いものばっかり作ってるから、ちょっと趣向を変えたものも作りたかったし」


 やっぱり、この手の催しは楽しくないとね。

 そういうことだから、焼きそばパン作りで、ちょっとコロネもお手伝い、だ。

 ふふふ、面白くなって来たねえ。


「それじゃあ、ショコラは看板の用意をしてて。後で、それを持って、お祭り会場を歩いてもらうから」


「ぷるるーん! ぷるるっ!」


 ショコラにはチョコレートで看板を作ってもらって。

 それで、焼きそばパンの告知をすれば、今からでもまだ十分間に合うかな。

 そうと決まれば、やれることをやるよ!


 そんなこんなで、焼きそばパンの販売に取りかかるコロネたちなのだった。





「えーと……チャトランさん?」


「すごい行列です……」


「あっ! さっき、ショコラと会ったよ! 新しいパンって言うから、どんなかな、って思ったら、僕らの屋台だったんだ! すごいね!」


「良かった! 三人とも戻って来たんだね。早く、こっちへ来て手伝って!」


 しばらくして、屋台に戻って来た三人が目にしたのは、焼きそばパンを求めるお客さんたちの行列だった。

 慌てて、屋台の方へと加わるハヤト、レキ、イダテンの三人。

 そんなこんなで、降って沸いた焼きそばパンブームに盛り上がったまま、今回の『パン祭り』は無事、終わりを迎えるのだった。



 後日、パン工房に、新しいメニューが加わって、売り上げが伸び、そのことで、パン工房の主である妖精が大喜びしたのだが、それはまた別のお話。

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