↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みにくい猫の子  作者: 西田月石
第2章 フレア共和国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/41

ログとミケ

 ディアが部屋に入ると、ミケはベットの中に潜り込み泣いていた。うにゃうにゃと聞こえる泣き声に混じり「キライにゃ」と恨み節も聞こえてくる。

 この日――ミケはログと出会って、初めて反抗した。

 どうしてこんなに腹が立ったのか――ミケ自身も分からない。

 ただ・・・ログが自分を分かってくれず、大きな声で叱った事に無性に反発したくなったのだ。大好きと大嫌いがミケの中で膨れ上がり、涙が溢れ出す。息が苦しいほど泣きむせてきて、止めたくても嗚咽が止まらない。


 布団が捲り上げられ、ベットにうずくまるミケの目に、優しく微笑むディアの顔が映った。ディアは何も言わずミケを抱っこし、右頬の涙を拭い取る。襟首に掴まるミケに「かわいい顔が台無しさね」と語りかけ、ふわりと抱きしめた。


 「ディ・・ディアママぁ(えっぐっ・・)ミケ・・ミケ・・(うぐんっ・・)ログぅにぃ・・・嫌われてるにゃぁ〜!(えぐえぐっ・・)だっ・・だからぁ〜!(ふぐぅ・・)ログぅ・・怒るにゃ〜!ミケもキライにゃぁ〜!(ひっひっく・・)」


 しゃくりあげ身体を震わせながら、ミケはディアに訴えかける。――嫌われたからキライ。でも、その言葉の裏には、大好きなログに嫌われたくない気持ちや、リルとの楽しい時間は悪いことじゃないんだ!と伝えたかった葛藤、何よりログに叱られたショックが包まれているのだろう。

 ディアにはわかる。遊び相手も居ない中で退屈すぎて、ちょっと冒険した「いたずら心」は、きっとミケの中では――ただ「してみたかった事をした」だけなのだ。


 「ミケ、よしよし――泣かなくていいよ。大丈夫だよ。ログはミケを嫌いになんてならないさねぇ。ログはね――ミケが心配でビックリしたのさ。だから、あんなに大きな声を出しちゃったんだよ。」


 「でも・・(ふぐっ)・・でもぉ〜!」


 「うんうん、怖かったよね。それは、あたしがログに言ってあげる。だからね、ミケもログに「一人で冒険してごめんなさい」って言えるかい?」


 「ミケ・・(ひっく)・・がんにゃるにゃ・・。」


 ◇ ◇ ◇


 ミケが泣きながら部屋に駆け込んだあと、ログは後悔していた。いや、半分は正真正銘の後悔だが・・もう半分は叱ったことを肯定したいが――やはり後悔してしまう気持ちといったところか。

 ログは子どもどころか、結婚すら経験がない。ノースの子どもと遊ぶ事くらいあったが、これほど長く生活を共にした経験が無かった。

 だから自分がこんなにもミケを大切だと感じ、ミケが居ないと不安で肌がヒリヒリし、ミケの涙を見ると胸が締め付けるように痛くなるなんて思いもしなかった。大切なはずなのに・・・奴隷として虐待を受けたミケに、あんな叱り方をすれば恐怖しか与えなかったはずだ。

 わかっているのに――守ると決めたのに――。

 そんな自分が――ミケの傷を広げてしまったんだ。ログを襲う自己嫌悪と罪悪感――。居合わせた者たちも無言で、重苦しい時間が過ぎていく。


 (カチャリ)


 ドアが開き、ディアがミケを抱えて出てきた。ディアの胸でミケは指を咥え、まるで赤子の様にまだ嗚咽を漏らしている。まっすぐ見つめるミケの右目と、ログは視線が合うが・・・すぐに視線を外しディアへと向けた。


 「あんたの声が怖かったんだよ、ログ!――言うべきことあんだろ?」


 ディアはログを見つめ返し、そっとミケを降ろして立たせた。ミケはディアの裾を握ったまま、左手の親指を口にしてログを見上げている。その姿を見たログは、罪悪感に締め付けられながら口を開いた。


 「ミケ――ごめんよ。泣かせて・・・怖い声出して・・・ごめんよ。」


 ミケはログの言葉を聞くと「ログぅ〜!」と駆け出した。ログもしゃがみ込み、ミケを受け止め抱きしめる。ログが背中を優しく擦ると、再びミケは泣き出し何かを懸命に喋っていた。


 「ログぅ・・(ひっく)キラ・・イは・・(えぐっ)嫌にゃぁ〜!」


 「嫌いなわけないじゃないか!ミケが大好きだよ。ごめんよ、ミケ。」


 ミケの小さな身体、熱いくらいの体温がログの腕の中で震えている。愛おしさが込み上げ、ミケの全てを包んでしまいたくなる。只々ミケの温もりが、ログを幸せのベールに包んでくれた。


 「あたしが居ないと、こ〜んな可愛い娘に謝れないなんて――世話の焼けるオッサンだねぇ。たださ、ログ。いま目が枯れてないよ。いいかい?今あんたを人に戻してるのは――その可愛い娘さ。大事にしないと、あたしが相手になるよ!」


 「ありがとう、ディア。君は大きい人だよ。」


 ディアは「ふふん」と顎を上げ、両手で胸を持ち上げる。


 「な〜んだい?目が生き返ったら、この胸が気になるかい?」


 「ち・・違う!そう言う意味じゃ――。」


 「にゃは!ログはおっぱい好きにゃ?」


 「違う、違う!――おいっ!ディア!ミケに変なこと教えるなよ〜。」


 「ふふっ!泣いてた子猫が笑ったねぇ。」


 「ログもディアママも・・大好きにゃん!」


 なんだかディアに上手く丸め込まれ、ホッと安心している自分にログは動揺した。静かに、孤独に生きていく事を望んでいたはずなのに、ミケに触れ――ディアに諭され――気がついたら居場所が出来ていた自分に・・・まるで安心に似た感情が芽生えている。きっと、もうミケと離れて生きることは出来ないと思うほどに、抱きしめた温かさに心が溶けていく。


 ◇ ◇ ◇


 ――ここはジャルパ連邦の都市クエルボ。

 城壁の上には青地に飛竜が描かれた旗が翻り、綺麗な石畳の上には美しい街並みが広がっている。

この都市の都市長は――元第8飛竜兵団の団長だったストッカーである。

 ストッカーは遺跡戦争の功績や、軍上層部との親(・)密(・)な(・)関(・)係(・)性(・)により伯爵としての地位を得ていた。


 小心者で、権威に弱く、保身と虚栄心の塊――。見た目だけは誠実で、慈悲深く見え、口先だけの男――。ストッカーは軍の上層部にとって、非常に扱いやすい手駒だった。


 ストッカーは出世の糸口として、上層部が命じるままに古代語魔法の貴重な魔法書を保有していたデューザ村を襲った。さすがに副団長のログに制止され、一度は考え直したが――副団長補佐のフォルマウスに後押しされて作戦を遂行し、口封じを兼ねて村人たちの虐殺に加担した。

 その後、終戦により戦争犯罪の責任追及をおそれて虐殺はログの独断とし、ログを憎んでいたフォルマウスと共に事実を改ざんして、全ての真実は賄賂と権力で握りつぶした。

 その後もフォルマウスと協力して、出世の敵に成りそうな者は叩き潰し、保身のためならば部下を犠牲にして順調に出世を重ねていく。貴族爵位を得るためには賄賂だけでなく、大貴族の尻拭いから、特殊な趣味の貴族向けに奴隷の闇売買まで、それこそ何でもやってきた。


 そうして――伯爵位を得て、クエルボの都市長となった。

 順調に進んでいたはず――だった。


 ストッカーが伯爵位を得てから、協力者だったフォルマウスが豹変した。フォルマウスは子爵位を得ていたが、何かにつけ便宜を求め、更には資金の「無担保、無期限、無利子」の援助を求めてくるようになっていた。


 フォルマウスは悪辣さを凝縮したような男だった。


 ストッカーは、その悪辣な策謀で失墜し命を奪われていった者たちを、嫌というほど見てきた。お互いに後暗い事をしてきたが、フォルマウスの無差別な悪辣さには辟易していた。何よりもストッカーは今の地位を手放したくはなかったし、そのためにもフォルマウスを敵にすることは得策ではなかった。自己顕示欲が強く、人を扇動することに長けたフォルマウスは、もし要求を拒否し、ストッカーに見切りを付ければ――全てを叩き壊してくるだろう。


 そんなフォルマウスからの要求や、大貴族からの圧力がストッカーを苦しめた。湧き上がる怒り、凶暴性、自己保身への欲求がストッカーの中で醸成され、やがて「秘密の宴」を始める事になった。


 ストッカー邸の地下で毎夜行われる「秘密の宴」――闇売買で買い集めた奴隷達を拷問し、虐げる事で得られる快感がストッカーの苦しみを癒す「崇高な儀式」となっていた。ストッカーは色々な者達を犠牲にしてきたが、特に幼い子どもや弱い女の獣人が快感を高めてくれる事に気がついた。


 市民からは都市長と崇められる自分――。

 生殺与奪を持った自分に泣き縋る奴隷たち――。

 肉を裂き、目玉を抉るときの奴隷の絶叫――。


 その全てがストッカーを快感で満たしていく。ここクエルボでは自分が神であり、奴隷の絶叫はフォルマウスのゲスな顔を打ち消した。こうして「秘密の宴」は、日々盛況になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。