ニッカ鉱山
ニッカ鉱山は森を抜けた荒野にあり、多くのドワーフで活気に溢れていた。街や村と言うほどではないが、柵で囲まれた小さな集落が形成されており、鉱山道具を扱う鍛冶や、日用品の店、酒場や宿も経営されている。
フィルドは「情報収集じゃ!」とスミノフやズブロッカと酒場へ直行し、ディア達はひとまず宿屋へと急ぐ。宿屋は部屋数が少なく先客もあり、結局4部屋しか取れなかったが、とりあえず寝床の確保はできた。
一行は傷んだ装備を仕分けして集め、ログの馬車へと積み込んでいく。それを鍛冶屋へと持っていくのだが、直せない物があれば買付も必要だ。そこでログとカミュ、矢の補充がしたいマッカランが担当を引き受けた。
もう一台の馬車には、物資補給の交渉ができるハーパーとロンリコ、荷運びにダニエル、ジャックが自ら引き受けたのだが、「あんたもだよ!」とディアに押し切られ、渋々とヘネシーも同行した。
宿に残ったのはディア、カティ、ミケ、ニーナの女性達だ。ディアはミケ達を集め「あたしらはこっちさねぇ」と宿に入っていった。
◇ ◇ ◇
鍛冶屋へ到着したログ達だったが、武器の品数は鉱山道具に比べ少ない。店内にはツルハシやスコップ、大きな金槌などが中心に並んでいる。マッカランは、片隅に置かれた古びた矢の束を渋い顔で品定めしていた。ログとカミュは武器や鎧を運び込むと、鍛冶屋に修繕を依頼している。鍛冶屋のドワーフは、運び込まれる武具に目を通していたが、
「随分と多いなぁ。こんな数を何日でやれって言うんだい?」
「早いほうがいいが、どのくらいかかりそうだ?」
「う〜ん・・・。早くても一週間は必要だ。」
カミュが振り返りログが頷くと、カミュは「それで頼む」と伝えた。「あと――」とログは長巻を差し出し「これも手直しを頼みたいが」と渡す。鍛冶屋は鞘を払い、刀身を丹念に眺めていたが、
「こいつは・・・無理だな。刀身が捻れているし、刃切れも目立つ。直したところで、残念だが使い物になんねぇ。いずれポッキリ逝っちまうよ。」
「使い慣れていたので、何とかして欲しいんだが・・・。」
「おいおい、無茶言わないでくれよ。だいたい、どんな相手とやったんだい。元は中々の業物だったろうが、疲労して鉄くずになっちまってるよ。」
鍛冶屋は鞘に戻すと、ログの手に返した。
ログは鍛冶屋の店内を見回すが、長巻どころか刀も薙刀も無い。そもそもフレア共和国では弓矢や斧、グリムの双剣は発達しているが、刀や槍は、ジャルパ連邦から美術品として輸入した物がほとんどだ。
それすらこんな辺境にあるはずもなく、並んでいるのは見た事のない物ばかり。籠手に鈎爪が付いた物や、半円型の奇妙な武器、埃を被った双剣くらいだ。どれもログには馴染みの無い武器であり、扱うのは無理であろう。
「困ったな・・・。」
手元の長巻を見つめ、思わず溜息がこぼれる。さすがに短刀では戦えない。
「長柄が欲しいなら、試しに双剣を長柄用に打って作る事も可能だが――。双剣なら片刃だし、少し長めにも出来る。そんなのやった事もないがね。それでもいいなら、統一金貨8枚でどうだい?」
イメージしてみると、随分細身な薙刀の様なものか。正直――不安だ。しかし鍛冶師の提案は、ログにとって妥協点としては最適だった。幸いグリフォンの金貨があるし、当座凌ぎとして試す価値はあるだろう。
「わかった。ぜひ頼むよ。こいつは材料に使えるかい?」
「うん、良い鉄だ。使っていいなら、拵えも含めて使わせてもらうよ。」
「ああ、使ってくれ。柄はそのままだと助かる。」
鍛冶屋は「わかった」と長巻を受け取った。ログ達は前金として半額を支払い、鍛冶屋を後にした。
◇ ◇ ◇
宿屋に残ったディアは上機嫌だった。女性だけで使う部屋に荷物を置きミケを膝に乗せると、二人を呼んだ。
「準備はいいかい?あたしらは、まず温泉にいくよ!」
「おんせんー?なんにゃ?」
ディアはミケを抱き寄せ、くんくん匂いを嗅ぐ。
「うん、ミケもちょっと臭いねぇ。お風呂で綺麗にするのさ!」
「お・・ふろ?」
ミケの表情が強張り、素早くディアから逃げようとするが――捕まった。
「い゛ぃや〜に゛ゃぁ〜!!!」
「こら、暴れるんじゃないさね。」
「に゛ぁ〜!はなすに゛ぁ〜!!」
ミケは顔を赤くし、必死にもがいている。
「綺麗にしないと、ログにも嫌われちゃうよぉ〜。温泉は気持ちいいよぉ!ほら見てごらん。カティもニーナも一緒に入るんだ。楽しいさね!」
「わふぅん・・・私も・・・ですかぁ〜?」
おずおずとニーナは遠慮したそうな顔で聞き返す。
「あんたもだよ!ったく、何日入ってないんだい。なぁカティ!」
「ええ、だいぶ獣臭が・・・。」
「くふぅん〜。そんなぁ・・獣臭ですかぁ〜?」
ニーナは肩や脇の匂いを嗅ぎながら「そうかなぁ」と呟いている。
「ごたくはいいんだよ!ほら、みんな行くよ!」
「に゛ぃ〜に゛ゃ〜!!」
暴れるミケを小脇に抱えると、ディア達は温泉に向かった。この宿は鉱夫達が使う浴場の源泉が引いてあり、湯量も豊富だ。浴場は一つしかないが、既にディアが貸し切ってある。ご機嫌なディアの後ろを、ニーナもトボトボとついて行った。
◇ ◇ ◇
ログが宿へ戻ると、ミケはソファーでグッタリと溶けていた。ミケの隣では、ニーナも力が抜けたようにもたれ掛かっている。向かいのソファーでは、ディアとカティがワインを傾け寛いでいた。
「ただいま、ミケ。ディアとお留守番、楽しかったかい?」
と、ログが話しかけるやいなや「うにゃー!」とミケが飛びついてきた。
「ログー!ディアママは、おっぱいオバケにゃぁ〜!!」
「??」
ログは意味が分からず戸惑うが、ディアは爆笑しながら腹を抱えている。ミケは、うにゃうにゃ言いながら懸命に文句を言っているようだった。
カティの話しによると、温泉でディアに全身を洗われたらしい。随分と暴れて反抗するが、ディアに捕まり温泉に引き込まれた挙句、抱きしめられて逃げられず、子猫のように叫んでいたそうだ。巻き添えで、ニーナも半強制的に付き合わされグッタリしているらしい。
「ミケ、ログと一緒に寝る〜!おっぱいオバケ嫌にゃぁ〜!」
「ログ、あんたミケをお風呂に入れなかったね。ダメじゃないのさ!」
とばっちりを受け、ログはミケの頭に手を乗せ苦笑いを浮かべる。
「いや、嫌がるからさ。ちゃんと身体は拭いていたんだけどね――。」
ディアは「はんっ!」と鼻で笑いグラスを置くと、
「これだから、男親はダメなんだよ。嫌われてもお風呂いれるの!」
「面目ない・・・。」
「お風呂も〜!ディアママも〜!だいだいだぁ〜い嫌いにゃ!」
ミケは尻尾を膨らませ「キシャー!」と威嚇している。けらけらとディアは笑い、真剣なミケを見てカティも笑っていた。
(私もお風呂嫌いですぅ・・・)
ニーナは力なくミケを見つめ、明日の入浴(拷問)に恐れ慄いていた。




