シーバス村を救え!
「ジャック!ダニエル!馬車に一匹も近づけるんじゃないよ!」
「姐さん、ガッテンでさぁ!」
二人のゴブリンが、白い卵のような馬車を守るように長剣を振っている。次々と巨大な蜂型魔獣が襲いかかり、素早い剣技でそれを薙ぎ払っている。
近くの別の馬車からは、エルフのマッカランが長弓で吸血鳥を撃ち落とし、その隣でノームのヘネシーが、精霊召喚で石礫の弾幕を張る。
「姐さん!今度は一角猪が来ます!」
双剣を巧みに使い、魔獣から村人を逃がしているグリムの女性が声を上げる。その脇をすり抜けるように狼人族の男が駆け抜けた。
「ディア様、一角猪は自分にお任せを!カティは、ハーパーと村人の避難を優先しろ!」
「いいさね!カミュ!!真っ二つにしてやんな!」
カミュは無骨なバルディッシュを振り上げて一角猪を迎え撃つ。村人が逃げ込んだ広場の入口は、戦斧を振り回す牛人族のスミノフと、戦鎚で巨大な甲虫を叩き潰す馬人族のズブロッカが守っていた。
「おい、相棒!疲れた顔してんじゃねぇか!」
「バカぬかせ!ようやく筋肉が温まってきたわ〜!」
ズブロッカは戦鎚で甲羅熊の頭を吹き飛ばし、雄叫びを上げる。
ディアは魔獣が次々と侵入してくる村の入口に立ち、サーベルを閃かせていた。泉に囲まれた村の入口はここしか無い。押し寄せる魔獣の群れ――。上空からはロンリコが援護射撃をし、大型魔獣には槍の一撃を見舞っている。
魔獣暴走を誘導しているのは、本来温厚なエルダーヒュドラ――。そこに向かい合っているのは、年配のドワーフと長巻を振るう男。そう――いま村の中で襲い来る魔獣と戦っているのは、ログたちである。
なぜこんな事になっているのか・・・。
時間は遡る――。
◇ ◇ ◇
――ほんの数時間前。
ログ達一行は無惨な馬車の残骸とともに、魔獣に襲われている商隊に遭遇した。商隊はジャングリアの獣人達で、5〜6人が魔獣の牙で引き裂かれている。生き残っている数人は、先行したダニエルとジャックがガードしていた。
駿馬で駆けつけたカミュが魔獣の群れをバルディッシュで打ち払い、やや遅れて到着した団員達は、商隊を囲み防衛線を引いている。
――魔獣を撃退し獣人の商人たちから話を聞くと、どうやらこの先にあるエルフの村を追い出され、そこを魔獣に襲われたらしい。団員のエルフ、マッカランは眉をしかめた。
「この先というと・・・シーバス村ですよね。友好的な小さな村です。これまで商人を追い出すなんて話は・・・聞いたことがないですよ。」
へたり込んでいた兎人族の商人は、すまなそうに答えた。
「我々・・・というか、護衛の人たちがその・・・ちょっと――。三つ首のヒュドラを退治して村人に見せたんです。村を守ったぞ!って。そうしたら空気が一変して・・・。叩き出すように、追い出されてしまって。」
「なんて事を!我々エルフは森の魔獣と共生する種族。不要な殺生はしない。しかも三つ首ヒュドラはまだ子ども・・・未来の森の担い手なんですよ!そんな事すれば・・・親のヒュドラが報復すると思わなかったんですか!!」
「悪気は無かったんです――。護衛の皆さんも・・・知らなかったんです。」
白い肌を紅潮させ、睨みつけるマッカランに商人は小さく答えた。
「その護衛のバカどもは、どうしたんさね?」
デミアはマッカランを落ち着かせるように遮り、商人に尋ねた。
「村を出たら魔獣が襲ってきて、一度は撃退してくれたんですが・・・。自分たちせいで、村にも魔獣が来るから守るんだって言って・・・。彼らは村へ引き返し、私達はボルスに戻るつもりだったんです。」
「バカなりに責任取るってかい?とんだ勘違い共だねぇ。いいかい、あんた。ヒュドラは思念で殺った相手を伝えてるんだ。村人があんたらを追い出したのは、そのためさね!」
「じゃ・・・じゃあ・・・。」
「そうさね、そのバカどもが戻れば、逆に村が襲われるんだよ!独りよがりなクソ善意さ。そいつらは迷惑どころか、害悪でしか無いよ。あんたらが喰われてりゃ、村は無事だったんさね!」
「そんな・・・。」
デミアは「チッ!」と舌を打ち、
「ロンリコ、ジャック、ダニエルは急行して村人を避難させな!カミュはマッカランと最短で誘導。ハーパーとカティは警戒を任せる。さっさと行って、バカどもの尻拭いさね!」
「あの・・・私達は?」
「村が優先さ。あんたらが巻き込んだんだ――いらねぇクソ偽善でね!あんたらは、ここで殺されず逃げれるだけ・・・感謝するんだね!」
「ヒッ・・・。」
デミアの鋭い視線に商人は竦み上がった。
――村に急行すると、既に魔獣が押し寄せ大混乱となっていた。
商人の護衛だった者たちが入口を固めていたが、ほとんどが肉塊となり、若い狸人族らしき女剣士と、手負いの牛人族が防戦していた。
駆けつけたデミア達は、素早く戦況を理解し、村人の避難と防衛線を張る。デミアは狸人族に襲いかかる一角猪をジャベリンを投げて打ち抜き、流れるような剣技で、周囲の蜂型魔獣をサーベルで斬り払っていく。
「そこのタヌキ娘!自分の身くらい自分で守りな!」
「わふぅん!タヌキ・・・。あの、わたし・・・。」
タヌキ娘は何か言いかけたが、誰も聞いていない。手負いの牛人族は立ち上がると、
「どなたか知らんが助勢に感謝する・・・。ニーナ、おまえは下がって逃げよ!ここは、俺が引き受ける。」
そう言ってポールアクスを構え、仁王立ちで魔獣を迎え撃った。ニーナと呼ばれたタヌキ娘は、
「わふぅん・・・。」
と巻いた尾を足に挟み、剣を構えながら震えて立ちすくんでいた。
――そして現在に至る。
◇ ◇ ◇
エルダーヒュドラは森の支配者だ。9つの首と圧倒的な攻撃力を持つ。森の魔獣の頂点に立ち、他の魔獣から縄張りの森を守り自然の摂理に従う。ゆえに無益な殺生はせず、本来捕食以外で人を襲うことはしない。捕食は自然の摂理。人も魔獣も、そこに差はなく、等しく対象となる。エルフ達は、ヒュドラに近づかない事で身を守り、ヒュドラは見えぬ獲物に興味を持たず、捕食しないだけの事だった。
それが摂理――。それが自然――。
だが、そのヒュドラの子どもをニーナ達の護衛団が討伐してしまった。その死は――捕食ではない。エルダーヒュドラに届いた子ヒュドラの思念は、理解しがたいものだった。そう「ヒュドラだから殺せ!」という、理解しがたい理由。捕食すらせず、ただ殺して死体を引きずり満足する者たち――。
――何たる傲慢か。
――何たる理不尽か。
――何たる命の冒涜か。
エルダーヒュドラは森の魔獣に呼びかけた。
――森に生きる者たちよ。
――自然の摂理を示すのだ。
――傲慢なる者たちを喰い殺せ。
こうして――泉に囲まれた美しいシーバス村は災厄に巻き込まれた。
「おい、髭のオッサン!手が止まってるよ!」
デミアは牛人族の男に声をかけ視線を向ける。男はポールアクスで大百足を断ち切り、巨大な甲虫を踏み潰して立っていた。
だが男の身体は木喰虫に喰い破られ、内臓を引摺り出されている。
「使えないねぇ・・・。」
デミアは冷たく呟き、二度と視線を向けなかった。




