どんぐりの首飾り
ログ達はボルスの街を出発し、シュリヒテへと向かっていた。同行するのは《ガルム旅団》から選抜された10人の精鋭で、そこに物資を積み込んだ馬車が1台同行している。
ディアが選んだ10人は、フィルドを納得させる人選だった。ゴブリンのジャックとダニエルは、夜目が利き斥候や警戒に優れ、鳥人族のロンリコは、上空から周囲を観察できる。
グリムのハーパーとカティは近接戦に優れているらしい。グリム族はフレア共和国の四大種族の一つで、火と風の加護を持ち、優れた身体能力を有し、双剣の使い手として知られている。グレムリンとも呼ばれるが、彼らはその呼び名を蔑称として好まない。
戦斧と戦鎚を持った寡黙な二人は、牛人族のスミノフと、馬人族のズブロッカ。馬車に乗り、精霊魔法や弓矢などの遠距離攻撃を担当するのが、エルフのマッカランと、ノームのヘネシー。
一行の先頭に立ち、槍を持っているのが、狼人族のカミュ。フィルドやディアの話では、二つ名持ちレベルの猛者揃いらしい。
ログと一行に会話らしい会話は無いが、その方が気楽だった。種族もバラバラ、そんな中で気遣う会話など・・・したくはない。
だが、ディアとミケは別だった。あれ以来ミケはディアに懐いていて、ログの手を離れている時間が増えていた。今も馬車ではなく、ディアの馬に乗り――やたらと甘えている。ガルムの精鋭たちも、ミケやディアと会話を楽しんでいる。
感謝すべきだ。良いことなのだ。分かってるんだ・・・。――ただ、なぜだろう。身の置きどころがないんだ。ログは、自分の心が読めず・・・困惑していた。
◇ ◇ ◇
既に昼過ぎとなり、一行はボンベイの森を進んでいた。ボンベイの森は魔獣も少なく、湧き水が幾つもの池を形成していて、澄んだ泉は「ボンベイのサファイア」と呼ばれ旅人を潤していた。
一行の下へ、上空で周囲を偵察していたロンリコが戻ってきた。
「姐さん、1キロ先に良い泉があります。休憩しますか?」
「そうさねー。森を抜けるまで、まだまだ長いからね――。ロンリコ、ジャック、ダニエルは、先行して安全確保しときな。ハーパーとカティは、周辺警戒を任せたよ。カミュ、泉まで先導しな!」
ディアが指示を出すと、団員達は素早く動き出す。その様子を、ディアの胸元で見上げていたミケの目が輝く。
「ディアママ・・・かっこいいにゃぁ〜!!!」
満更でもない表情で、ミケと会話しているディア。それを見つめるログは、妙に胸がざわつきイライラしてしまう。ミケがいなくなった馬車には、呑み疲れたフィルドが寝そべっていた。フィルドはログの視線と、ミケ達に交互に目を走らせていた。
「ログや。気になるのかの・・・。」
「いや・・・、べつに・・・。」
気だるそうに起き上がったフィルドは、迎え酒をしながら話しかけてくる。
「ミケはの、みんなを笑顔にする。見てみぃ、ガルムの強者達が笑顔じゃ。じゃがの・・・ミケを笑顔にしてくれるのは誰なんじゃろかの・・・ログ。――今までミケには・・・おぬししかおらんかった。ディアはの・・・ミケだけを見つめてくれるから、ミケは嬉しいんじゃよ。」
「ああ・・・。感謝している。本心だよ・・・。」
「おぬしは壁を作りすぎている――。大人なら致し方あるまいよ。たしかに、他者へ壁を作る程の経験があるじゃろうし。じゃがの・・・。」
「・・・・。」
「子どもは敏感に感じ取るものじゃ。ミケはの、嫌われたくないんじゃ。おぬしの邪魔になりたくないんじゃよ。信頼し、好いとるからこそな。」
フィルドは身を乗り出すと、御者席のログの肩を叩いた。
「もうすぐ泉じゃ。着いたらの、ミケと話してやるんじゃよ――。良いかログ。言わねば伝わらんことの方が多いんじゃ。」
しばらくログは考え込んだ顔をしていたが、静かに頷きミケを見つめていた。
――暫く進むと、一行は泉へと到着した。
サファイアブルーの美しい泉に、ミケは尻尾をくねらせ目を輝かせた。ディア達は昼食の準備や周囲の警戒に奔走し、忙しそうに動いている。大人達の邪魔にならない様に、ミケは一人で池のほとりに座っていた。
「ミケ・・・。」
「ログー!どうしたにゃ?」
ログはミケのふわふわな髪を優しく撫でて、ミケの隣に座った。
「ミケ・・・。私は上手く人付き合いが出来なくてさ。」
「ひと〜づきあい〜ってなんにゃ??」
「そうだなぁ・・・上手くお喋りしたり、遊んだり出来ないんだよ。」
ミケは真っ直ぐに見つめ、ログの服を小さな手でつまんだ。
「だからね・・ミケが楽しいって思うこと、ミケが嬉しいって思うこと、教えて欲しいんだ。私も一緒に・・・笑いたいんだ。」
ログが話し終わると、ミケはすっくと立ち上がった。そのまま細い腕でログの頭を抱きしめ、そっと自分の頬を乗せた。
「ミケ・・・?」
「大丈夫にゃ。ミケがいるにゃ。」
そう言ってログの頭から腕を離すと、ログの腕を強く引いた。
「ログ〜!一緒にどんぐり探しに行くにゃ!」
「どんぐりかい?」
「うん!ディアママに首飾り・・・一緒に作るにゃ!」
ログは立ち上がり頷くと、ミケと一緒に森の中へと入っていった。
◇ ◇ ◇
森に行ったログとミケは、ずいぶんと遅れて帰ってきた。団員たちは皆、既に昼食を終えており、二人だけで遅い昼食を食べていた。
「ミケ、ゆっくり食べないと・・・。」
「むぐぅ・・・だいじょぶにゃ!!」
ミケは猛烈な勢いで、もちゃもちゃと食事を口に運んでいる。お腹が空いていたのもあるが、もっと大事なことをするために急いでいた。
「ちょいと、ミケ。ずいぶん急いで食べてるねぇ!」
歩哨が終わったディアが戻ってきて、ミケの顔を覗き込んだ。ミケは食べていたスプーンを置くと、ニンマリ笑ってディアに手招きをする。ディアは「どうしたんだい?」とミケに近づきしゃがみ込んだ。
「これ〜!ログと作ったにゃぁ〜!」
後ろに隠してたどんぐりの首飾りをディアの首に掛け、可愛い笑顔を向けた。
「あたしに・・・くれるのかい?」
にぱっと笑うミケを、ディアは優しく抱きしめた。
「そうかい・・・。ログも一緒に作ったんだねぇ。良かったね、ミケ。」
「にゃん!」
昼食の片付けも終わり出発の時―――。
なぜか、ログの馬車にはミケと・・・ディアが乗っていた。酔いどれのフィルドは追い出され、ディアの馬をあてがわれていた。ディアは「邪魔するよ!」とだけ言って、自分の馬車のように寛いでいる。ログも拒否することもなく、そのまま馬車を進めていた。
ミケは御者席にログと、自分の隣にディア居て・・・すやすやと眠っていた。一行は更に森を進んでいく。今夜は森の中で野営になるだろう。




