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みにくい猫の子  作者: 西田月石
第1章 旅立ち

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国境の街ボルス

 (むぅ・・・息苦しい――)

 息苦しさに目覚めたログは、顔を覆う毛布に手を伸ばす。毛布だと思った正体は・・・ミケだった。宿で寝るとミケが必ず顔の上で寝ている。寝相が悪い・・・のか。

 ログ達は準備を整え、ラフロイグ商隊と合流する。傭兵団は欠員補充せず、6名でボルスまで護衛をすることになった。

 タンカレーの市場でグリフォンは統一金貨800枚の売上となり、ゴートは手厚く入院出来ることになったのだ。グリフォンの売上から50枚ずつログとフィルドへ渡され、80枚がラフロイグの手数料、残りは傭兵団に渡された。


 ――団員で割れば金貨60枚の命。安いのか・・・高いのか――。


 ◇ ◇ ◇


 タンカレーを後にし暫く走ると、街道に障害物が置かれている。明らかに盗賊が使う足止めで、既にこちらを囲んでいるだろう。――アードベッグが警笛を吹き、傭兵団が戦闘態勢を取る!

 左右から矢の雨が降り注ぎ、馬車のルーフがカンカンと音を立てる。傭兵団は焦る素振りもなく短弓を引き絞り、茂みへ打ち返していた。声を上げ躍り出た盗賊達は30人はいるだろうか。


 「野郎ども!グリフォンの売上もあるんだ。遊んで暮らせるぜぇ!!全員ぶち殺して奪うんだ!かかれー!!!」


 魔獣のハイドアーマーを身に着けた、頭目らしき男が叫ぶ。それを合図に、街道の左右から盗賊団が襲いかかってきた。


 「カニッシュ!左に全員連れて行け。右は俺とログさん達でやる!」


 「了解ですぜ、団長!」


 ログ、フィルド、アードベッグが商隊の右側に立ち、迎え撃つ。ラフロイグはログの馬車へ行きパネルを下げ、ミケを守っていた。


 「頼んますぜ、お二人さん!」


 「ふむ!生かして帰さんわい!」


 戦闘が始まったが、やはり数が多い。盗賊たちを馬車に近づけぬ様にするのは、非常に困難な戦いだった。


 「アードベッグ!フィルド!少し時間をくれ。」


 「なんだか知らねーが、簡単に言うねー。――いい手があるんだな?」


 「古代語魔法かの・・・。」


 「ああ、時間術を使う。少し時間をもらうぞ!」


 そう言うと、ログは古代語魔法の詠唱に入った。アードベッグとフィルドは、襲いかかる盗賊団から戦線を維持している。


 「古の昏き魂よ、我が元で契約の力を発現せよ――。我が名は契約者ログ=リヴァル。与える贄は敵なる者の魂。顕現せよ――。」


 ログは左手を掲げると、盗賊たちに向けゆっくり下ろし、


 「スロウカース!」


 生ぬるい風が大地から染み出すように吹き上がり、盗賊たちの動きがコマ送りのように鈍ってゆく。


 「こいつはいいや!おらよ!」


 アードベッグは次々と、盗賊たちを両手剣の錆にしていた。黙々と叩き潰しているフィルドは、鬼の様に髪を逆立て駆逐していく。


 ――古代語魔法。

 いにしえの民が使った不思議な力――。遺跡から発掘される魔法書を使い「昏き魂」と契約を結び顕現させる力。

 つまり「契約」は使用権、「顕現」は行使そのものだ。契約と顕現には「贄」が必要であり「贄」が足らずば術者の魂を侵食する。

古代語魔法には「時間術」「屍霊術」「占星術」の3系統あり、時間術は、その名の通り対象の時間を一時的にコントロールし、屍霊術は、死体や死者の魂を使役する術で、強力だが禁術とされており、占星術は、求めた未来の姿を術者に教えてくれる。

 解読はジャルパ連邦軍が優れており、ログも遺跡戦争で軍から与えられた。初歩の魔術なら、契約の「贄」は動物を捧げて行われる。ログがリサラに教えたのは、ヘビを「贄」にした超短時間停止だ。ほんの数秒だけ対象の時間を停止させるものだが、それでも顕現のための「贄」が必要で、初歩の術でも多用はできない。

 戦場で使える中級レベルからは人の魂が必要になる。ログの契約では・・・軍によりフレア人の捕虜たちが「贄」にされた。――言わばログにとって「呪われた力」だと言えよう。

 いま、時間術顕現の「贄」とされたのは盗賊たちの魂。彼らに死の安息はない――。昏き魂達とともに、永劫の苦しみを味わうだろう。


 「本当に・・・禍々しい力じゃの――。」


 フィルドはログを振り返り、複雑な表情でつぶやいた。


 ◇ ◇ ◇


 盗賊団を壊滅させて、一行はボルスの街へと到着した。ボルスは街の中に国境があり、街というより砦の様な様相を呈している。街中には商人や両国の国民がひしめき、混沌とした熱気に満ちていた。


 ラフロイグ商隊は、ここから商都ヴィフィータヘ向かい、ログたちは、シュタインヘーガー領の都市シュリヒテへ向かう。ラフロイグやアイラ傭兵団との別れの時が来た。


 「ログさん、盗賊やグリフォンの襲来ではお世話になりました。フィルドさん、ケルベロス傘下として商都で良い取引をして参ります。お二人と、可愛いお嬢さんに、水と大地の加護がありますように――。」


 「こちらこそ、ラフロイグさん。ここまでの同行に感謝します。」


 ログとラフロイグは、しっかりと握手を交わした。二人のもとにアードベッグ達もやってきた。


 「ログ、フィルドの旦那、嬢ちゃん目・・・治してやってくれよな。それから・・・嬢ちゃん!」


 「うにゃ?」


 アードベッグはミケを抱え上げ、優しく見つめる。


 「嬢ちゃんは、アイラ傭兵団の姫様だ。誰にも傷つけさせねぇよ。もし怖いことがあったら、俺達を呼んでくれよな!」


 「うなぁー・・・おじちゃんも怪我しないでにゃ。」


 別れの淋しさだろうか・・・ミケの目が潤む。アードベッグはミケを下ろすと、クシャクシャっと頭を撫で回した。


 「にぎゃー!やめるにゃー!」


 アードベッグに弄ばれ、ワタワタと髪を直すミケを見て、みんな自然と穏やかな笑いに包まれる。


 ◇ ◇ ◇


 国境を通過しフレア共和国側のボルスに入ると、既に夕方になっていた。ログはフィルドに案内され、ケルベロスの使う酒場へと向かった。

 酒場の二階に上がると、屈強な一団が賑やかに呑んでいる。犬人、エルフ、グリム、ゴブリンまでいる。多種多様とはこの事だろう。

 その一団の中心で、ログに鋭い視線を送る女が居た。年齢は二十代後半・・・いや三十代だろうか。面長だが美しい顔立ち。首筋から左右の耳まで走る銀鱗。鋭くも美しい、切れ長のツリ目――。すべて鱗人族(リザードマン)の特徴だ。


 「やぁ、フィルドのだ・ん・な!」


 長い黒髪を掻き上げて、女はログ達の前へとやってきた。

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