3 王子来訪、からの婚約者逃走
侯爵令嬢ルイの婚約者である王子は、永世中立国マリンの第3王子であり、第一王位継承者。兄2人が早々に王位継承権を放棄した結果、最も王太子の座に近いのは、15歳のアル第3王子、次いで妹の第1王女である。
なりたくもない次期王として日々研鑽に励むアル。忙しい時間の合間に、アルは王妃教育中の婚約者を久しぶりに尋ねた。授業中だが、たまには顔を見たい。ルイ嬢の笑顔を少しでもいいから。とにかく会いたい。
「殿下、只今、授業中でござます」
貴賓室の扉の両側に立つ騎士が、控えめに一言。
目で頷いたアル王子は、扉を開けるように促した。
ノック3回の後、3m程の高さのある大扉が静かに開かれた。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッと、小刻みに駆ける靴の音。前方から愛おしい我が婚約者が駆け寄ってくる。目を見開いて凝視していると、背後に控えていた護衛騎士が主人を護るように前に立った。
いつものようにルイ嬢は抱きつくのだろうと、アル王子は思った。
しかし、護衛騎士に前からどくように言おうと思った瞬間、ルイ嬢はざっと右足を前方に出し、腰を落とした。そのまま滑り、固まっている護衛騎士の股の下を滑って、扉を通過。
王子には見向きもしなかった。いつもの笑顔を期待していたので、アル王子は呆然と立ちつくす。
アル王子が振り返ると、立ち上がったルイ嬢が走り去っていく。腰に結われたビロードの大きなリボンとツインテールの髪が揺れていた。
先程まで授業をしていた貴賓室内に視線を戻すと、逆光の中、女性が床に這いつくばっている。王妃教育の教師である夫人が鞭を握り締め、怒りのあまり震えていた。
「何があったのかな?」
アル王子は、護衛騎士に呟いた。




