2 王妃教育からの逃げ方講座
貴族令嬢ルイの住む国は両隣を大国に挟まれた小さな王国。小さな国だが、自然豊かな森と資源に恵まれた山に囲まれた要塞都市から成る。王宮近くの別邸に着いたルイは、帰宅後、執事やメイド達の脇をすり抜け、自室に籠った。
勢い余って、王妃教育を放棄して逃げてしまった。無計画な逃走だが、後悔はしていない。次をどうするか考えないと。王妃って、絶対、社畜コースに似ている気がする。とにかく睡眠第一、健康第一の生活がいい。
王妃教育中に覚醒したルイは、前世と今世の記憶が脳内でごちゃ混ぜになっている。
「よし、まずは現状を整理しよう。何か飲みたいなあ」
13歳の少女の体には、王宮猛ダッシュ逃走がこたえたらしく、喉がカラカラである。
すっと、大好きなアールグレイが目の前に出される。ミルクを添えて。
ルイの専属メイド兼護衛のサラが、窓際のティーテーブル脇に気配を消して立っていた。いつものことなので、今世の私は驚かないが、前世の私がビクッとした。
驚きを表情に出さずに、ルイはサラに問う。
「王妃教育を辞めたいのだけれど、良い案ない?」
小さな私は椅子に座ったまま、微動だにしない無表情のサラを見上げる。
「良い案とは?」
質問に質問返し。これもいつものことだ。サラはすぐに答えをくれない。
「一、明日から王妃教育欠席。というか中止。
二、毎日、好きなだけ寝る。
三、健康第一生活、無期限保証」
私はドヤ顔で宣言してみた。ふんすっ。
「つまり、やるべき事を放棄して、ぐうたら生活を一生。ということで宜しいでしょうか。」
そこまで言わなくても。一応、数年は社会人生活をしたので、世の中、そんなに甘くないとは思う。思うけれど、王妃にはなりたくない。
返事を待たずに、サラは続ける。
「となりますと、王妃教育の代わりに学園に通うのは如何でしょう。全寮制を選べば、睡眠と食事は確実に確保できるかと。」
「確かに、まずは学園に逃げよう。王妃教育の貴婦人教師マンツーマンよりは、マシかも」
ルイ、ぶつぶつ呟く。
「お嬢様のお父様の爵位でしたら、ル・リゼ校が妥当です。大陸全土から各国の王族、貴族、富裕層が集まります。正しい食生活が学園の方針ですし、名門なので、侯爵様のご了承も得やすいかと思います」
さすがサラ。的確な情報と、実現案の提示。
「ありがとう、サラ。お父様にお願いしてみるわ」
「あ、お嬢様。涙の訴えと、可憐さを忘れずに。渾身の演技を期待します」
こうして、我が子に甘い父ことホワイトウッド侯爵は、愛娘ルイの王妃教育による心の病を憂い、ル・リゼ校への編入を許可した。




