25 王の焦り
永世中立国マリンの第一王位継承者を乗せた馬車は、人目を避けるように王宮の裏門から入った。
家紋のない民間の質素な馬車。
誰もアル王子が乗っているとは思わない。
マリン国の中央にある王宮は、ホワイトウッドの森にあるル・リゼ校から馬車で1週間はかかる。
急ぐなら馬だが、王子の身の安全を優先させた。
王宮の裏口には王子を出迎えるため、騎士が待ち構えている。
王宮到着後、休む間もなく、アル王子は謁見の間に入る。
いつも遊び歩いている兄2人が珍しく父の両脇に立っている。
宰相や大臣も揃っている。
いつもの定型挨拶をしようと屈んだら、父である王が右手を上げた。アル王子の動作を止める合図。
「挨拶はよい。要件を」
焦りを見せる王に、アル王子は驚く。普段は感情を見せない威厳のある父が動揺している。
「ルイ嬢の容態は?」
王が息子のアルに尋ねる。
「眠りこけています」
アルは簡潔に述べる。
「は?」
まの抜けた王の声が広間に響く。謁見の間の音響はいい。声がよく聞こえる。
「深い眠りから目覚めません」
アル、言い方を変える。
王、沈黙。
「国内外で自然環境の変化は見られておりません」
宰相が沈黙を破る。
「星は安定しております」
宰相の発言に続き、星読みが報告。
「海も安定しており、船舶の航行も順調です」
灯台を守る海運大臣も続く。
「予言のような事象は起きていない?」
王が呟く。
「左様かと」
宰相が王の呟きを肯定する。
予言を恐れている王は目を閉じた。




