20 あたって砕けた求婚
侯爵令嬢ルイへの求婚は、父である帝国皇帝からの命令である。
彼女は、永世中立国マリンの第3王子の婚約者である。アル王子からルイ嬢を奪えという意味だ。
なんとなく留学中であった王位継承権から程遠い帝国の王子にとって、面倒な事案であり、かつ楽勝案件。
「侯爵令嬢ルイって可愛いの?」
帝国の第4王子ルイスは、護衛のカルロスに尋ねる。
寮の自室には2人のみで、窓は閉まっている。
机に頬杖をしながら、ルイスは外の景色をぼんやりと眺める。
幼馴染で共に育ったカルロスはルイスと年齢が近い。名目上は護衛だが、諜報もこなす。
「容姿は幼いかと。年相応です。お顔は整っています」
カルロスからの参考にならない答えをルイスは聞き流す。そもそも今回の求婚相手に興味がない。
高等部2年にもなると、同級生の令嬢達の方が大人っぽくてルイスの相手としては相応しい。
見た目は王子っぽいルイスは、長身でスタイルが良いから令嬢達にモテる。
中等部1年は眼中外。お子様である。
可愛いよりも美人なお姉さんが好みである。
「求婚ミッション、気乗りしないなあ」
ルイス、ぼやく。
ぼやきつつもルイスは、翌日に初対面の侯爵令嬢ルイに白昼堂々、場所を選ばずに求婚した。
「ルイス様、中庭の回廊を歩いているツインテールがルイ嬢です」
ルイスは頷くと、一呼吸してから顔を作った。にこやかな王子スマイル。
準備のいいカルロスからはバラの花束を手渡される。
颯爽と侯爵令嬢ルイの前に立ち、片膝をつく。
ルイスの目は侯爵令嬢ルイをしっかりと捉える。
「レディ・シャルロット・ルイ・マグノリア・マルグレス・ホワイトウッド」
昨夜、一夜漬けで覚えた長い名前。何度も呪文のように唱えて暗記した。
「はい?」
目を見開いた侯爵令嬢ルイが引いている。声が上擦っている。
「僕と結婚してくれ」
心を込めず、はっきりと大きな声で言う。
「先にお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?とお嬢様が」
侯爵令嬢ルイの背後に控えるメイドが冷たい声で尋ねる。
「失礼しました。レディ」
バラを前に差し出し、もう一度、名前を呼ぶ。
「レディ・シャルロット・ルイ・マグノリア・マルグレス・ホワイトウッド」
噛まずに言えた。
「レディ、私の名は…っ!?」
片膝をついたまま、侯爵令嬢ルイを見上げる。空から黒い物体が近づく。
目の前が真っ暗になり、顔にもふもふを感じた瞬間、鋭い爪で顔を引っ掻かれ激痛が走る。
カルロスが駆け寄り、ルイスの腕を引いた。
立ち上がり保健室に直行。
バラは激痛の瞬間に手から落ち、白い猫に踏まれて散ってしまった。
同時に速攻求婚も砕け散ったのであった。




