19 吹っ飛んだ白猫
新緑の女神は腹が立っていた。
腹が立つと、風が巻き起こる。渦を巻いて、白猫を巻き込んだ。
それは一瞬の出来事で、新緑の女神について来た小さな緑の精霊達も突風を押さえることができなかった。
「みゃおおおおおっ」
人語を話していた白樹の精霊王は、なぜか猫語でぶっ飛んで行ってしまった。
遠く彼方へ、ルイ嬢が求婚されている現場へ。
そして、隣国の見知らぬ王子の顔面に着地した。
「緑の姉様、あれで宜しかったのでしょうか」
新緑の女神は下位精霊に自らを『姉』と呼ばせている。
精霊に性別は無いが、姉であることに拘っている。
「姉様、素直じゃないなあ」
「姉様、怒っちゃだめです」
「もっと嫌われちゃいますよ」
下位精霊は上位精霊や神に対して、遠慮と忖度を知らない。
「そうか、素直じゃないか。あれの前だと、ついああなる」
そして、新緑の女神は下位精霊の言葉に反省する。
「しょうがないなあ」
「しょうがないね」
「仕方がないです」
うつむく女神の周りを小さな精霊たちがふわふわと回る。
まるで慰めるように、優しい緑色の光が舞う。
吹っ飛んだ白猫は、顔面着地後、爪を立ててしまった。腹で着地したため、立ち上がるついでに爪を立てた。思わず立てた爪を、ルイ嬢の困惑の表情と彼女の脳内に渦巻く想いを感じ取り、引っ込めずにバリッとやった。
声にならないうめきが隣国の王子から聞こえたが、そのまま去った。
こうして偶然吹っ飛んだ先で、白ちゃんは主人である侯爵令嬢ルイの危機を救った。
新緑の女神に感謝である。




