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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第一章 一杯のコーヒー

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甘いものはいかがですか

「食べ物は何が好きなんだ?」

 魔物肉の串焼きや、飲むスイーツの屋台など、食べ物が並んだ区域に来ると、ルシファー様はエリィに聞いてきた。少し逡巡したのち、私は意を決して答える。

「甘いものも好きですけど、今はがっつり食べたい気分です!」

「そうか、ならこのオークの串焼きなんかどうだ?」

 目の前の屋台では、下級悪魔には高級な魔物の肉を提供していた。

「そ、そんなマナの多いものでなくても……」

 私がマナを取っても、魔法は使えない。人間が食べるような食材で十分なのだ。魔物肉はマナがふんだんに含まれている。その分、美味しいとは聞くが、食べたことはなかった。

「その様子だと、口にしたことがないのだろう?」

「そうですけど、魔法も使えないのにマナを摂取しても無駄かなって」

「美味だぞ」

「うっ!」

 美味しいもの、食べてみたい。私の表情を読み取ったルシファー様は口角をあげ、声を張り上げた。

「決まりだな。店主、串焼きを2本頼む」

「こ、これはルシファー様! 今、お焼きします!」




「おいし~い」

 頬が落ちるとは言うものだ。オーク肉は柔らかくて臭みもなく、甘辛いタレが絡まって今まで食べた中で最高の一品だった。

 隣で私の食べる様子を見ていたルシファー様はどや顔をしている。

「俺の分も食べるか?」

「はひっ! いただいていいんですか!」

「それで、エリィのご機嫌がとれるならな」

 これも買収の一環というわけだ。負けてはいけないとは思ったが、胃袋がその美味しさに耐えられなかった。

「喜んでいただきます!」

 黙々とオーク肉を平らげていると、ルシファー様の手が私の頬に伸びてきた。

「タレがついてるぞ」

 そのままタレを拭きとると、自分の口元に運ぶ。

「なっ……」

 とってもデートみたいなことされた!

「そんなに気に入ったのなら、追加で買うか?」

「い、いえ、それには及びません!」

「それならば、他に何が食べたい?」

 ルシファー様の青い澄んだ瞳がまっすぐ私をとらえる。本当に、綺麗な人なんだよなぁと、肉を食べる手を止めて、ぼうっと見つめ返す。

「おい、どうした?」

「あ、いえ」

 気恥ずかしさでふいっと目をそらし、視界に入ったクレープの屋台を指さす。

「今度はクレープがいいです」

「そうか、それを食べ終えたら行くぞ」

 私は肉を頬張って、こくこくと頷いた。




 クレープも食べ終わり、満足した私は上機嫌で歩き回りながら、アクセサリーの露店を見ていた。

「腹の虫は満足したか?」

「えぇ、もちろん!」

 ふっと、視界の端の青が目に留まる。

「これ、綺麗……」

 青を基調とし、表面が七色にきらめく蝶モチーフのブレスレットの前で立ち止まってしまった。なんだか、ルシファー様の瞳の色に似てる。

「気に入ったみたいだな」

 値札を見てみると、螺鈿細工だったようでかなりのお値段だ。

「でも、私、手持ちが……」

 日頃のやらかしのせいで私の給与では買えない。

「今日はエリィの好きなものを買いに行くと言っただろう。店主、このブレスレットを頼む」

「そんな!」

 ご機嫌取りにしては、甘やかしすぎではないだろうか。

「手を出せ」

 品物を受け取ったルシファー様が、私の左手にブレスレットをつけてくれた。

「ついでだ」

 そう言ってブレスレットの蝶のチャームに指先を乗せると、ぽわんと光が集まる。

「魔よけのまじないみたいなものだ。何かあったらこの蝶を握りしめろ。だから、いつもつけておけよ」

「はい、大事にします」

 他の悪魔からこんなに良くされたのはいつぶりだろう。あ、マギーさんもか。400年生きてきた中で、いい目にあったことがないからその心づかいが嬉しくてたまらない。

「さて、そろそろマギーも五月蠅いだろうからな、帰るぞ」




 ルシファー様の移動魔法でアルバトロスへ戻ってくると、店はもう閉まっていたのだが、その店の前にマギーさんがいた。

「んもぅ! エリィったら遅いわ、もうとっくにランチの営業終わったわよ!」

「マギーさん、すみません、迷惑かけて」

 そういうわけじゃないんだけどォ、とマギーさんは何か煮え切らない態度だったが。

「ルシファー様、うちのエリィを返していただけますか?」

「今日のところは、な」

 そう言われたマギーさんがルシファー様をキッとねめつける。そして、踵を返すと言い放つ。

「エリィ、明日の仕込みをするわよ!」

「はい!」

「それでは、俺も帰るとするか」

 これで解放されると思ったのだが。

「今日は楽しかったか?」

 不意に耳元でルシファー様に囁かれる。

 吐息がくすぐったいし、何よりその声にしびれて。

「ッ!」

 振り返った時には、ルシファー様の姿はなかった。

「卑怯だよぉ……」


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