デートでもいかがですか
「こちらのお席でよろしかったでしょうか?」
エリィはカウンター席の一つを指してルシファー様に伝えた。
「あぁ、ここからならお前がコーヒーを淹れるのをよく見物できるな」
「うっ!」
「なんだ、嫌だったか?」
嫌ではないが、緊張してしまう。
「いえ、嫌ではないですが……」
私が言いかけたその時。
「なんだよあんた、上級悪魔だからって、エリィの嫌がるようなことするなよ!」
アレウス君が割り込んできた。アレウス君は私とルシファー様の間に割り込むように立つと、庇うように両手を広げる。
「アレウス君、私は大丈夫だから……」
どうしよう、このままだと言い合いになる!
混乱した私はお冷をルシファー様に渡そうとして躓いた。
バシャっと音がして、二人に水がかかる。
「あ……」
やってしまった!!
「まぁ、頭を冷やすのにはいいかもな」
ルシファー様が皮肉たっぷりに言い放つ。
「ルシファー様は風魔法で乾かせますよね。アレウスは着替えてきなさい」
天の助けか、マギーさんが仲裁に入ってくれた。
いわれた通り、ルシファー様は風魔法で易々と髪や服を乾かしてゆく。
やっぱり上級悪魔なんだなぁ、なんて見とれていると。
「それでは、この弁償とコーヒーをいただこうか」
「はひっ!」
ルシファー様はコーヒーを嬉しそうに堪能している。その一方で店内の下級悪魔たちはざわついていた。
「エリィがお気に入りになったってのはホントだったんだな」
「でも、コーヒー一杯でなんであんなに気に入っているのかわからねぇぜ」
「だって、あのエリィだぜ?」
私だってわかってます、ドジでいいところもないこの私が、なぜ。
「ところで、お前。弁償として、俺の買い物に付き合え」
「買い物……ですか?」
「不服か?」
「いえ。とんでもない!」
と、そこへアレウス君が着替えてホールに戻ってきた。
「あいつ、まだいるのか……」
アレウス君の舌打ちが聞こえました。聞かなかったことにしよう。
「そういうわけだ、マギー、借りていくぞ」
「仕方ないですね、早めに連れ帰ってください」
マギーさんはルシファー様とは旧知の仲のようなのに他人行儀だ。魔王城でなにがあったのか気になるけれど、これ以上は気軽に聞けるような内容じゃないのは私でもわかる。
「店主の許可も出た。ほら、行くぞ」
魔王城近くの広場には、ルシファー様の移動魔法で一瞬だった。
「わぁー! とってもにぎわってるー!」
食べ物、名産品などの露店が所狭しと並び、行き交う悪魔も上級、下級、関係ない。
「罪滅ぼしだというのに呑気なものだな」
「あっ……」
思わず口を塞ごうとした手をつかまれる。そしてそのまま手を繋がれた。
「それじゃ、エリィ、行くぞ」
改まった様子でルシファー様が私の名前を呼ぶ。その耳は少し赤らんでいるように見えた。
あれ、私、初めて名前を呼ばれたかもしれない。それに、これって、どちらかと言うとデートになるんじゃ……。
「どうした、固まって」
「いえ、その……」
道行く悪魔たちも妙な組み合わせにちらほら視線を投げかけてくる。
「俺と一緒は嫌か?」
その聞き方が少し寂しげで。
「いえ、喜んでご一緒します」
そう答えると、驚いた顔を見せたルシファー様が、次の瞬間初めて心の底から笑ったように見えた。その笑顔がまぶしくて。鼓動が高鳴って鳴り止まない。
「エリィはどんなものが好きなんだ?」
「私ですか?」
「あぁ。今日はお前の好きなものを買いに行く」
「でも、償いじゃないんですか?」
ルシファー様はとびっきり大きなため息をつくといった。
「俺はエリィに屋敷に来てもらいたい。それは変わらない。詰まるところ買収だ」
「その話はなかったことになったはずでは……」
「諦めてない」
「そんな……」
お屋敷勤めとなれば、待遇もよくなるだろう。でも、上級悪魔の屋敷に勤めるのは優秀な悪魔だけだ。
「まぁ、考えておけ」
「……はい」
「それじゃ、行くぞ」
その言葉に私の腹の虫がぐうと鳴った。
「まずは、腹ごしらえからだな」
くくっとルシファー様は笑った。
これが本来のルシファー様なのかもしれないなと、私は思った。




