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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第五章 私、結婚します!

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新しい命

 結局初夜は、ルシファーの言葉通り寝かせてもらえなかった。でも、回復魔法じゃなく、昼まで寝かせてもらえたので疲れは取れたが。だが、昼に起きて、みんなにおめでとうございますと祝われたのは赤面じゃ足りなかった。

「これなら子供の顔をあの二人にも早く見せてやれそうだな」

 執事をしているアモンさんがくっくと笑いながら言う。

「では、これから、新婚旅行なので!」

 私は会話を早々に打ち切って、荷物を持とうとした。

 それをルシファーがひょいとつかむ。

「エスコートは俺がする。お前はただ楽しめばいい」




「新婚旅行は人間界にしてよかったね」

 桜並木が続く河原を私たちは腕を組んで歩いていた。これから一か月かけて、桜前線の上昇とともに旅していくつもりだ。

「でも、言葉一つで私を好きになったの?」

「天界で傷ついて堕ちてきた魔界に来たときは、醜い悪魔しかいなかったからな。しかも、皆、羽を取ろうとしたり、性格の悪いものばかりで辟易していた」

 そう言って、空いた手でルシファーが私の髪についた桜の花びらをつまむ。

「それなのにお前ときたら、天使のように美しいうえに俺に手を差し伸べてくれた。どんなに救われたか」

「その時の私は、思ったことを言っただけだと思う……」

「だからこそだ」

 不意に立ち止まったルシファーが、私を抱き寄せて桜吹雪の中、軽くキスをした。

「人間界ではあまり大っぴらにできないな」

「魔界でもやめてください……」

「一か月もあるんだ、お前も観念したらどうだ?」

 この甘い雰囲気が一か月も?

 それも、誰も止めてくれる人がおらず?

「ルシファー、全部計算づくだったんですか……」

「逃げられないぞ?」

「帰ります! 魔界に!」

 とはいうものの、魔界に帰るトンネルはルシファーにしか作れない。

「人間界と魔界では時間の流れが違うんだ、それを調整できるトンネルは俺にしか作れないが?」

 ですよね。知ってました。

「もう……ルシファーの好きにしてください……」

 くすっと笑ったルシファーが、私のおでこにキスする。

 仕方ないか、400年前に見とれて足を滑らせた頃からきっともう、決まっていた運命だ。




「ただいま戻りました! 一か月もすみません」

 一か月ぶりに帰ってきたお屋敷のはずが。

「ルシファー、だいぶ無理をしたようですね。あなたたちが旅立ってから一週間しか経ってませんよ?」

 出迎えてくれたアモンさんが呆れたように言った。

「サタン様から一週間と言われたのを、うまく人間界との時差を使って逃げ道を探したようですね。ちなみに、人間界のほうが、時間が経つのが速いんです。あなたも大概厄介な悪魔に執着されたものですね」

「厄介とは聞き捨てならんが、アモン?」

「厄介でしょうに」

 ため息をついたアモンさんを無視したルシファーは、私に笑いかける。

 愛が重いです。




 それからしばらくして。

「アモンさん、なんだか私、最近情緒不安定なの……」

 はたとした顔をしたアモンがすぐに医師の手配をした。

「ご懐妊です」

 女性悪魔の医師が、にこやかに告げた。

「えええぇ……」

「魔力からすると双子ですね、おめでとうございます!」

 私はただ、口をパクパクさせていた。

 もうできるとは!

 私が妊娠したという話は、お屋敷中にすぐに広まった。

 使用人たちが、ルシファーが寝込んで目覚めたときのように、次々と尋ねてくる。

「奥様、おめでとうございます!」

「きっとお二人に似た、かわいい子たちが産まれてきますね!」

 あの時のルシファーの気持ちが、今わかった。

 一人にしてほしい、うん。

 だが、知らせが魔王城に届いたことで、ルシファーが執務中だというのに屋敷に帰ってきた。

「皆、仕事に戻るように」

 使用人の皆は、しぶしぶといった風に散り散りになった。

「正直、俺も反省している……」

「一か月もルシファーを好きにさせてたらどうなるか、私も心しておくべきだったわ……」

 その時、バタンと音をさせて、部屋の扉が開いた。

「エリィ! 子どもができたんですって?!」

「孫の顔をこんなに早々に見れるとはな!」

 マギーさんと師匠だった。

「二人とも! お店は?」

「そんなの閉じてきたわよ!」

 うん、そういう人たちだった。

 そして。

「おめでとーう!」

 サタン様とリリス様が続けて乱入してきた。

「僕より早く子供を授かるなんて、ルシファーのほうがよっぽどわっ」

 最後まで言い切ることができなかったのはリリス様が蹴りを入れたからだ。

「あなたの浮気癖がなければ!」

 日頃の恨みがこもった蹴りはよほど効いたようで、サタン様はまだ悶絶している。

「すまないが、皆、日を改めてくれないか?」

 ルシファーがベッドに座ったままの私を気遣って皆を追い出した。




 静かになった部屋で、私たちはようやく一息ついた。

「早すぎたか?」

「なんとなく予想はしてた……」

 でも、いきなり子持ちになるとか、しかも双子。

「正直混乱してる」

「すまない。だが、俺は嬉しい、お前との愛のあかしだからな」

「私も嬉しいよ? でも不安もあるの」

「それも一緒に乗り越えていこう、永遠の俺の愛しい悪魔」

 優しくキスされて、私はやっと落ち着いた。

 きっと大丈夫、この悪魔となら。


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