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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
エピローグ

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エピローグ

「お母さん、庭の桜が咲いた!」

 黒髪に緑の瞳をした幼い男の子が、私の裾を引く。

「見に行こうよ!」

「だめよ。お母さんは身重なの。お腹に赤ちゃんがいるんだから」

 金髪碧眼の少女が、すかさずたしなめる。

「お姉ちゃんはいつも僕の邪魔するんだから!」

「それはあんたもでしょ!」

 言い合いになる前に、私は二人の間にしゃがみ込んだ。

「三人で行きましょう。それなら、お姉ちゃんも安心でしょう?」

『うん!』

 二つの声が重なり、庭に弾けた。




 桜は、双子を授かったときに植えたものだ。

 魔界で根づくかどうか、庭師は首をかしげていたけれど。

 それでもこうして、七年の時を越えて花をつける。

「綺麗ね」

 呟いても、子どもたちは桜吹雪の中を駆け回るのに夢中だ。

「エリィ」

 振り返ると、ルシファーが立っていた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 彼は今も魔王城で執政を担っている。

 それでも、こうして私の隣にいる。

 双子はすくすくと育ち、

 そしてこの子は――私たちが望んだ未来。

 そっと腹部に手を当てる。

 あの日、未来を思い描くことさえ怖かった私が、

 今はこんな願いを口にしている。

「この子も、元気に生まれてくれたらいいな」

「あ、お父さん! 魔法の練習しようよ!」

「だめよ、今日は私と遊ぶの!」

 ルシファーは笑って、二人の頭を撫でた。

「すまない。今日はお母さんを独り占めさせてくれ」




 人間界への移動は慎重に行われた。

 私の体に負担がかからないように。

「普通のコーヒーは飲めないから、デカフェだけど」

 水筒から注いだ湯気が、春の空気に溶ける。

 腕を組んで歩く河原の桜並木は、あの日と変わらない。

 ここでコーヒーを飲みたい、と言い出したのは私だ。

 あの頃の私は、まだ少し、世界を怖れていた。

 けれど今は違う。

「ここからまた始めようか」

 ひと呼吸置いて、カップを差し出す。

「――はじまりの一杯を」

 川面を渡る風に、桜がひとひら落ちた。

 それでも私は、もう迷わない。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

少しでもエリィとルシファーの物語が心に残りましたら、ブックマーク・評価・感想で応援いただけると嬉しいです。

次からは外伝です。

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