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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第五章 私、結婚します!

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幸せの足音

「エリィ、体調は大丈夫か?」

 パーティーの翌日。ルシファーは魔王城へも行かず、私に付き添っていた。

「なんともないですよ」

 飲んだのはただのマナの塊と聞かされ、ほっとしたのもつかの間。ルシファーの過保護モードが発動した。

「一週間は魔王城へは行かない、エリィの様子を見る」

 いえ、大丈夫です。それよりサタン様のご機嫌取りしてください。

 そうとは言えず、私はベッドに寝かされルシファーに付きっ切りで看病という監視をされていた。

 そして、師匠はというと。

「まさか、エリィに助けられるとは。ありがとな」

 魔王城の厨房に戻る話も流れて、アルバトロスで働くことにしたそうだ。

 あと、マギーさんにはしこたま怒られた。心配されたんだろうけど。

 結局、サタン様の手のひらの上で踊らされたってことか。

「お前は臆病だったくせに、どうしてこうも大胆になってしまったんだ……」

 ルシファーは笑い交じりに言う。

「たぶん、ルシファーのせいですよ」

「はは、そうか、俺に似てきたんだな」

 そして、ちゅっと頬にキスされた。

「キスじゃごまかされませんよ」

「ふっ。それでこそ俺の妻に相応しい。なぁ、窓の外を見てみろ、雪が降ってきたぞ。積もりはしないだろうが、バルコニーに見に行くか?」

「そうですね、ベッドじゃ退屈です」




 バルコニーの手すりに、雪の結晶がきらめいている。初めて見るものでもないのに、それがなんだかとても美しく見えて指で触れると、体温で溶けて消えてしまった。はかない美しさに、魔界で初めて出会った頃のルシファーを思い出した。

「この雪、ルシファーみたい」

「なんだ、俺が冷たいってことか?」

「ううん」

 そう言って私は冷えた手をルシファーの手に重ねた。

「魔界で初めて出会ったルシファーみたいにはかなくて美しいってこと」

「俺もあの日のことは今でも鮮明に覚えている。魔界にもこんな美しい悪魔がいるのだと感心していた、それも、身も心もな」

 そう言われた私は照れてしまい、手を振りほどこうとした。しかし、しっかりと握りこまれた手は放してくれそうもない。

 そして、手の甲にキスされた。

「放さないと言っただろう?」

 そう言って、顎に手を添えられ唇を奪われる。冷えた気温の中、交わす口づけだけが熱かった。

「春が待ち遠しいな、結婚式を挙げるのが」

「もう、結婚してるようなものだけどね。メイドとして働くのもなしなんでしょう?」

「なんだ、働きたいのか?」

「お役に立ちたいの!」

 そう言って、私たちは笑い雪の中で抱きしめ合った。ぬくもりが伝わってほのかに温かい。

「冷えるぞ、もう屋敷の中に戻ろう」

「そうだね。でも、明日からちゃんと執政官の仕事をすること」

 そう言うと、ルシファーは面食らった顔をした。

「俺は離れているどの一瞬も惜しい」

「それは私もだよ」

「それなら」

 ルシファーが私をお姫様抱っこすると、屋敷のベッドまで運ぶ。

 押し倒された私は素直に従った。失った300年を取り戻そうとするように。




 ゆっくりと招待状の準備などをしながら、春を待ちわびた。二人で衣装や演出も考えた。場所は魔王城の大広間だ。何故なら、立会人がサタン様だから。ルシファーはサタン様とも打ち合わせをしている。

「衣装は青がいいな」

「どうしてだ?」

「ルシファーの瞳の色だから。この間は私に合わせてくれたでしょう」

 こんなに美しい青を、どうして忘れていたんだろうと自分でも思ってしまう。それくらい、ルシファーの瞳の青は美しい。中心部に向かって濃くなるグラデーションがアルバトロス近くの海の色にそっくりだ。

「そうだな、そうしよう」

「私、ルシファーの瞳の色が好きなの」

「あぁ、知ってる」

「え?」

 私、伝えたことあったっけ?

「この秘密は結婚式までお預けだ」

 なにそれ、ずるい。

 私はじっとルシファーを見つめたけれど、教えてくれそうになかった。

「準備も一段落したころだし、アルバトロスへ行かないか?」

「はぐらかす気?」

「いいや、ちょうど用事があるからな」




「んもう、来るならちゃんと連絡よこしなさいよねェ!」

 ランチタイムのアルバトロスは大盛況だった。それでも、マギーさんは特等席に座らせてくれた。初めてルシファーがお店に来た時の、あの席だ。そこに、今は並んで二人で座っている。

 夢みたいだな、と思った。

 あの時はメイドになれと言われてお断りしたけれど、今や結婚を控えているとか。

「夢みたいだな」

「私もそう思ってた」

「あの頃のお前に、今のお前のことを教えてやりたいな」

「うん、最高に幸せだって言ってあげたい」

 ルシファーが私の腰に手を回して引き寄せる。誰にも渡さない、と言ったふうに。

「おう、お二人さん、やっと結婚式に呼んでくれるんだな」

 師匠がやって来て、注文を聞いてくる。

「その前に、あなた方にお願いがある」

「おう、どうした? マギーとオレにか?」

「結婚式で、エリィの両親役をしてほしいんだ。100年もエリィを育てたあなたには感謝している。俺の手の届かぬところだったからな。それから、エリィにもう一度コーヒーを取り戻してくれたマギーにも」


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