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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第四章 お屋敷での仕事

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戦いの宴

 私とルシファーの婚約披露パーティーは、一か月後と決められた。その頃には本格的に冬になっているだろう。本来なら時期としてはふさわしくないが、結婚式は春に、と決めてしまったから仕方なかったのだ。

「べ、ベルゼブブ様! よろしくお願いします!」

 料理長のトニーがぎくしゃくしながら師匠に挨拶する。

「オレはそんな大した悪魔じゃない。気を使わないでくれ。それよりお前がルシファーに出している料理を見せてくれないか?」

「はい! ベルゼブブ様!」

 トニーと師匠が厨房へと向かった後、取り残された私たちはしばし無言だった。

「今回の作戦、そううまくいくでしょうか……サタン様、勘づいていたような気がするんですけど」

 最初に口を開いたのは私だった。

「十中八九、気づいているだろう。でも諦めさせるにはこれしかない」

 作戦は、パーティーで人間の魂を使わない人間界の料理を出すことだった。舌を唸らせる料理を提供することで、怒りを買うか、呆れさせるか、と言ったところだったが。

「勝算はあるんでしょうか?」

 不安から口にした言葉に、ルシファーはただただ不敵に微笑んで見せた。




 それからというもの、師匠とトニーの猛特訓が始まった。フレンチのフルコースや中華料理、イタリアンなど様々な料理を工夫を凝らして作ってはダメ出ししていた。

 そして私たちはというと、招待状や衣装など準備することがたくさんあった。二人に構っていられる時間はなかった。

 あっという間に一か月が過ぎてしまった。




 そして迎えたパーティーの日。

「お招きいただきありがとうございます」

「こ、こちらこそ……」

 正装したマギーさんはいつもの女物ではなく、男性のスーツを着こなしていてかっこよかった。

 びっくりした! 誰かと思った!

「んもぅ、これで堅苦しいのはなしよ!」

「マギーさんはそれが一番です……」

「あなたたちもエリィの瞳の色に合わせた衣装、とっても素敵よ!」

 緑を基調とした衣装を褒められて私ははにかむ。

「俺の見立てだ、当たり前だろう」

 ルシファーが誇らし気に言い放つ。

「まったく、ルシファーは相変わらずなのね」

 それから、来客に次々挨拶していく。屋敷でのパーティーということで、招待客は絞ってある。約50名ほどの来賓だった。

そして――

「魔王サタン様のご到着です」

 きた!

 コース料理にしたことで、席は固定してある。その上座に座る今日の対決相手。

「へぇ、立食形式じゃないんだね」

 正装したサタン様は魅了など使わなくても十分華やかで美しかった。

「どんなものが出されるか楽しみだよ、ねえ、二人とも?」

 その笑みは妖艶でありながらも恐ろしかった。後ろに控えたリリス様はそれをどこ吹く風で他の招待客と談笑している。

「サタン様もいらしたことですし、始めさせていただきましょう」

 ルシファーが言い放った。

 こうして戦いの宴が始まった。




「乾杯!」

 各々がグラスを鳴らし、パーティーが始まった。

「前菜のキッシュ盛り合わせです」

 サタン様にリザーブする給仕が小刻みに震えている。無理はないだろう。激高を買うことは目に見えているのだから。

「ルシファー、これ、どういうこと?」

「これが我が屋敷での料理です」

「魂が入ってないよね、人間の」

 ルシファーとサタン様、二人の視線がかち合って火花が散りそうだった。

「ベルゼブブを呼んでこい!」

 サタン様の姿が変貌していく。大きな蝙蝠状の翼と、長く伸びた爪。瞳は赤く光り恐ろしかった。

「サタン様、これが答えです」

 師匠がやって来て跪き、言い放った。

「もう、人間の魂を使った料理を作ることは致しません」

「はは、わかってたよ、君たちがパーティーを開くと言った時からね! それで、どう落とし前をつけてくれるの? そうだ、ルシファー」

 招待客たちは微動だにせず、ただただその恐ろしい様子を息をひそめて見つめていた。

「君、ここで、人間の魂を喰らいなよ。リリス、用意できる?」

「はい、ここに」

 ぽわっとリリス様の手の中に青白い光の玉が浮かんだ。よく見れば、それには苦悩した人間の顔が浮かんでいる。

 こんなものをルシファーに!?

「これを食べれば、君は浄化の力を使えなくなって完全に悪魔化する。そしたら、僕が魔界の唯一の脅威になる。悪くない取引だろ」

「それがサタン様の望みとあらば」

 ルシファーがリリス様から魂を受け取って、飲み込もうとした刹那。

 体が反射的に動いていた。

 私はルシファーから魂を奪うと、飲み込んだ。

「これで、私が完全に悪魔化しました! 回復効果のあるコーヒーはもう作れません」

「エリィ、なんてことを……!」

 ルシファーが隣で青くなっている。

 しかし。

「あっはは! そう来ちゃったか!」

 サタン様は悪魔の姿を解いて椅子に座り直し、足を組んだ。

「それ、人間の魂じゃないよ。模したただのマナの塊。エリィちゃん、ほんとにルシファーが好きなんだね」

「な……」

「こうなることはわかり切ってた。でも、覚悟を見せてほしかったんだ。でもまさかエリィちゃんが見せてくれるとはね!」


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