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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第四章 お屋敷での仕事

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一計を案じる

「それで、首尾のほうは?」

 魔王城の大広間。玉座ではサタン様がだらしない格好で座っている。私とルシファーは報告をあげに来ていた。アモンさんにはコーヒーを配ってもらっている。

「首謀者のバアルは完全消滅を確認。協力していたと思われる人間界のアスモデウスは聖水や、浄化の剣などをバアルに横流ししていたようです。魔力がなかったのが教会に弾かれなかった要因ですね」

 くくっと喉を鳴らしたサタン様が言った。

「ふうん、そこまで掴んでたの。もっとかかるかと思ってた。これは囮になったエリィちゃんのお手柄だね」

「アスモデウスは永久に魔界に帰ってこれないよう、バアルが作った魔界とつながっていたトンネルを閉じました。以後、人間界で転生を繰り返すでしょう」

「魔力もないんだもんね、ただの悪魔の記憶のある人間だよ」

「いえ、記憶も消去しました」

 あははとサタン様が笑った。

「君、婚約者のためならどんな非情なことだってするね!」

 そっか、マギーさんのことも忘れちゃうんだ。マギーさん、大丈夫かな。




「エリィ、来たなら手伝って!」

 心配して、報告の後にアルバトロスに来てみれば、大繁盛していた。今まで来れなかった分を取り戻そうとコーヒーを飲み終えた下級悪魔たちが集まってきたらしい。

「しっかり、カタをつけてきたんでしょうね?」

 パスタを茹でながら、凄みのある声で聞かれた。うん、なんかこれなら大丈夫な気がしてきた。以前、妹に殺されかけたしな……。

「あとは、残党の過激派がいないか洗っているところです」

 私は配膳を頼まれたオムライスとビーフシチューを持っていこうとした。

「そう。妹のことは諦めてるから気にせずにね」

 思わず、トレイを取り落としそうになる。

「マギーさん……」

「当然のことをしたのよ。あの子は。魔界から人間に転生していくあの子を見ることもできるから大丈夫よ、さ、配膳してらっしゃい」




店がやっと閉店して、私はマギーさんたちと話しあうことにした。

「この度はほんとに何と言ったらいいのか……」

「やあねェ。そんな辛気臭い顔しないでくれる?」

 しかし、そう言ったマギーさんの瞳には涙が滲んでいる。

「仕方なかったのよ、あの子は。いつかこうなるんじゃないかと思ってたわ」

 その言葉を皮切りに、マギーさんはしくしく泣きだした。

「マギー、気が済むなら俺を殴るか?」

「いえ、遠慮しておくわ。エリィに恨まれたくはないから」

 そう言って、ルシファーの肩をバシッと叩いた。

 あ、叩きはするんだ。

「まぁ、これで堕天使の問題はあらかた片づいたが……あとはオレの身の振り方だな」

 師匠が難しい顔をして、ううんと唸った。

「料理長に戻れって話ですよね?」

「あぁ、だが俺は戻りたくない」

 私と出会った時の師匠の様子も知っているし、その後の100年もお世話になっていたから私は師匠の心情を痛いほどわかっている。

 人間の怨嗟の声を聞きながら調理するのが嫌だと師匠はぼやいていた。

 本当に悪魔らしくない悪魔なんだよね。

「それなら、もう料理長にふさわしくないと振舞ってみては?」

「でも、どうやって?」

 師匠と私がうんうん悩んでいると。

「俺に考えがある。試してみないか?」

 ルシファーが一計を案じた。




「それで、ベルゼブブは料理長に戻る記念にルシファーとエリィちゃんの婚約パーティーの料理で復帰したいと?」

 サタン様が玉座から私たちを見下す。まるで、私たちの思惑なんてお見通しと言わんばかりに。昨日のコーヒーをふるまった件の報告も兼ねて、私とルシファー、師匠がサタン様の御前に居た。

 魔王城の大広間はいつもより冷え切っているように感じられた。それは冬が近いせいか、サタン様の苛立ちからくるものなのか、私には判断がつかなかった。

「つきましては、ルシファーの屋敷で開かれるパーティで腕を振るいたいと」

「ふうん、いいよ」

 興味をなくしたようにサタン様が言い放つ。

「ルシファーとエリィちゃんの結婚は確定事項だもんねぇ? その指輪、気づかないとでも思った? 契約までしちゃって。結婚のときはその指輪をベースにして結婚指輪を作る気だね。束縛男!」

 サタン様、何だか今日、ちょっと機嫌悪い?

「それならば、承諾していただけたということでよろしいですね?」

 ルシファーが念を押して訊く。

「いいよ。でも、手を抜いたら許さないから」




「心臓縮むかと思いましたぁ!」

 ルシファーの屋敷に帰ってきた私たち3人は、深いため息を漏らした。

「とりあえず、第一関門はクリアだな」

「あとはオレ次第か」

 師匠が、ふうとまたため息をついた。

「300年、人間界で修業した成果を見せるか」

「師匠、人間界に行ってたんですか?!」

 きょとんとした顔で師匠が私を見つめる。

「あぁ、言ってなかったか」

「俺も最近わかってきたが、ベルゼブブはこういう男だ」

「ははは、ルシファーにそう言われるとはな!」

 師匠が、ガシガシと私の頭をなでた。

「まぁ、そういうことだから料理は期待してろよ?」

 不安しかないんですけど!

 どうか、サタン様の機嫌を損ねて首と胴体が泣き別れになりませんように。

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