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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第四章 お屋敷での仕事

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闘争の決着

 サタン様からもろもろの事情を聞いた私たちは、そのままアルバトロスへ向かった。

「エリィ、ありがとうね、来てくれて」

 アルバトロスでは落ち込んだ様子のマギーさんと、うんうんと考え込んでいる師匠の姿があった。

「バルバトス公の事件の後から、客足が減ってね……今じゃ誰も寄り付かないのよ」

 私が関与していたことでアルバトロスは忌避すべき店と思われたらしい。店に通えば堕天使派だと思われて、純血派から制裁を下される。そんなことが起こっているそうで。

「そんな。完全にとばっちりじゃないですか!」

「巻き込まれたと言えなくはないけれど、アタシもエリィのことを気に入って店に居れたわけだし」

「純血派は粗方一掃したはずだが、俺に聖水が盛られていたのも奇妙なことだからな、それも今、洗わせているんだが」

 その口調からは、いまだに事件の全容が解明できていないのがありありと表れていた。それも込みでサタン様は告げてきたのだろう。

「オレはオレで魔王城の厨房に戻れと言われしまった」

 師匠は考えあぐねているようだった。

「ベルゼブブは厨房に戻りなさいよ! そもそもアンタがいなくなったからアタシの夢を叶えるのが遅くなったんじゃない!」

「そのためにはオレの夢がどうなったもいいと?」

 そう言い放った師匠の声音は今まで聞いた中では一番怖かった。

「夢……アタシは虐げられている下級悪魔が安心して生きていける店を持つのが夢だったの、それがこのアルバトロスよ」

 店内を見渡しながら、マギーさんは言った。

「魔王城で出される、人間の魂を使った豪勢な食事……調理しているときの人間の記憶が流れ込んでくるのはつらかったわ。その一方で、食事にありつけず、消えていく下級悪魔がいる。どうにかしたかったの。でも、この思いはベルゼブブ、アナタも同じでしょ?」

 最後の一言に、師匠は不意を突かれたようで、驚いた顔を見せた。

「見透かされていたか……俺は、逃げたんだ。悪魔として生まれたことが不幸だったとしか思えない」

 ここまで二人の話を聞いてたルシファーが、口を開いた。

「俺は、堕天使たち、もとい下級悪魔を含めた悪魔たちを救いたい。お二人は下級悪魔を救いたい、目的はあっていると思うんだが、エリィ、俺の推測に協力してくれるか?」




 翌日。魔王城前の大広場。露店が立ち並ぶ中、私は護衛も兼ねたアモンさんとホットコーヒーを配っていた。

「無料で、回復効果のあるコーヒー、配ってまーす! 人間界でエクソシストにつけられた傷もこれで治りますよ!」

 しかし、悪魔たちは遠巻きに眺めるだけで、なかなか受け取ってはくれない。

「私の傷もこのコーヒーで完治した。皆も飲むとよい」

 アモンさんが眼帯をつけていないのを確認した悪魔たちがざわつく。

「あのアモン様の傷が治っている!」

「コーヒーは本物らしいな……」

 しばらくざわついていた悪魔たちだったが。

 一人の少年悪魔が、近づいてきた。

「お姉さん、コーヒーください」

 しかしその髪色はアメシストで、バアルを想起させる。

 消えたはずだ。この子はバアルじゃない。

 コーヒーを渡そうとしたその時。

「バアル、意地汚いな」

 アモンさんが、防御魔法でシールドを張った。

 その瞬間、少年の姿は消え去り、バアルが目の前に立っていた。悪魔の姿で。

「よう、久しぶりだな小娘」

 そう言ったか言わないうちに、シールドがバアルの長く伸びた爪でこじ開けられようとしていた。

「あなたは、浄化されて塵になって消えたはず……!」

「くはっ、愚かな。むざむざ本体でお前の前に姿を現すとでも?」

 しかしその瞬間、バアルの体が浄化の薄紫の炎で燃えていた。

「今回ばかりは、本体で来ざるを得なかったようだな」

 近くに控えていたルシファーが、攻撃を仕掛ける。

「どこまでも忌々しい堕天使め!」

 燃え盛りつつ、バアルがルシファーに爪を振りかざす。悪魔の姿になったルシファーが、片手でそれをいなしつつ、雷撃魔法を放つ。当たったバアルの左腕が塵になって吹き飛ぶ。しばらく攻防は続いていたが、右腕と左足を負傷したバアルは炎の海に沈み、塵となって消えた。

「今度こそ、消えてもらったからな、バアル」

「これで終わったの……?」

「聞け、皆のもの。俺は堕天使ルシファー、傲慢をつかさどる悪魔だ! 俺は何も純血派を否定するつもりはない。ただ、堕天使と悪魔の間に和平を取り結びたいだけだ。そして、見下される下級悪魔も、消える下級悪魔も救いたい。すべて叶えたい、俺は傲慢の悪魔だからな。ここに用意したコーヒーは防御魔法を仕込んである。下級悪魔も暴力を恐れなくていい。これからはここにコーヒーを永続的に設置する。俺の思想に賛同するものは飲むがいい!」

 ルシファーの演説が終わると、わっと悪魔たちが詰め寄った。

 本当はみんな、苦しくない生き方をしたかったんだな。

「押さないで、沢山準備してありますから!」

 私はそう叫びつつ、次々、コーヒーを配っていった。

 皆、安堵したようにコーヒーを飲んでいる。その笑顔にこちらが癒された。


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