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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第四章 お屋敷での仕事

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運命の誓い

 私たちはシートを敷いて座り、料理長のトニーから渡されたカゴを開けた。

「わ、これ、オークの串焼き! あの時デートで食べたのとそっくり!」

「それだけじゃない。クレープもあるぞ。魔法で時間を止めてあるからアイスも溶けてない」

 もしかしなくても、あのデートのことを意識したラインナップなのは目に見えていた。

「ルシファー、ありがとう。あの日の事、大切に思ってくれてたんだね」

「それはそうだろう。恋焦がれたお前との大切な時間だったからな」

 自然と視線が絡み合った。私たちは言葉もなくキスをする。一陣の風が吹いて、祝福してくれているかのようだった。一瞬、押し倒されるかと思ったけどそこはルシファーも自制したらしい。

「それでは食べるとするか」

「は、はい!」

 妙な雰囲気になりながら私たちはまず、オークの串焼きを頬張った。

「美味しいっ!」

「あぁ、あの日に戻ったみたいだな」

 そう言って、あの日みたいに笑うルシファーが今は近くに感じられる。遠い存在だと思っていた上級悪魔、でも今は私の恋人。

「よかった。上機嫌だな」

 そう言って、ルシファーは私の頬についたタレを指で取ると舐めとった。

 あの日みたいに。

「こんな日が来るなんて、思ってなかったから」

 一度は貴方を諦めようとした。アスモデウス様に殺されかけてから、下級悪魔の私じゃ釣り合わないと本気で思った。でも、今は隣にいる。

「俺は諦めていなかったぞ。お前を伴侶にしたいと願ってから。初めは守っているだけで満足していたのだがな。傲慢の悪魔だからな」

 傲慢の悪魔。ルシファーの二つ名だった。

 そうだ、二つ名がつくほどの上級悪魔なんだよね。そんな悪魔が恋人なんだ。

「ルシファーは、私とこのまま結婚してもいいと思ってるの?」

 ふと、不安に思っていたことが口から出る。ルシファーはひとしきり笑った後。

「なんだ、不安だったのか」

 そう言って、小さな箱を取り出した。そして開けられた中に入っていたものは。

「指輪……?」

「婚約指輪だ。受け取ってくれるか?」

 私は何も言えず、こくこくと頷く。

 指輪は二つあり、金属部分は私の髪色と同じ美しい金色だった。そして、それぞれの指輪には相手の瞳の色の大ぶりな宝石がついている。

「これでいつでもお前を手元においておけるな、眺めて思い出せる。さぁ、左手を出してくれ」

 私が左手を出すと、ルシファーは薬指に指輪をはめた。そして宝石にキスする。

「永遠に共にあらんことを誓う」

 そう言うと、宝石がぽわっと光った。まさか、これって。

「契約の指輪だ。破れば死が待っている。まぁ、そんなことはさせないが。エリィも俺に嵌めてくれるか?」

「うん」

 私は指輪を手に取って、ルシファーの左手の薬指に嵌めた。

「永遠に隣にいることを誓います」

 そう言って、宝石にキスするとまた光が宿って契約が結ばれた。

「これで俺たちはお互いのものだ。逃げ出すことはできない」

 その、青い美しい海を思わせる瞳は、それでもいいのかと問うてくる。

「望むところです」

「ふふ、それでこそ俺の認めた伴侶だ」




 クレープも食べ終えてしばらく二人でシートの上で横になっていた。時折聞こえる鳥のさえずり、心地よく吹く風にうとうとしそうになった時。

「エリィ、聞きたかったことがあるんだが」

「なんでしょう?」

「お前が見習い天使の頃、魔界まで落ちてしまったのはなぜか、自分でもわかっているか?」

 あの時は……。どうだったろうか。

「六枚の羽根の青い瞳の美しい天使様が視察にやってきたんだったと思います」

「六枚の羽根?」

「はい。私はその人が美しすぎて、雲から足を踏み外して……」

 あの頃、飛べなかった私は気づいたら魔界に居た。

 それを聞いたルシファーは深いため息をついた。

「俺のせいではないか……」

「え」

「400年前、天界で見習い天使がいなくなったと報告があった。しかも俺が視察に行った日に。それに、天界に六枚の羽根は俺しかいない……こうなるのはもう運命だったんだろうな」

 そう言って、こちらを向いたルシファーはくしゃりと笑って、私の左手を取って甲にキスした。

「もう離しはしない」

「私もあなたから離れません」

 ふふっと笑ったルシファーが続けて言った。

「その割には、お前の口から好きだと聞いたことは無いんだが?」

「え」

 確かに、今までさんざん恋人のようなことはしておいて、私から好きだとか愛してるとか言った覚えはない。

 私は座りなおしてルシファーに言った。

「好きです、400年前にあなたに落とされてから」

「最高の口説き文句だな。俺も好きだ、愛している、エリィ」

 一陣の爽やかな秋風が吹いて、私たちは無言のまま熱い口づけを交わした。

「わぁ。お熱いねぇ」

 声でサタン様とわかって私はルシファーから離れた。

「な、なぜここに……」

「ここは僕の庭だし、ちょっと君たちに用があるの。あと、単純に面白そうだったから」

 最後の言葉が本音だな、と声音でわかった。全く食えない悪魔である。

「実は、マギーのお店が大変らしいんだよね」

「マギーさんたちが困ってるんですか!!?」

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