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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第四章 お屋敷での仕事

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再びのデート

 一人の男を皮切りに、エリィのもとに次々に獲物が集まる。

 着飾ったご婦人方にもぽつぽつと献上されてはいるようだが、私の比ではない。一時間でもうすでに山が3つできていた。うち、2つはルシファーによるものだ。

「あの、サタン様……」

「どうしたの、メイドのエリィちゃん」

「制限時間ってありましたっけ?」

「一応半日だけどね。白熱しちゃって延長戦もあるよ」

「今すぐやめにしません?」

「こーんなに楽しいのに?」

 私、やっぱりこの魔王様苦手っていうか嫌い寄りかも。

 そこへ。

「サタン様に拝謁したく存じます」

 ほら。来ちゃった。お局様みたいなのが。バッチバチのつけまつげ。厚化粧もいいところ。

「君、誰だっけ?」

「サタン様! 一夜を共にした私をお忘れになられたのですか。レヴィアタンでございます」

 大概にせーよ、この魔王様。

「この狩猟大会で不正が行われております! この女がテンプテーションで獲物を次々と……」

 サタン様は最後まで言わさず、魔力の圧で黙らせた。

「たった一晩遊んだだけでいい気にならないでくれる? それにこの子は魔法が使えない」

 隣に立っていた私は魔力の圧を受け、座り込んでしまっていた。頭がガンガンして吐き気がする。

「大丈夫か?」

 そこに現れたのはルシファーで、回復魔法をかけて頭をなでてくれた。

「サタン様、結果は目に見えています。今すぐ狩猟大会の中止を」

「そうだね、嫉妬の悪魔、レヴィアタンで僕も興ざめだし、それでいいよ」

 かくして狩猟大会でクイーンとなった私は伝説を作ることになった。




 獲物を容量無限大のマジックバッグに詰め込んで帰って、屋敷の料理長トニーに見せると文字通りひっくり返った。

「鮮度の落ちないマジックバッグでよかった!」

 ひっくり返りながらもそう言っていて、これだけの食材が集まれば料理人冥利に尽きるんだろうなぁと私は思った。

「初めの一頭が俺でなかったのは悔しいが、クイーンにできたことは誇らしいな」

 廊下をルシファーと歩きながら、疑問をぶつける。

「なんで、こんなことが起きたんでしょう?」

 余談だが、サタン様はあの後リリス様に締め上げられていた。

「お前がメイド服姿だったからな、婚約は解消したのかと、希少な力をもつお前を囲い込みたい奴らであふれたんだろう」

 厄介な話である。

「それとも、正式に婚約発表するか?」

 今更ぁ? と口から飛び出そうになる。昨晩だって一睡もさせなかったくせに。

「それより……」

「それより?」

「また、デート行きたい……」

 今なら気にせずデートできるだろう。これまで事件ばっかりだったから。

「お前は可愛いことを言う」

 そう言って、ルシファーは私をお姫様抱っこして、自室に連れ込んだ。

 そしてベッドの淵に腰かけさせられる。

「やだ。今日はちゃんと寝る!」

「キスだけはだめか?」

 その切なそうな表情に絆されて、目をつむると唇が重なる。軽いキスだけで離れていく温かさに名残惜しそうに唇を触ると、ベッドに押し倒される。結局二徹することになるのだった。




 翌朝、ルシファーに念入りに回復魔法をかけてもらって、メイドとしての仕事を全うする。まるで何かを忘れたいかのように。

 ルシファーったら、油断も隙もありゃしないわ!

 本人は回復魔法でケロっとしているのがますます解せない。あぁ、でも今日から魔王城に執政官として仕事をしに行くんだったか。これだけ元気なら明日から城へ来いとサタン様に言われたのだ。

 忙しくなる前に、甘えたかったのかな。

 はぁ、っと口からため息がまろび出る。

「デートは無理かぁ……」

「デートがどうかしたんですか?」

 振り返るとアモンさんが立っていた。

 聞かれてた!

「いえ、その……」

「旦那様のデートの予定なら、今日の午後に組み込まれていますが」

「え」

「なんでも、森に紅葉狩りに行くからとトニーにも料理を用意させています」

 根回しが速すぎる。

「私も今日の朝、突然組み込んでおけと言われ、困惑していたのですが……」

 そこで言葉を切ったアモンさんは、とびきりの笑顔で言った。

「愛されてますね、エリィ」

 嫌味ではない、だからこそたちが悪いとも言えた。




 魔王城の東に位置する森は、魔獣が少なく希少な食べ物がとれるドラゴンフォレストと呼ばれる地帯だ。ただし、そこに入る許可は魔王サタン様直々にもらわなければいけない。

「よく今日の朝で許可もらえましたね……」

「アレの扱いはよくわかっているからな」

 木々の葉は赤や黄色に色づいて、秋らしい様相を見せていた。手入れが十分で、息をのむほど美しい。

 しかし、私と言えば依然メイド服のままだ。仕方なかったのだ、急いでルシファーの屋敷のメイドになって、働いて。着るものはメイド服しかなかった。これでは、主人と使用人が歩いているようにしか見えない。

 もっと、着るものに気を配って来ればよかった。

「浮かない顔だな。メイド服なのが気になるか?」

「気づいてたんですか」

「景色を見るより、メイド服の裾をいじっていたからな」

 あぁ、恥ずかしい。せっかくのデートなのに。

「少なくとも俺は気にしない。それよりデートを楽しんでくれ。眺めはここがいいな、ここにシートを敷いて、軽食にしようか」


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