狩猟大会のお誘い
ルシファーが目覚めたという知らせは屋敷中に轟いた。
仕事を放って、使用人全員が面会に来た。
「やっぱり、エリィ様の愛ですね」
「なんでも聖水を盛られているのに気付いたのもエリィ様とか」
部屋が一気にうるさくなって、ルシファーは眉間にしわを作る。そして一喝した。
「お前ら、仕事に戻れ!」
「やっと静かになった……」
ため息をつきながら、深くベッドに沈んでいく。
「コーヒーのお代わりはいりませんか」
「お前の口移しで頼む」
そうして、口移しという名目のキスを何回もして、私たちは笑い合った。
「まだ、体が動かせないが……面倒はお前が見てくれるのだな?」
「ルシファーの言った通り、メイドになったんだからね」
「あぁ、俺の言った通りだな。できることなら、アルバトロスで軽食をつまみながらお前の淹れたコーヒーを飲みたいところだな」
私は首を振って、またコーヒーを口移しで飲ませた。
「これで我慢して」
一週間後の事。
「なんだか、エリィの淹れた紅茶を飲むと、元気が出るわ」
「そうよね、あたしも思ってた!」
ルシファーの魔力を取り込んだおかげで体が自在に動くようになった私は、どうやら作った食べ物にもマナが含まれるようになっていたらしい。料理長のトニーに頼み込んで、オムライスを作らせてもらい、コーヒーと一緒にルシファーに出した。
「たぶん、美味しいと思う……」
味見したときは大丈夫だったはずだ。
立ち上がれるようになったルシファーは、わざわざ食堂まで来ていた。
しげしげと出されたオムライスを見ている。
「形は崩れたけど、マナも入ってるし!」
「そこまで言うなら食べてみるか」
一口頬張ると。
「あぁ、美味しい。お前の味がする」
一言余計じゃありません? なんか卑猥に聞こえたのは私が毒されたせいかしら。
「コーヒーともよく合うな」
「もう、秋ですから。ホットがいいかと思いまして」
「秋と言えば狩猟大会があったな」
「まさか、その体で参加するつもりですか……」
サタン様から、招待状は来ていた。でも、いつものサタン様とは違って、これたらでいいよ、と配慮してくれた。ただ問題は。
「私にも招待状来てるんですよね……」
秋の狩猟大会は、武功を知らしめるためのものだ。
「私、魔法使えないのに」
「いや、あの人のことだ。大方コーヒーを淹れろということだ」
「そんなことってあるんですか」
「今現在は『メイド』だからな」
確かにあの悪魔ならやりかねない。
「その招待状、持ってきてみろ」
招待状をルシファーに見せると、すぐに隠し文字があったことが分かった。そして最悪なことに、サタン様のコーヒーを淹れろ、ということらしい。
「ルシファーの予想通りだったね」
「開催は2週間後か。まあその頃には俺も全快しているだろうし」
「そんなに早く?」
「最愛の悪魔が回復させてくれるからな」
高い高い、糖度が高い。両思いだとわかってから、ルシファーの囁きは留まることを知らない。
「それにその頃にはお前の深くまでまた感じられるようになってるな」
周りの使用人にばれないように耳打ちされた。
デレが強くないですか、この悪魔。
そして狩猟大会当日。
「昨日は結局一睡もできなかったが、大丈夫か?」
「その犯人がいう言葉ですか!?」
ルシファーは笑って私に回復魔法をかけた。疲れが一気に取れて、私は疑問に思ったことを口にした。
「回復魔法では、浄化の傷を癒すことはできないんですか?」
「浄化自体が回復だからな。悪魔には逆だが」
「なるほど……」
「だから、その浄化の傷すら治すお前の力は特別なんだよ」
塵になって消えるもんなぁ、浄化。バアルのことを思い出して、私は思わずぞっとした。
「ところで狩猟大会でクイーンを決めるのは知ってるか?」
「クイーン?」
「仕留めた獲物を一番多く献上された女性が狩猟大会のクイーンだ」
これは女性の間での武功ってことかな……あまり関わりたくない。勘が言っている、絶対面倒なことになる、と。
「俺が狩った獲物はお前にくれてやる」
「え」
「不服か?」
「いえ、ちょっと面倒なことが起きないと良いなって」
着飾った女性陣を眺めながら、メイド服姿の私はため息をついた。
「あはは、ルシファー、気張って行ったねぇ」
「ソウデスネ」
私はお湯を沸かしながら魔導ミルでコーヒー豆をひいていた。サタン様は今日もラフな格好で豪華な椅子に腰かけている。天蓋も張ってあって、一番目を引く。
視線が痛いわぁ。興味だけならまだしも嫉妬という視線もある。
あのパーティでルシファーの伴侶になると披露されたも同然であり、命を救ったともなれば嫉妬心が起きるのも当然だ。
しかしである。
なんであの女、サタン様の隣でメイドしてんのよ!
これが総意だと思われる。
サタン様はチャラい。浮気もしていて、リリス様がそのたびにシメているとのことだ。
なんでモテるんだろ、この悪魔。少なくとも私はどちらかと言えば苦手だ。
「コーヒーできました」
その時である。
一人の男性悪魔がコカトリスをもって近づいてくる。方角間違ってませんか。明らかに私を凝視してるんですけど。
「エリィさん、これ、受け取ってください」
今何とおっしゃられましたか?
「はい?」
「献上品です!」




