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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第三章 再会とコーヒーの秘密

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種明かし

 そんな……ずっと守られていたなんて。

「へぇ、驚いた? ボクには忌々しくてたまらなかったけど。でも、君があの店でコーヒーを淹れるようになってから、あの男が動いたからね。ボクにとってはラッキーだった」

「ルシファー様は同胞に優しいだけで、私は……」

 そう口にしたけれど、もう自分がルシファー様にとって特別なのはわかり切っていた。コーヒーを褒められたこと、胸躍らせたデート、お守りのブレスレット。

 後から後から湧き出るたくさんの思い出に涙が滲んできた。

「アハハ、悔しいかい、ここで死ぬのが。誇り高き純血の悪魔であるボクの手に掛かって死ぬのを光栄に思えよ」

 その時だった。ボウっと空間移動の魔法陣が部屋の隅に浮かび上がって、赤髪の隻眼女性悪魔が現れた。

「バアル、いたぶるのはそれまでにしておけ」

「なんだよアモン、今いいところなのに」

 アモンという名は聞いたことがある。ルシファー様と同じ執政官だ。魔界はいわば、純血悪魔派と堕天使派が派閥を争っていた。

「この間の堕天使売却リストが見当たらなくてな」

 やっぱり、バアルが堕天使の売買に関与していた!

「あぁ、お前は売買はされないから安心しろよ、ボクが直々に拷問してやるから」

 嬉々として叫ぶバアルにアモンと呼ばれた隻眼の女性はため息をついて呆れたようだった。

「アモン、お前はリストの行方を追え。おそらくルシファーが何かしら動いたんだろう。サタン様のお耳に入る前に何とかしておけ」

「わかった、あまり羽目を外しすぎるなよ」

 そう言ったアモンは、私に軽く目くばせして見せた。私が疑問に思った刹那。

 部屋全体に空間魔法陣が発動して青白く発光した。




「やぁ、僕の城へようこそ!」

 茫然とあたりを見回すと、一段と高くなった場所の豪奢な玉座にサタン様が座っていた。両側にそびえる大きな柱たち。初めてきた場所だけれど、それでもわかる。魔王城だ。

「エリィは、魔王城は初めてかな? まぁいいや。引きこもりのバアル、君に用があって呼んだんだから」

 バアルはわなわなと震えている。まさかの展開だったのだろう。

「エリィ!」

 そこに聞きなれた声がした。

「ルシファー様!」

 駆け寄ってきたルシファー様が私の手の拘束を魔法の炎で焼き切った。そして、身を起こしてくれると、ぎゅっと抱きしめる。私も無我夢中でその胸に抱き着く。

「無事でよかった……」

 おでこにキスされて、私は顔を真っ赤にした。

「これで付き合ってないっていうなら、何だってんだ」

「師匠!」

 いつの間にか師匠もこの場にいた。私は思わず離れようとしたが、ルシファー様が放してくれない。

「私も同感だわ、ベルゼブブ」

「アモン、お前もか」

「わー、僕抜きでいちゃついてるー」

 壇上から飄々とした声が降ってくる。しかし、その和やかなムードを壊したのは、バアルの声だった。

「なぜですか、サタン様! なぜこのような下賤の者たちを庇うのですか!」

「あー、やっぱり君は堕天使が気に入らないんだね、バアル」

「誇り高き純血の中でも最高の魔力を持つ貴方様ならわかると思っていたのに」

 バアルの姿が変貌して、蝙蝠の羽、3本の角、肌も灰色に変わり髪も伸びていた。そして高く跳躍したかと思うと、サタン様に飛び掛かっていた。

 しかし。

「君の全力ってこんなもの?」

 おそらくバアルの放った赤い光をまとった渾身の一撃は、サタン様に指一本で止められていた。

「ルシファーは僕と互角だったよ?」

 そして、サタン様がすっと片手で振り払うようにすると、バアルは遠くの壁まで吹き飛んでめり込んだ。サタン様はそのまま動かなくなったのを確認すると、こちらに視線をよこす。

「それで、アモン。リストの入手と堕天使たちの保護は?」

「つつがなく」

 敬礼して答えたアモンは、畏怖からだろう、小刻みに震えていた。

「だって、ルシファー。よかったね、エリィも無事で」

「無茶な作戦をさせたサタン様には俺から苦言を呈させてもらってもいいですか」

 ルシファー様が怒気を隠しもしないでサタン様に告げる。

「やだー。ルシファーの話、長いんだもん」

「作戦……?」

 思わずぽかんとした私に視線をよこしたルシファー様は私に片膝をついて頭を下げた。

「すまない、エリィ。今回の件はあのアホが立てた作戦だ。お前が無事でほんとによかった」

 そして立ち上がるとまた抱きしめてくる。まるで私の存在を確かめるかのように。私はその胸に抱かれながら、目を回していた。

 じゃあ、あの時マギーさんがひどく心配そうにしていたのは。あれも混みでみんなでグルになって、私を囮にしたってこと!

 怒っていいのか、笑っていいのかわからないまま硬直していると。

 壁際から爆発音がした。

「バアル、君も懲りないね」

 どうやら壁から抜け出したバアルがよろよろとこちらへ向かって歩いてくる。

「悪魔は純血であるべきだ。原初の悪魔の姿をした、アスモデウスのように」

「サタン様、浄化を行っても?」

 悪魔は浄化されたら、存在が抹消してしまう。堕天使であるルシファー様は、どうやら浄化ができるらしい。

「うん、いいよ、やっちゃって」

 魔王城に、悲痛な叫び声が響いた。


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