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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第三章 再会とコーヒーの秘密

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再会

「ハハハ、マギーの店だったのか、そりゃ美味そうな匂いがするわけだ!」

 そう言って、ベルゼブブと呼ばれた男は卓上の食べ物を食い尽くしていく。ミントグリーンの髪をポニーテールに結い上げ、髭の生えた口には朝食だったオムライスが付いている。

「ちょっと、アタシたちの朝ごはん食べつくさないでくれる?」

「いいだろ、減るもんじゃないし。いや、減るな! ハハハ、そうだ、エリィ、コーヒーを淹れてくれ」

 マギーさんがため息をつく。

「はい、師匠」

「へ、師匠?」

 目をまん丸に見開いて、マギーさんが私に問う。

「私にコーヒーの淹れ方を教えてくれた師匠なんですよ」

 そう答えつつ、私は丁寧にコーヒーを淹れていく。立ち上る湯気が遠い昔を思い出させてくれる。

「あとは、食べられる野草なんかを教えてくれたり。私が生きてこれたのは、師匠のおかげなんです。はい、できました、コーヒーです」

 そう言って師匠であるベルゼブブにコーヒーを渡す。

「どれどれ……うん、ちゃんと美味しいな! お前はコーヒーだけは免許皆伝だったからなぁ」

「お褒めに預かり、光栄です!」

 やり取りを見ていたマギーさんが、より大きくため息をつく。

「ところで300年もどこに行ってたのよ、こっちは厨房回すの必死だったんだからね」

「あぁ、魔王城の厨房か。オレが抜けたところでお前が回すだろうと思ってたからな」

 マギーさん、魔王城の厨房に居たんだ、どおりで。

 そこで、とうとう師匠が卓上のごはんを食べつくした。

「ごちそうさん!」

「って、あぁもう。ご飯作り直しじゃないの……ベルゼブブ、アナタ今日からここで働きなさい!」




「6番卓、ペペロンチーノとオムライスです!」

 ランチタイムの営業はいつもと変わらず大盛況。でも、それを見事に回しているのは師匠の料理術。素早い包丁さばきに、ホールもバッシングも完璧。

 私は注文を取り、コーヒーを淹れるだけである。

 魔王城の厨房に居たって、伊達じゃないんだなぁ。

 と、その時、修復されたドアのベルがカランと鳴った。

「コーヒーと軽くつまめるものをいただきたい」

「ルシファー様!」

 思わず駆け寄ると、ルシファー様は優しく微笑みかけてくれる。

「お、見ねえ顔だな。エリィの恋人か?」

 師匠が遠慮なしに突っ込んで私とルシファー様は思わず顔をそらす。

「ちょ、ちょっとベルゼブブ……あんたぶっこみすぎよ! それに300年経った今ならアナタのほうがよっぽど昔の悪魔よ!」

「なんだ、悪かったなぁ、エリィ」

「それより店を回してちょうだい!」

 マギーさんに叱られた師匠は、しょぼくれながら軽快に玉ねぎをみじん切りにしていく。

「ベルゼブブと呼んでいたが、本当にあのベルゼブブなのか?」

 ルシファー様が小声で私に聞いてくる。

「はい」

「そうか、魔王城の初代料理長が戻ってきたか」

「えっ、師匠って料理長だったんですか?」

「うん? ベルゼブブはエリィの師匠なのか?」

 お互いに情報不足だ。私は空いていたカウンター席にルシファー様を通す。

「えっと、どこからお話しましょうか……」

「コーヒーを淹れながらでいい、話してくれ」




「どうしよう、この草も美味しくない……」

400年前の魔界。私は森の中で魔獣に怯えながら食べられるものを探していた。

「お父さんもお母さんも一週間帰ってこないし。ここに居てねって言われたのに」

 捨てられたのだと、頭ではわかっていた。それでも生きていたかった。私が天使みたいな姿じゃなかったら、愛してくれたのかな。金髪翠眼。あまりに悪魔離れした容姿に、みな気味悪がった。それでも、拾ってくれた義両親には感謝していた。出されたものを食べて、気づいた時には白い羽が黒くなっていたけれども。

 私にはここに来るまでの記憶があまりない。どこかで、美しい人に見とれて足を踏み外したような気がするが。

「お前、子供がこんなところで何してるんだ?」

 振り向けば、ミントグリーンの髪の大男が私を見下ろしていた。

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