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はじまりに一杯のコーヒーを 〜上級悪魔は、私にもう一度笑う理由をくれた〜  作者: 長良リコ
第二章 飛び込んできたトラブル

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これで終わりだと思ったのに

「さぁて、この騒動、僕の右腕ならどう処理する?」

 ステージからサタン様がぴょいっとフロアに降りてきた。襲い掛かってきた観客はさっと道を開ける。ステージ上ではいまだにアスモデウス様が泣いているし、もはやライブをしていたとは思えない。

「アスモデウスは魔界から追放、人間界で人間として生まれ変わらせて、自身の心身の醜さを自覚してもらおうか」

「ん、そこ、拘るね。元は君たち堕天使が来て美的感覚が変わったのに。昔は君の言う醜い悪魔こそ誇りだったのにねえ」

 サタン様がからかうように言った。

 原初の悪魔。ルシファー様はアスモデウス様をそう呼んだ。

 そう、だから、天使みたいな金髪翠眼をした私は100年苦しんだ。堕天使たちが堕ちてくる300年前まで。義両親にも見捨てられて。あ、でもあの人だけは――

 ふっと過去に囚われそうになった時。

「力でサタン様に一撃喰らわせたのを忘れたとは言わせませんよ?」

「ふふ、そうだったね。じゃ、残りの共犯者は?」

「観客たちは洗脳されていました。執行猶予を」

 大勢から安堵のどよめきが起きた。

「じゃ、これは?」

 そう言ってサタン様が指さしたのはアレウス君で。

 私は、ルシファー様がこぶしを握りしめたのを見逃さなかった。けど、殴るよりも前にこう告げた。

「私闘共犯罪で100年投獄、強制労働」

「はぁい、よくできました」

 サタン様が手をぱちぱち叩く。アレウス君は顔を真っ青にして叫んだ。

「そんな、俺は騙されていただけで……」

「それが好きな女ともども殺されそうになった言い訳か?」

「っ!」

 黙りこくったアレウス君だったが。

「この腑抜け野郎!」

 ルシファー様の代わりだろうか、マギーさんが一発お見舞いした。

「サタン様、ルシファー様、わたくしの愚妹が起こした不祥事、寛大な処置をいただきありがとうございます。アスモデウス! しっかり反省してくるのよ!」

「そんな、お兄ちゃん……見捨てないで。魔力もないのよ、これじゃ人間界に行っても……」

 言葉の途中で、アスモデウスの姿が消えた。

「刑の執行は迅速に、でしょう?」

 ルシファー様がうやうやしくサタン様にお辞儀した。気づけば、アレウス君の姿もなかった。




 ライブハウスの騒動から一夜明けて。コーヒーの湯気立つ朝食の席でマギーさんは大きな伸びをした。

「ふあぁ、エリィ、よく眠れた?」

「う、いろんなことがありすぎてあんまり」

 あの時、少しだけどルシファー様に抱きしめられたんだよな。

「どうしたの、あんた顔真っ赤よ?」

 あぁ、これはわかって言っている。上がった口角がその証拠だ。

「なんでもありません!」

「でも、まさかアンタがアタシを庇うとは思わなかったわ」

 そう言われてデコピンされた。

「あれは必死で!」

「でも、もうしちゃだめ。アンタは弱い。それに……私の安易な判断で殺されるところだった。妹が何かしてくるのはわかってた。なのに、高を括ってた」

 そう言って、マギーさんは椅子から立ち上がると頭を下げてきた。

「ごめんなさい。エリィの幸せを願ってたのに」

 思わず私も椅子から立ち上がる。

「そんな、謝らないでくださいよ!」

「だって、殺されかけたのよ?! アタシを憎んでも当然なのに……」

「ほんとは、妹さんが人間界に行かされて寂しいんじゃないですか?」

「っ!」

 頭を下げていたマギーさんが体勢を戻し、私を見つめる。

「アンタの言う通りね……あれだけ問題児だったのに、いなくなると寂しいものね」

 その妹にマギーさんも殺されかけたんだけどなぁ、と頭の隅をよぎったが無粋なことは言わない。

「あ、あのホールと厨房の人員を募集しなきゃならないんじゃないですか?」

「うーん。しばらく営業をやめなくちゃならないかしら」

 その時。バキン、カラン、とアルバトロスのドアが破壊される音が聞こえた。

「え、何よ!!」

 二人で急いで音のした出入り口に駆け付けると。

 緑色の髪をした大男がドアを壊していた。

「ここからうまそうな匂いがした」

「だからって……ってアンタ、もしかして、ベルゼブブ!」

 その名を聞いて、私は心臓が飛び出るかと思った。

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