守り手
「オ、オレはエリィを守る!」
オレの雄姿を見れば、エリィは俺になびく。そう教えられた。
「みんな、ここはオレに免じて手を引いてくれないか?」
しかし、オレの歌でノリにノッていただろうファンたちは誰も態度を変えなかった。
え、ここで洗脳を解くって手筈じゃ!
「あっはっはっは、ご愁傷……ざまぁ!!」
ステージ上から、大量のナイフや銃など凶器がフロアに投げ込まれる。
「アンタも目障りだったのよ、その小娘に入れ込んで!」
「そんな、約束と違え!」
「みんな~、その3人をずたずたに切り裂いたり、好きなようにしちゃっていいよぉ」
アスモデウス様がステージ上から武器を投げ込んだ瞬間、私はブレスレットのチャームを握りしめた。どうか、どうかお守りください。その瞬間、ブレスレットが砕け散った。
「はは、三人もいたぶっていいのかよ」
眼前の男が、銃を手にこちらに向けてきた。恐怖に動けずにいると。
カチッと安全装置が外された音がして。
撃たれる……!
発砲音がしたその瞬間。
「俺の大事な人を傷つけようとしたのはお前か?」
「ルシファーさ、ま?」
目の前にルシファー様の大きな背中が見える。銃弾はというと、ルシファー様の手によって、ぐしゃりとつぶされて床にコロンと落ちた。
その様子と魔力の圧に押された観衆が後ずさりをする。
「な、なによ、さっさとやっちゃいなさい!」
「アスモデウス、お前は俺を本気で怒らせた」
ごう、と濃厚な魔力の風が吹いた。
「っ!」
アスモデウス様を筆頭に誰もが膝をついた。人間を模した姿から、悪魔の本来の姿になったルシファー様は、長い黒髪に六枚の黒い翼があった。頭には2本の角。いつも澄んだ青い瞳は赤く染まっており、その怒りがいかほどのものかを他者に知らしめる。
「アスモデウス、お前の姿は偽りだろう?」
「い、いや、あの姿だけは……」
ルシファー様の差し出した右手のひらから、薄紫の美しい炎がアスモデウス様に襲い掛かる。
「ぎゃああぁ」
燃え続けるアスモデウス様の姿が変容していく。
身体は膨張し、肌はいぼだらけ、腐臭がし、顔はうじが沸いている。
「原初の悪魔の姿だな。醜い」
ルシファー様がそう言った途端。
パン、と炎がはじけた。
「醜いなんて、やっぱり堕天使には天使の美的感覚が残ってるんだろうね」
気づけば、アスモデウス様の上空に寝そべったサタン様が浮かんでいる。いつの間に来たのだろう。
「サタン様、いくらあなたでも今の俺は止められませんよ?」
「うーん、僕も止めたくなかったけど、今の魔界の法律では私闘は禁じたろう?」
その間にも、アスモデウス様は自らの姿に泣きじゃくっていた。
「それとも僕と一戦交えるかい?」
にっこり笑ったサタン様は、裏腹にどす黒い魔力のオーラを放つ。
本気なのだろう。魔力の圧で震えが止まらない。
「あの日の再現ですか、私がサタン様に決闘を申し込んだときの。生憎とエリィを怖がらせたくないのでお断りします」
「そっかー、ざんねーん」
サタン様が魔力をひっこめて、ステージに降り立つ。私に向き直ったルシファー様はいつものルシファー様だった。
「エリィ、大丈夫か?」
「はい。あの、どうしてルシファー様が?」
「俺を呼んだだろう? そのブレスレットで」
あれ、防犯ブザーみたいなものだったんだ。
思わずきょとんとしていると頭を優しく撫でられる。
「よく耐えたな」
その言葉に、今頃になって涙があふれてきた。死を覚悟した瞬間がフラッシュバックして、ぽろぽろとしずくが頬を伝う。
「すまない」
ルシファー様はへたり込んだ私に目線を合わせて抱き寄せた。
「いえ、ありがとうございます、私を助けてくれて」
思わずしがみついてしまった。
「んんー。お二人さん、アタシたちのこと忘れてない?」
マギーさんが咳払いしながら、周りを見回すしぐさをする。
私たちはというと、大量の観客に囲まれながら抱き合っていた。
「す、すみません!」




