第25話~第27話
第二十五話:双焔の業火と、地を割る英雄の目覚め
兵士たちの決死の抵抗により、わずかに速度を落としたものの、『岩食い蟲』は依然として南門の外壁へ向かって猛進し、周囲のすべてを容赦なく破壊し尽くしていた。
だがその時、狂暴な二色の焔を纏った俺――ハナシ・リョウガが巨獣の背後へと肉薄した。
俺は神速のステップで奴の巨大な**尾**を素手で掴み取り、その凄まじい巨体を強引にその場に繋ぎ止めた。
「キシャァァァァッ!」
岩食い蟲は激怒し、数千の牙が並ぶ凶悪な大顎を開いて俺に喰らいつこうとする。しかし、俺はそれを恐れることなく、怒涛の連続拳撃を叩き込んだ。
一撃、また一撃。俺の拳が唸りを上げるたび、ある時は紅蓮の爆炎が、ある時は凍てつく蒼き氷の炎が、巨獣の頑強な皮膚の上で炸裂した。
俺は信じ難いほどの怒りと力で、その巨獣を何度も周囲の地面や障害物へと叩きつけ、【最速スキル】によって奴が地面に激突するよりも早く先回りし、逆方向へと再び拳で吹き飛ばした。
その戦闘の凄まじさに、周囲の兵士や冒険者たちは巻き添えを恐れて一斉に距離を取った。
俺の拳から放たれる二色の炎は、夜空高くへと噴き上がり、まるでその一帯が本物の地獄へと変貌したかのようだった。漆黒の夜は完全に消し飛び、まるで太陽が昇ったかのような眩い光が戦場を照らし出す。
俺の拳は溶岩の如き熱量で巨獣の肉体を焼き、融解させていく。あまりの神速ゆえ、誰一人としてその正確な打撃を目撃することはできなかった。
ドガァァンッ!! とついに地面に沈み、身動きの取れなくなった巨獣の頭部へ、俺は飛び乗った。
正式に奴の巨大な三層の大顎に両手をかけると、全身の魔力を爆発させて、その口を真っ二つに引き裂いた。
「――終わりだ」
巨獣が絶命したその瞬間、俺の身体から二色の焔が消え失せた。俺は異質な紋様を浮かべた姿のまま、キングラッドやタリンの方を静かに見つめ、次の瞬間、糸が切れた人形のように激しい魔力枯渇の反動で地面へと崩れ落ち、意識を失った。
「リョウガ!!」
タリンとキングラッドが血相を変えて俺の元へと駆け寄る。
周囲の兵士たちは、先ほどまで街を滅ぼしようとしていたゴールド・Bランクの巨獣が無残な死体と化している光景を前に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「おい……嘘だろ。あの怪物が、わずか数分で全滅させられたぞ……」
「神々の加護か……? いや、彼は……この国の『英雄』だ! 英雄が帰ってきたんだ!」
未だに信じられないといった面持ちの守備隊長が、巨獣の死体へと近づき、それが完全に絶命していることを確認した。彼は歓喜の声を張り上げた。「本当に仕留めおった……! おい、直ちに**『緑色の魔導矢』**を天高く放て! 街の中の怪物は討伐されたと知らせるんだ!」
指示を受けた兵士が急ぎ矢を放った。
シュウゥゥゥッ……ドォン!
夜空が鮮やかな緑色に染まる。城の軍事会議室にいたガレス様や各指揮官たちは、この緑の光を見たことで、約束通り市街地の危機が完全に去ったことを確信し、安堵の息を漏らした。これで壁の上の全戦力を外敵へと集中できる。
まもなく、前線から駆けつけた将軍や熟練の兵士たちが現場に到着した。彼らは、まるで二頭の超巨大な魔獣が殺し合ったかのような凄まじいクレーターと地形の破壊、外敵を迎え撃つはずの南門の手前で横たわる巨獣の死体を見て、目玉が飛び出さんばかりに驚愕した。
高官の一人が守備隊長に詰め寄る。「隊長! 一体どうやってこの怪物を倒したのだ! 部隊の被害は!?」
「閣下……倒したのは我々ではありません。今、あそこで倒れているあの少年が、たった一人でこの巨獣を粉砕したのです」
守備隊長が指し示した先には、気絶した俺の姿があった。
高官は俺を見つめ、驚きを隠せない様子で呟いた。「馬鹿な……こんなに若く、脆弱に見える少年が、たった一人でBランクのゴールドを……?」
しかし、彼はすぐに表情を引き締め、兵士たちに命令を下した。「状況は理解した! だが本隊は未だ南門の外壁で交戦中だ! 全員、作戦通り外壁へ向かい、防衛戦に加われ!」
「はっ!」兵士たちは一斉に南門へと走り去っていった。
その頃、俺の傍らにいたキングラッドとタリンは、俺を静かな場所へと運び、軍属の治癒魔術師たちに必死に助けを求めていた。
「頼む、早くこの少年を治療してくれ! 彼はこの街の英雄だ!」キングラッドが叫ぶ。
タリンもまた、誇らしげで、しかしどこか畏敬の念を抱いた目で俺を見つめていた。
「リョウガ……お前は、ドワーフの軍隊が総力を挙げなければ倒せねえような化け物を、たった一人で仕留めちまった。お前は本物の英雄だ。お前と共に戦えることを、俺は心から誇りに思うぜ」
高官の許可を得た治癒魔術師たちが急ぎ駆けつけ、俺の身体に温かい回復魔法を注ぎ込み始めた。
激しい魔力の衝突と過負荷に耐えた俺の肉体は、彼らの治療を受けながら、一時間ほどの時間をかけて、ゆっくりと、静かにその眼の瞼を開けるのだった。
【ステータス更新/ 龍牙システム】
『ゴールド・Bランク「岩食い蟲」の討伐、およびプラチナ・Bランク魔石2個、詳細不明の黒の魔石1個の完全吸収を検知しました』
『肉体の再構築が完了。ハナシ・リョウガのレベルが大幅に向上しました』
プレイヤーレベル (Level): 25 ➔ 35 (UP!)
固有魔法 (Magic):
【影魔法】 ➔ Level 5 (UP!)
【新覚醒・双焔魔導(火・水複合)/ 火と水の魔法が融合】 ➔ Level 1 (NEW! )
保有魔眼 (Magic Eyes):
【第一の魔眼:分析の魔眼】 ➔ Level 5
【第二の魔眼:合成の魔眼】 ➔ Level 3
物理ステータス (Physical Status):
筋力(体力): (モンスターの骨の鎧を超える肉体的な強さを得る) +80
敏捷( スピードと敏捷性):( あなたの身体の物理的な加速度は、絶対速度に近づいています)+ 120
称号(有効なタイトル):【魔狼の英雄 / オオカミの英雄、ムジャヒディン】
第二十六話:戦鼓の響きと、壁を越える巨躯
軍属の治癒魔術師たちの手によって、ようやく俺――ハナシ・リョウガが瞼を開けると、すぐ目の前にタリンとキングラッドが心配そうに座り込んでいるのが見えた。
俺はまだ重い身体を少し起こし、声を絞り出した。
「一体……何があったんだ。なぜ二人がここにいる?」
その瞬間、タリンが耳を劈くような大声を張り上げた。
「英雄ぉぉぉっ! お前、ついに目が覚めたか!!」
すかさずキングラッドが青筋を立てて怒鳴り返す。
「おい、この大馬鹿野郎! 気絶から覚めたばかりの奴の耳元で大声を出すんじゃねえ!!」
「んだとぉ!? お前だって今、俺よりデカい声出してんじゃねえか! 誰が大馬鹿野郎だ!」
「お前以外に誰がいる! この筋肉だるまが!」
「なんだと、この元騎士め! やんのか!?」
二人がまた掴み合いを始めようとした時、俺は頭を抑えながら低く冷たい声を放った。
「俺の耳元でギャーギャー騒ぐな。二人とも、いい加減にしろ」
俺の殺気に、二人はビクッと肩を震わせ、同時に頭を下げた。
「「す、すまん……。全部こいつのせいだ」」
その時、会話を打ち消すように、防壁の向こうから凄まじい「戦術の角笛(進軍のラッパ)」と重々しい戦鼓(太鼓)の音が響き渡り、天と地を激しく揺るがした。
南門の巨大な外壁の上では、武装した全ての兵士たちが一斉に持ち場へとつき、戦闘態勢を整えていた。彼らの顔は恐怖に引き攣っていたが、それでも武器を握る手に力を込めている。
壁の上に立つ将軍が、剣を抜いて叫んだ。
「王の盾の戦士たちよ! 我々はこの日のために血の滲むような訓練を重ね、この日のために命を懸けてきたのだ! 思い出せ、我らの父祖もまたこの地で魔物の大軍を迎え撃ち、この高き壁を守り抜いた。今度は我々の番だ! 生きて次の世代へ誇り高き背中を見せるのだ! 国王陛下万歳! アラマンドン王国万歳!!」
「「「おおおおおっ!! 万歳!!」」」
指揮官の檄によって兵士たちの胸に勇猛な炎が灯り、一斉に咆哮が上がった。
俺はキングラッドに向き直った。「今、戦況はどうなっている?」
キングラッドは表情を引き締め、壁の上を見上げて言った。
「魔物の本隊による外壁への総攻撃が、間もなく始まる。敵の数は文字通り雲霞の如くだ」
タリンも愛用の大斧を担ぎ直し、「俺たちも戦う準備をしようぜ」と言ってから、俺の身体を気遣うように視線を落とした。
「だがリョウガ、お前はさっきの激戦で魔力を使い果たし、身体もボロボロのはずだ。避難所の近くにある救護所へ行って、大人しく休んでな」
「断る」俺は一蹴した。「俺はここで休むために来たんじゃない。強くなるために、ここに立っているんだ」
なおも引き留めようとする二人の目を、俺は真っ直ぐに見据えた。
「……俺の力が、信じられないか?」
その言葉に、二人は言葉を失って沈黙した。
キングラッドが最初にフッと笑みを浮かべ、首を振った。「いや、俺たちは、お前の力を誰よりも心から信じているさ」
タリンも力強く頷いた。「おうよ! お前がそう言うなら、もう何も言わねえ!」
三人の意志が一つになったその時、壁の上から悲鳴に近い絶叫が響き渡った。
「敵襲――! 魔物の大群が壁に到達したぞ!!」
「王宮魔導士団、その力を示せ! 最大出力で放てぇっ!」指揮官の怒号が響く。
壁に並んだ魔術師たちが、一斉に高位の属性魔法を詠唱し、無数の光弾や火球が嵐のように敵群へと降り注いだ。ついに、本当の防衛戦が始まったのだ。
弓兵隊を率いる近衛隊長も、鋭い声を張り上げる。
「弓兵隊、構えろ! 矢を無駄にするな、確実に仕留めるんだ。……放てっ! 上空の飛行型を重点的に狙え!」
魔術師や弓兵たちが必死に攻撃を繰り出すが、押し寄せる魔物の群れはまるで底なしの沼のように、どれだけ倒しても数が減る気配がない。兵士たちの顔に絶望の色が濃くなり始めた、その時だった。
ズゥゥゥゥゥン……ッ!!!
大壁の強固な石造りの防壁すらも遥かに見下ろす、文字通り山のような巨躯が姿を現した。
それは、手にした巨大な岩の棍棒を引きずり、全身が硬固な岩石の皮膚で覆われた伝説の魔物――**『岩石トロール(ストーン・トロール)』**だった。
その身長は防壁の頂上をゆうに越えており、奴は凶暴な咆哮を上げながら、街を支える防壁そのものに向かって棍棒を振り上げた。
「あの巨躯を止めろ! 壁を破壊される前に、何としてでも討伐するんだ!!」
指揮官が血相を変えて叫ぶが、放たれる矢も魔法も、奴の岩の皮膚に当たっては虚しく弾け散るだけだった。絶望が壁の上を支配しようとした、その時――。
第二十七話:崩壊する防壁と、戦場へ跳ぶ孤狼
岩石トロール(ストーン・トロール)が巨大な棍棒を振り上げる中、最高指揮官は壁の上の防衛部隊に向かって声を枯らして叫んだ。
「二つの主塔のバリスタ(弩砲)部隊、構えろ! あの巨躯を狙え、放てぇっ!」
事前に装填を完了していた兵士たちが、指揮官の合図とともに巨大な魔導の矢を発射した。シュウゥゥゥッ! と空を切り裂いた巨矢がトロールの胸部に直撃し、その凄ましき衝撃で巨獣の巨体をわずかに後方へと押し戻す。
「よし、効果はあるぞ! 動きを止めるんだ、連射を続けろ!」
指揮官はさらに攻撃を命じたが、バリスタの巨矢はトロールの岩石の皮膚を少しも破壊できず、ただ奴の突進をわずかに遅らせる「目眩まし」にすぎなかった。
(クソッ……これでは奴を仕留められん。重要の重い矢の残数も少なくなってきた、兵たちの疲労も限界だ。一体どうすれば……!)
指揮官が激しい焦燥感から奥歯を噛み締めた、その瞬間だった。
ドォォォォォンッ!!!
地響きとともに、トロールの巨大な棍棒が南門の外壁へと叩きつけられた。凄まじい破壊音が轟き、頑強を誇った漆黒の防壁に巨大な「亀裂」が走り、崩落を始める。
衝撃で壁の上にいた数人の兵士たちが木端微塵になり、あるいは虚空へと投げ出されて真っ逆さまに落下していった。
それは息を呑むほど悍ましい光景だった。指揮官の眼に絶望がよぎった刹那、その開いた から、外に群れていた魔物どもが津波のように街の内部へと雪崩れ込んできたのだ。
「防衛線を築け! 一歩も通すな!」
市街地にいた歩兵部隊が即座に盾を並べて防壁を作り、突入してきた魔物どもを迎え撃つ。しかし、敵の侵攻の圧力は凄まじく、人間の力だけでは戦線を維持することすら困難だった。
その惨状を目にした俺――ハナシ・リョウガは、隣の二人に短く告げた。
「俺たちも行くぞ。戦線に加わるんだ」
「おうよ! 待ってましただぜ!」タリンが咆哮を上げる。
キングラッドも「合流する!」と叫び、二人は崩壊しかけた防衛線へと突撃していった。
キングラッドは自身の【風魔法】を発動し、大跳躍で魔物の群れの中心へと躍り出た。彼は手にした槍と斧を掲げ、怒号を響かせる。
「――天を統べる嵐よ、我が刃に宿りて敵を討て!」激しい突風を纏った彼の一撃が地面へと叩きつけられ、猛烈な「竜巻(竜巻)」が発生した。渦巻く風の刃が数十匹の魔物を一瞬にして切り刻み、屠っていく。
その戦いぶりに触発されたタリンもまた、地面に強く拳を叩きつけ、得意の【大地割断魔法】を発動した。「大地よ、その身を砕き、破滅の咆哮を轟かせろ!!」
ズズズズズッ! と激しい地割れが発生し、突入してきた魔物どもが次々と巨大な亀裂へと呑み込まれ、圧殺されていく。
二人の圧倒的な実力を目にしたことで、絶望しかけていた兵士たちの士気が爆発的に跳ね上がった。
「戦列を整えろ! 腕利きの冒険者たちに続け!」
兵士たちは再び強固な陣形を組み直し、迫り来る魔物の大軍を押し返し始める。
俺は体内に残るマナ(魔力)を感じ取りながら、一人静かに階段を駆け上がり、防壁の頂上へと向かった。壁の上から見下ろす戦場の全貌は、まさに凄惨の一言に尽きた。あらゆる種類の魔物が地平線を埋め尽くし、街を喰らい尽くそうとうごめいている。
その時、下の防衛線から守備隊長がタリンたちに向かって声を張り上げるのが聞こえた。
「ドワーフの戦士殿! そのまま敵を少しでも後方へ押し戻してくれ! あらかじめ魔力防壁用の石材ブロック(魔法のような ブロック)を積んだ馬車を用意してある! 奴らを押し戻せば、あのギャップ を一時的に封鎖できるんだ!」
その言葉を耳にした瞬間、俺の胸の奥で、再びあの黒い炎がパチパチと音を立てて燃え上がった。
(……今だ。これこそが、俺がさらに上の領域へと駆け上がるための絶好のチャンスだ。『岩食い蟲』を惨殺したあの瞬間、俺の中の『死への恐怖』は完全に消え失せた。失うものなんて、もう何もない)
俺の唇が、自然と冷酷な笑みの形へと歪んでいく。
俺は一切の躊躇を捨て、漆黒の壁の頂上から、魔物がひしめき合う眼下の巨大な裂け目へと向かって、真っ逆さまに身体を投げ出した――。




